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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 6 王と魔王と操りの神
100/196

51 竜と王子と力の定義




 王宮、鳳凰の間、談話室。


「――と、言うことがあったんですよー」


 そうのほほんと報告する笑顔の竜娘(ルーシー)に、俺達は思わずポカンとしてしまった。

 ……あ、クレア先生のこめかみが壮絶に青筋立ってる……


 俺達がいる王宮の客室は、好きに使ってくれて構わない、と宰相が用意してくれたものだ。王宮に戻ってすぐに隠密らしい人間に案内されたのだが、王宮にとっての俺達の立ち位置がどういうものなのか疑問だ。噂一つでは敵対の意思はもたない、というところだろうか。部屋のテーブルに籠一杯の魚型焼き菓子があるあたり、なかなかに俺を理解してくれていると言えるしな。ふふふ。俺の好感度が上がっちゃうぞ!


 しかし、現場らしき場所でルーシーを発見したのには驚いた。行方不明だって言ってたのに、わりとひょっこり現れるものである。……関係者一同はヒヤヒヤものだったんだがな……

 そのルーシーが『王子さん達のやりとりは見てたから知ってますよー』というので、家の関係施設を強烈な結界で囲んでから王宮に戻って来たのだが――


「ルーシー。ひとつ、答えなさい」


 ドガン、ドガン、と地響きと共に轟音をたてながら、我らがクレア先生がルーシーの前に立つ。正直、現状が怖すぎて誰も発言できやしない。

 轟音と振動の原因は、うっかり具現させてしまったらしい彼女の立派な尻尾(・・)だ。


「ぞ、ぞくちょー、す、すてきな尻尾、ですねー?」

「ありがとうございます。自慢の尻尾ですのよ。おしおきにもさ・い・て・き」

「ひィイイ!」


 震えあがったルーシーが身を縮めているが、俺達傍観者もひっそり身を縮めた。ついでに床を魔法で強化するのも忘れない。やばい。竜魔王の怒りで王宮が壊れたとかなったらシャレにならない……!


「あなた、いったい、いままで、どこで、なにを、していましたの?」

「え、えっとぉ……まりちゃんの所に、いた、かなー?」


 ちなみにその『まりちゃん』とやらは、今、リベリオと共に身柄を拘束した大神官とやらと話し合っているらしい。

 ……可愛い名前だな。人間の女友達か?


「そう。その『まりちゃん』とやらは――美味しかった(・・・・・・)ですか?」

「ぐほ!?」


 ロベルトが思わず紅茶を吹いた。


「おいロベルト……」

「ごほっ……げほっ……ちょ……やばい話だぞこれ」


 そうか。なにが『やばい』のか分らんが、お前の茶を被った俺の頭もやばい状態だぞ。……おっと、ポムよ。俺の髪を拭くのはもう少し優しい手つきでやりたまへ。


「うわぁ……こうなりますかー……何かやらかすとは思ってましたけど」


 俺の頭を拭きつつポムがすっごい半笑いの顔で言う。

 というか、何かやらかすと思ってたなら、もっと監督しっかりしような!?


「えっとー、それがですねー、最初来た時はすっごく美味しそうに見えたんですよねー。あ! 族長の旦那候補さんほどではないですよー? それでですねー、これはチャンスだと思ってですねー、(いえ)を突き止めて遊びに行ったんですけどねー、次に会ったときは最初ほどじゃなかったんですよねー。なんでですかねー?」

「存じません。……それで?」

「えっと、それでですねー、それでも美味しそうではあったんでー」

「……あったので?」


 にっこり微笑んで答えを促したクレア先生に、ルーシーはにこっと笑って言った。


「食っちゃいましたー」


 瞬間、目にもとまらぬ速さでクレア先生の尻尾(オシオキ)が炸裂した。


「状況を考えてお食べなさい!!」

「ぴゃあああ!?」

「第二王子を毒牙にかけるとか、何を考えているのですか!」

「ぶふぅ!?」

「……おい、レディオン……」


 思わず飲んでた茶を吹いた俺に、見事に被ったロベルトがものすごいジト目。

 無視!!


「まりちゃんって、男か!」

「ひィ。り、立派に男でしたよー」

「男か女か分らん呼び名だな!?」

「マリウスって名前なんですけど、それだと可愛くないのでー」


 可愛い呼び方に変換するのやめような!?

 というか、第二王子、マリウスって名前だったのか……


「坊ちゃん。頼みますから、人の名前を覚えるの、もう少し頑張りましょうね?」

「……う、うむ」


 ポムに窘められてしまった。なんで俺の頭は名前と顔を覚えこむのが苦手なんだろうな? 過去で縁の深い者達の記憶は完璧なのに、今生で初めて会う連中の情報が難しい……


「つーか、そういや、王子さんと会うきっかけがお前の所の商会じゃなかったっけ?」

「む。そういえば、ポムの報告にあったな、目をキラキラさせていたと」

「あの時に目をつけたんですねぇ……とはいえ、王子さん本体の能力はそこまで高くなかったと思いますけどね。人間にしては強い方ですが、ロベルトさんの半分にもなりませんよ?」

「ん? それは強さ的にはどうなんだ?」

「……つーか、俺を基準にするのヤメロ」


 仕方ないだろ。魔族基準でいくと軒並みアウトなんだから。


「……ん? だとすると、どこか突出して普通の魔族を凌駕する能力をあの王子が有しているということか?」

「ルーシーは鎧竜の性質が濃いですから、防御力特化型だと発情できますね」

「だが、魔族を凌駕するような防御力を並みの人間が持っているとは思えないが」

「ああ、分かりました」


 首を傾げた俺の横で、ポムが合点がいったらしい声をあげた。


「第一王子さんには発現してませんでしたけど、王様が【竜殺し】をもっていましたから。たぶん、第二王子さんも持ってるんじゃありませんか? あのあたりの細かい異能、どうでもよかったので記憶の片隅によけちゃってましたけど」

「ああ、成程。あれ相手だと竜族の能力激減するものな。そしてポムよ。そういう大事な異能はちゃんと覚えて報告しておいてくれ」

「坊ちゃんは自分の能力でちゃんと『視る』ことをまず癖づけましょうね? どうせ、王様の能力とかも調べてないんじゃないですか?」


 うん。そこは俺も反省しよう。

 ……いやでもこれ、誰かと会ったときに調べる癖がついてる奴じゃないと、使わずにおいちゃう能力じゃないか? そもそも、会った相手を即座に調べるなんてどんな神経してればやれるんだ? 会う人みな敵なの? 信用度ゼロなの?


「――って、呑気に話してるけど、それ大事じゃねぇのかよ!?」


 慌てて声をあげるロベルトに、俺達は顔を見合わせ、次いで苦笑した。


「【竜殺し】が脅威だったのは一昔前の話だ。今は対抗策があるからそこまで脅威じゃない。そこらの竜族ならともかく、竜魔族(・・・)だとそもそも能力はせいぜい半減程度だ。竜特化型の異能持ちだと危険だがな」


 アンチ系やキラー系能力はそもそもが特化型すぎて対抗策がとりやすいからな。


「あー。それでですかー。てことは、ちょっとマズったですねー?」

「……食べてから言うのはおやめなさい」

「えー? ですけどぞくちょー、【竜殺し】持ってるかどうかなんて見た目じゃ分かりませんよー?」

「能力が減退するから感覚で分かりますわよ!?」

「そうですかねー? 気怠いなー、ってぐらいでしたよー?」

「竜魔が気怠いって思う時点でおかしいとお気づきなさい!」


 全くだ。

 とはいえ、やってしまったものは仕方がない。ペロられた王子から文句が飛んでこないのなら、あえてこちらから問題にする必要は無いだろう。


「まぁ、王子さん側が何か言ってこない限りは、個人間の問題なんでスルーしておきましょうか。恋愛は自由ですしね」


 ……恋愛っていうか、捕食っていうか……いやまぁ、口には出すまい。


「……でも不思議なのは、ひんむいたらそこまで美味しそうでもなかったことですよねー?」

「すみませんがそこの発情期竜子さん。うちの坊ちゃんの実年齢考えて発言してもらえませんかね?」

「すみませんー。ああでも、食べれそうだったからそのままペロッちゃったんですよねー」


 ……ふむ。ということは、逆に考えれば【竜殺し】持ちがいれば発情を促して彼女達の難題を解決できる可能性が高いか。


「それって、裸にすると能力が下がるってことか?」

「そうですねー。最初の鎧姿の時が一番ムラムラしましたねー」

「……竜子さん?」

「ひぃゎゎごめんなさいですよー?」


 何やらポムの視線にルーシーが震え上がったが、俺はそちらに意識を払えなかった。というか、ものすごい簡単な図式が浮かんだのだ。


「装備ブーストか!」

「へ?」

「ロベルト、お前達人間は装備で能力を増大させるだろう? あれだ。服を脱がして本体だけにしたら下がる能力など、それしかあるまい」

「あー、武器とか防具で引き上げられた力との差か。……え? それだけで竜族ムラムラさせれんの?」

「ルーシーを見るにそういうことだろうな。我々魔族はお前達と違って装備で増強しようという発想がこれまであまり無かったからな……盲点だった」

「え……えー……? ていうか、そんな簡単に片が付く問題だったのかよ……」


 ロベルトが愕然とした顔をしているが、俺だって愕然だよ。

 自分の力を鍛えることにばかり目を向ける、俺達魔族の性質が災いしたとしか言いようがない。人間の真似もしてみるものだな。


「まぁ、素の状態になって以降、どれだけ体質を騙せれるかは不明だが」

「むしろ着衣プレイ前提ですねー?」

「竜子さん。発言に気を付けてくださいよ?」

「ひゎー!」


 ルーシーの言葉にポムが即座に注意する。まぁ、赤ん坊に聞かせるような話でないのは今更かな。ついでに俺の精神は三十男(オッサン)だから、そこまで気にする必要は無いんだが。


「まぁ、とりあえずの解決策は見えたな。まず、人間形態なのが大前提だ。その状態で、これぞという雄に能力増強効果のあるアクセサリーをつけさせてお見合いさせればいい」

「うわ、画期的というか、むしろ詐欺まがいな」


 詐欺言うな!


「なるほど。ちなみに、竜形態だと駄目な理由をお伺いしても?」

「体が大きすぎて材料費が(かさ)む」

「商人ェ……」


 俺の返事に質問者(シンクレア)でなくロベルトがげんなり顔になる。

 お前も商人なら費用対効果は考えるべきだろ!?


「では、竜形態に固執しない者の中から希望者を募ってみるべきですね。竜魔族同士の夫婦が増えると嬉しいですし」

「名案です。能力が上がりすぎることへの懸念もこれで抑えられます。ロベルトさんのハーレム計画と一緒にそちらの路線も進めましょう!」

「俺のハーレム計画はいらねぇからな!?」


 乗り気の魔族組にロベルトが悲鳴をあげているが、まぁ、無視だ。

 ん? 何かに気づいたらしくシンクレアをチラチラ見ているな? ……ほぉん?

 ロベルトよ。シンクレアに問いたいことがあるのだろう? 言ってもいいのよ?


「……」


 ……何も言わないな。流石は勇者(ヘタレ)。ここは気を回して気づかないフリをしてあげよう。魔王(おれ)の友情だとも。未来が楽しみだとも。むふふ。


「まぁ、ルーシーと王子のことはともかく……話を聞くに、我らの存在そのものが完全に王位継承権争いに関連してしまったな」

「まぁ、遅かれ早かれそうなるとは思いましたけど、『魔族』云々のくだりで関連しちゃったのは危険ですねぇ」


 俺とポムの声に、周囲も苦い顔で頷く。

 元々争いが酷くなりつつあった王位継承権争いが、ここにきて一気に激化する可能性は高い。しかも、今までは第二王子と第三王子がその筆頭だったのに、今は第一王子と第三王子の争いだ。おそらく、今までと違ってもっと過激な争いになるだろう。


「第二王子と第三王子の争いの場合、立ち位置こそ違うものの軍と教会、貴族同士で地力が同等でした。その結果、二つの陣営で正面切って争うことが無かったのです。相手を攻撃するにも正当な理由というのがありませんしね」


 人間社会の面白いところは、戦争を起こすのに『正当な理由』が無ければならないというところだろう。その『正当さ』は色々あって、正直言いがかりにしか見えないようなものでも勝てば言い張れたりするあたり、『建前さえあれば戦争してよし』にしか見えないがな。


「まぁ、サロンとかでは舌戦してたみたいですけどね。魔物被害が増えているが騎士団は休暇中なのかな? とか、神々の威光も地上の民の行いで薄れているのではないかな? とか」


 ……人間社会の舌戦、辛辣だな……


「ですが、ここにきて第一王子さんと、我々です。ぶっちゃけ、パッと見た時の地力の差が凄いです」

「向こうは大貴族が揃ってる上に教会も関わってるものな。しかも魔族云々のあたりで向こうさんがこっちに喧嘩ふっかける理由も手に入れた、ってとこか」

「そうです。第一王子さんは商会関係者に支持者多いですし、民衆人気も高めですけど、なにしろ『兵士』がいませんからね。対抗勢力としては傭兵を金で雇って、って形になると思いますが、まぁ、向こうから見たら『倒しやすい』と思われる陣営でしょう」


 言って、ポムは苦笑する。


「まぁ、ぶっちゃけ、戦いになったら我々がいる時点で向こうの惨敗は目に見えてるわけですけど」


 まぁね。

 そもそも、人類最強の勇者(ロベルト)がいる時点でアウトだろ。


「そもそも、次期魔王やら竜魔女王やら、世界最強クラスがいる陣営なんて、勇者パーティーでもなきゃ無理だろうしな」


 あれ。ロベルト、なんでお前自身じゃなくて俺達を理由にあげちゃうの?


「それを勇者本人が言いますか」

「いや、俺でも太刀打ちできねーよ。戦う気も無ぇけど」

「そうですよね。ロベルトさんは竜魔大ハーレム王になりますしね」

「なんか変な称号つけられてる!? つーか確定するなよな!?」

「まぁ、そのあたりはこれが終わったらきっちり計画をたてよう。それよりもまず今の問題だ」


 まだロベルトが「ちょっと待て」とか言っているが、無視だとも。


「向こうから見れば、俺達という存在はリオの巨大な金づるであり、同時に戦いをふっかけるいい口実だ。おそらく、そう遠くない未来にリオに対して戦いを宣言してくるだろう」

「……『神敵』発動か?」

「さてな。もともと、教会の動きは俺が思っていた以上に遅い(・・)。現段階でまだ『神敵』が発動していないあたりが気になるが……まぁ、発動されることも前提で動いたほうがよさそうだな」

「そういや、噂が流れた時点で動きがありそうなもんなのに、わりと動き遅いよな。お前さん達が賄賂渡したり弱者救済をやったりしたのが効果覿面だった――というだけじゃないよな、アレ」

「そこが不思議なんですよねぇ。もっと電光石火で『神敵』発動されると思ったんですけど。ほら、うちが分配してる蕎麦米汁で一人、死にかけた人出ちゃってましたし」


 なにそれ!? 思い切り初耳なんだけど!?


「ポム。その報告を俺は受けてないぞ!?」

「あ、忘れてました。坊ちゃんがアゴスティ家の方に行ってる間に起きた事件でして、ちゃんと状態異常回復で無事に回復しましたし、本人ともしっかり話し合って数日体調管理もしましたから問題にはならないかと。……ただ、こういうのも連中のネタにはなりそうだなぁ、と思いまして」


 ちゃんと報告しような!? 報告・連絡・相談は大事なんだぞ!?


「蕎麦ってことは、アレルギーか」

「ああ、ソレです。現場に私がいましたからすぐに対応しましたけど、他の魔族だとちょっと危なかったかもしれません。今度から蕎麦湯で先にアレルギーが無いかどうか調べないといけませんね」

「……なぁ、二人とも、尋ねたいんだが、蕎麦でアレルギーって、なんでだ?」

「え!?」


 俺の声にロベルトが仰天するが、分からないのだから仕方がない。アレルギーは分かるのだが。


「蕎麦だぞ!? 無茶苦茶酷いアレルギー出ることもあるだろ!?」

「そうなのか? 魔族で出た報告が無いから、アレはアレルギーのない食物だと思っていたのだが」


 メロンを食べて喉がイガイガするとかいうアレルギーは聞いたことがあるが、蕎麦はいないんだよな。


「どうも魔族はアレルギーもってないみたいなんですよね。混血の子で時々出るみたいですけど、メロンとか卵とか」

「完全耐性か……考えたら、花粉アレルギーでくしゃみする魔族とかって想像つかないもんな」

「かわりに自分の苦手な属性の魔法をくらった時に魔法アレルギー出ますけど。ダメージくらうよりキツイようですよ、アレ」

「アレルギーで済むのがおかしいな!? 攻撃魔法が可哀想だろ!?」

「防御力突破すればダメージはくらいますよ。そこに至る前に防がれちゃうだけで」

「あほみたいな防御力ェ……!!」


 ロベルトが唸っているが、防御力高いのはロベルトも同じだろうに……

 ちなみに俺はその魔法アレルギーすら無い。全属性に対して適性あるからな。……俺、それなのになんで前世では殺されたんだろう……いや、呪いが発動したせいっていうのが一番大きいんだが。あと、勇者。


「まぁ、アレルギー出ちゃった人は蕎麦以外のご飯あげてますし、仕事先も紹介したりとアフターケアもバッチリしてますから、逆に喜ばれましたと報告いたします!」


 報告遅いよ!!


「ただそういうのをネタにした場合、今まで動きが遅かった教会がどう出るか未知数ですからね。店と屋敷の結界を強くしたのはそのためです。あとはまぁ、我々ですけど……」


 言ってポムは俺達を見渡して苦笑する。

 まぁ、このメンバーで心配が必要な相手となると、それこそ高位の神族本体じゃないとな。


「ゴホン。こちらはともかくとして、リベリオさんですよ。心配なのは」

「かといってここでリオから離れても連中の攻勢は変わるまい」

「『状況が悪いまま戦力だけ消えちゃう』形になっちゃいますもんねぇ」

「そうだ。だが、どう説明するべきかな……そもそも、こんな状態になった以上、我々を切り捨てることも向こうは検討すべきだろう。……だがそうなると、今度はロルカンとジルベルトが心配か」

「ジルベルトさんは完全に坊ちゃんの味方ですからね。彼が坊ちゃんを裏切ることだけは何があってもありませんよ」


 ポムがいやに太鼓判を押しているが、俺もその意見に同意だ。ジルベルトが俺を裏切ることだけは何があっても無いだろう。もしそんなことがあるとしたら、それこそ俺はもうおしまいだ。


「……だからこそ、あいつだけは……あいつの街は守らないといけない。万が一には全ての国と敵対してでも、俺はあいつを守るぞ」

「出発地点でいきなり全国家敵対宣言ですか……まぁ、そうなってもやれる方策はいくらでもありますから、やっちゃっても構いませんけど」


 いいの!?


「人間の欲と保身を上手く突けば、国家を寝返らせることなんて簡単ですよ。それに、あくまでも善意で行動している我々を、いったいいつまで『神敵』扱い出来るのか、というのがありますね。考えが凝り固まった相手では難しいでしょうが、少なくともこの国の人達を見るに、全ての人間が頭ごなしに魔族は悪だと判断しなさそうな感じなんですよね。まぁ、まだ『疑い』段階で魔族だと断定されていないからかもしれませんけど」

「そう……か。そうだな……」

「いずれにしても、王子さん達と話をする必要はあるでしょうね。お誂え向きに、向こうからこっちに来てるようですし」


 おや。リベリオも俺達に話があるのか。……まぁ、そうだよな。


「ついでに、大神官さんとやらとどんな話をしたのか尋ねてみましょう」

「神の教えだけぶちかまして逃げそうな気がするけどな……」


 俺の声に、ロベルトが苦笑しながら言う。


「まぁ、そういう連中が幅を利かせてるのなら、この国の教会はもうお終いだろうな。もし、話し合いにもならずに引き上げたなら、逃げ出す用意してたほうがいいかもしれないぞ。そういう態度をとる場合、大抵は次に武力行使してくるから」

「いくらなんでも、王子相手にそれはないだろ」


 苦笑した俺の耳に、衛兵らしき者の足音が聞こえてきた。

 王子来訪の報告だった。




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