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日常編4・部活動紹介と素直じゃない悪友

「別に難しいことなんてしなくていいんだよ」


 体育館までの道すがら春菜がのほほんとした口調でそう言った。

 春のゆるやかな日差しが差し込む廊下を三人で歩く。……俺達が通ると廊下の端でざわめいていた生徒たちがピタッと鎮まるんだが……この先のボクの高校生活が不安で一杯デス。


「部活動紹介って言っても各部結構時間が限られてるからね。アタシらは三年生の後ろに立ってるだけ、ってことに今年はなったんだ」


「じゃぁ、改めて何か用意するものもないんだ?」


「元から参加人員に入ってなかったからねぇ。まぁ、神谷先輩だけの方が部員獲得にはいいかもしれないけどね。でも、母さんは嬉しいよ……例え君達二人のせいで新入部員が減っても文句は言わないから」


「……ていっ」


 カラカラと笑う春菜の頭にチョップを食らわす。


「ぐぇっ!?」


「誰も貴様に育ててもらった覚えは無いわ!」


「うぅ……家庭内暴力だぁ……DVだよぅ……」


 くっ……いらんことばかり知識に付けおって……。


「ふむ……用意するものはないわ、部活動紹介に出れば優香ちゃんに褒められるわ……春菜、今日ほど貴様の存在価値が高まった日はないぞっ!」


「うるさいよっ、ていうか常時のアタシの存在価値低くね!? ふーんだ、せっかく優香に見直したって言おうと思ったのに……知ってらっしゃるかしら西大路の? わたくし、今年度は大谷さん家の優香ちゃんと同じクラスなのよ? そんな態度ならアンタのことは言及しないでおくよっ!」


「……申し訳ありません、春菜様。全ては私の不徳の口が致した不手際にございます。何卒、御寛大な処分を」


 立場が二転三転するバカ二人。相変わらず、この二人は仲良いよなぁ。ぎゃぁぎゃぁとうるさい二人と共に体育館袖まで移動すると、既に文芸部員は全員揃っていた。


「やぁ、浩之君に隼人じゃないか。久しぶりだね」


 到着した俺たちを神谷先輩が迎えてくれる。


「あ、こんちわっす神谷先輩。すいません、春休み中ほとんど部活に出なくて……」


「しょうがないよ。実質活動盛んなのは女子の方だからね。しかし隼人も来たのか、珍しい事もあるもんだね」


「ふむ、たまにはな。優香ちゃんにも参加しなさいって優しく言われたからな」


「なるほど、大谷君か……それはお礼を言わないとなぁ」


 しみじみと隼人と語り合っているこの先輩、姓を神谷、名を聖というとんでもなくかっこいい先輩なのだ。ルックスは歌って踊れる某少年グループもかくやといった面立ちに洒落た眼鏡をかけ、勉学も常に成績上位者をキープと抜群、その甘いフェイスから発せられる笑顔に学園の婦女子共はこぞって彼を「仏の神谷」と呼んでいる。……仏なんだか神なんだかよく分からないが、一学年上ということで隼人の元同級生である。


「先輩も何か舞台で発表するんですか?」


「いや、僕も二年生と一緒に後ろで立っているだけだよ。三年生だから部員獲得のために何かするべきなんだろうけどね……みんなの前で発表するなんて柄じゃないから辞退させてもらったよ」


 にこやかに神谷スマイルを披露し、そう言う神谷先輩。


「なんでぇ、聖は発表しねぇのかよ。最後だってのに消極的な奴だな」


 腕を組みながら隼人は苦笑する。


「なんなら隼人が発表するかい? 原稿ならすぐにでも用意できるけど」


「よせやい、それこそ柄じゃねぇよ。ま、いっぱい部員獲得して今年は楽しい隠居生活と洒落込もうぜ」


「隼人は残念ながらまだ二年だろ? 隠居生活の前に一つぐらい作品書いてもらわなきゃな。新入部員に示しがつかないよ」


「げー……物書くってのも柄じゃねぇんだよなぁ……」


 ガッハッハ、と親父じみた笑い声で神谷先輩と隼人は笑い合っている。


 ……あー、そうか。だからこの男は。


「おーい、そこの不良共! そろそろ出番だよー!」


「お、いけねぇいけねぇ。ほら浩之、さっさと行くぞ」


「……あいよ」


 俺は苦笑しながら友達想いの不器用な男の背中を追って袖から舞台へと向かっていった。




部活動紹介は滞りなく終わり、教室への帰路に立った。ぽややーんと歩く、バカ二人と道中を連れ立つ。滞りなくも何も、俺たちは後ろで立っているだけだったので特に気負う必要も無かったんだが……。

俺達の紹介が終わり体育館袖に引っ込んだとき、まるで待ち伏せ(アンブッシュ)のように待ち構えていた優香に遭遇。


「たまにはちゃんとできるじゃない」


 そう上目線でのたまわれ、貴様の目は節穴かっ、と叫ぶ前に隼人のどでかい手により俺の口は塞がれてしまった。「隼人君もかっこよかったよ」等と、節穴で見ていた感想を優香に貰い有頂天の隼人。袖から舞台に出るのと同時に体育館一杯の新入生に呆けてしまった春菜。そんな色々な意味でぼーっとしている二人を連れて教室への帰還となりました。


 教室のドアを開けると、席にこそ着いてはいるが自席の近隣とくっちゃべっているクラスメイトたち。担任もいるが何も言わないのでまだ自由な時間なんだろう。半分ぐらいの席が空いたままなので、まだ帰って来ていない生徒も多いようだ。自席に戻り、やれやれと息を吐く。何もしなくても大勢の前に出ると気疲れするもんだ。


「……ねぇ、巻坂君……だったわね?」


「ん……? お、柚繰か。どうした?」


 隣の席の柚繰が窓から視線を移し、俺に話しかけてきた。ようやく質問攻めから解放されたのか、その目はどことなく気怠るげで少々疲れているように見える。転校一日目だし精神的な疲れも強いのだろう。


「さっき先生に言われたんだけど……この学校って全員どこかの部活に所属しなければならないの?」


「部活……? あー、そうか、そんな決まりもあったなぁ」


 学校の校風として文武両道を掲げているので全生徒、部活動には必ず一つ所属しなければならない。ちなみに優香の話だとこのことは学生手帳の学校生活の欄にきっちりと書いてあるらしい。文武両道の割には運動部、文化部の如何は問わないが。自分が部活に所属していると、ついぞ忘れてしまう学校のルールの一つだ。


「部活か……面倒ね。……巻坂君は文芸部なのね。スポーツでもやっているのかと思ったわ。見た目で判断しては駄目ね」


 机に肘をつき、顎を手の平で支えた状態でこちらを見て呟く柚繰。しっかし、お疲れのポーズもしっかりと絵になる子だ。春の麗らかな陽気と少しだけ開いた窓からの春の風が柚繰を包む。ふわっと持ち上がった髪の毛から何とも言えない良い匂いが少しだけ俺の鼻腔に届いた。


「……まぁ、本は嫌いじゃないしな。それに、文芸部は三食昼寝付きでサボり放題なんだよ」


「何それ?」


 クスッ、と小さく笑う柚繰。その仕草に俺様の傷付いたハートが癒されていく。……これだよこれ、高校生活の青春ってこれだよね? 暴れん坊の幼馴染やバカの相手ばかりしている俺を見兼ねた粋な神様の計らいだよね?


……まぁ、そんな計らいも、


「よーし、全員揃ったな。さっき決まらなかった委員と係決めをさくさく進めるぞ。それが終わったら放課だ」


 我が担任の大きな声によって阻まれてしまう訳だが。神様……もう少しぐらい計らってくれてもいいのでは?

 仕方が無い(凪先生は私語厳禁なのだ)ので、俺は春の陽気に誘われて眠りに就くことにした。柚繰とのお喋りをもう少し楽しみたかったが、新学期早々に凪女史に目を付けられてもしょうがない。それに心地良い陽気に抗うアビリティも持ってないしな。いやー、今日は朝から走ったし……精神的にも…………疲れ……た………………し…………………ぐぅ。



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