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日常編2・友人達との世間話

 起床から我が(空気の読めない)愛妹に奇襲攻撃のフライングエルボーを喰らい、登校時には可愛い(鬼のような)幼馴染に地獄のロードワークを課せられた二十世紀最後のダンディ、俺こと巻坂浩之はそこそこな家庭に育ち、まぁまぁな学校に通うどこにでもいそうないたって普通の高校生である。


 まさに平々凡々とは俺のためにあるといっても過言ではない……まぁ、人様より若干顔がいいことは否めないがね。


 子供の時分から『男子たるもの男子らしくあれ』という父親の方針で割とやんちゃ気質ではあったが、お巡りさんに厄介になることもなく、上手く生きてきた。


 そんな父親が三年程前から単身赴任中ということもあり、昨年入学した高校の全生徒強制加入の部活動では、男子らしさとは無縁の文芸部に入部。

今日も明日も幽霊部員と青春を謳歌しているのである。


 ちなみに、成績の方は現代文と体育を除く全教科がからっきし。

現代文の点に関してだけ言えば文芸部に感謝と言ったところである。

文芸部には頼りになる文系のセンセイ方がたくさん居るからな。


「うへぇ……朝から疲れたのぅ」


 授業はおろかHR前だっていうのに僕チン既にグデングデンだ。

取り敢えず自分のクラスを先行した優香から聞き出し、これから一年間お世話になるマイエクセレントクラスE組(仮称)に着くとドカッと空いてる席に腰掛けた。

 朝から非情なまでのフライングエルボーまで喰らうし、もしかしたら今日は厄日なのかもしれん。

ちなみに幼馴染の怪物の方は息一つ切らしていなかった。あやつはほんまに人間だろうか?


「おいおい……兄ちゃん、新学期初日からなんて顔してやがんだ……」


「ぬぅ、隼人か。クラスが変わって最初に会った奴が男とはほとほと鬱な気分だが取り敢えずおはよう」


「お前の気分なんか心底どうでもいいが、また一緒のクラスだな、と疲れているだろう身体に追い討ちをかけに来たのだよ」


 フハハハ、といかついマスクから妖しげな笑い声を発する隼人。西大路隼人。高校に入って出会ったアウトローなお方で、留年1が付く年上の高校二年生だ。


 茶髪で長めのウルフなヘアーで背の高さが俺より頭一つ分高く、どことなくプロレスラーを想像させるガタイの割りに趣味は天体観測とロマンチックで微妙な趣味の持ち主だ。

いや、勿論世の中にはガタイのいい天体観測者もいるんだろうけど隼人の場合はもうちょっとこう身体に似合う趣味にしてもらいたい。


 ちなみに良いとこの不良というのも妙な表現だが、実家はこの街で三本指に入るほどの金持ちである。

金持ちで不良、さらには趣味が天体観測というどれにしろ庶民には取っ付きにくい系統の人間のはずが、本人が気さくな性格なので、俺とよく気が合ったりするため校内では良く行動を共にしている。

部活も俺と同様の理由で文芸部だしな。


 本来はさん付けでもしなければいけないのだが、本人が嫌がって名前で呼びやがれ、敬語も不可、というのでタメのクラスメイツと同じく接している次第なのデス。


「で、なんでこんな朝早くから居るんだ? いつもなら、早くて二限が終わる頃に登校する社長出勤男のクセに」


「余計なお世話だ。それを言うならお前もそうだろうが。いやな、今日俺が早く来たのは理由があるのだよ、浩之クン」


「ふむ? 夜型のお前が早起きするほどの理由があるのか隼人クンよ?」


「応ともよ!」


 隼人はなぜかガッツポーズを取りながら、そう叫ぶ。背景には情熱の炎が燃え盛っている……ように見えた。残念ながらそのポーズはレスラーのそれにしか見えない。


「今日は新入生歓迎会だろ? いや、入ってくる奴はどうでもいいんだが……部活動紹介があるだろうが!」


「ふむ……あぁ、なるほど。そういうことか」


 部活動紹介とは読んで字の如く、この学校にある部活動を新入生に紹介しちゃおうというどうでもいい催しで、それぞれの部活動は正式な衣装、もしくはユニフォームで紹介に臨むのだ。

ていうか、俺にはそれ以外の部活動紹介なんて想像もできないが。


 そして、この隼人という年上の似非ロマンチスト男は……


「ちょっと浩之! 朝言い忘れたけど、あんた部活動紹介にちゃんと出なさいよね! 春菜が悩みすぎて溜め息吐いてたわよ!?」


「優香ちゃんっ、おはようっ!」


 どこぞのクラスから鞄を置いて我がクラスに乗り込んできた優香を見るなり、隣の男は急に色めき立つ。

あからさまに光り輝く歯と満面の笑みを作り出し、あのいかついフェイスからは想像もできない黄色い声で挨拶をする。

いや、まぁそこまでいかつい顔でも無いんだが……スポーツマンタイプとでも言うのだろうか?


 まぁ、それは置いておいて。そう、つまりはそういうことなのだ。

西大路隼人は大谷優香に淡く切ない恋心を抱いているのである。


「あれ? 隼人さん、また浩之と同じクラスなんですか?」


「あぁ、気が乗らないがこれもまた何かの縁なのだろうね。それより、優香ちゃん、さん付けと敬語はしないでくれよなっ」


 一気に捲くし立てる本当に不器用な男。いつもは何をやるにも気ダルそうな顔してるクセにこういうときだけここぞとばかりに笑顔を使うんだからなぁ。


「あ、うん……そういえば、隼人君も文芸部よね? 部活動紹介は……」


「……え、あ、も、勿論出るさっ! ていうか、そのためだけに……あ、いやいや、新入生確保のためには俺たち二年も動かないとね!」


「そうね、文芸部なんか今年は男子三人でしょ? 本腰入れて新入部員の確保しないとそのうち部に居場所無くなっちゃうわよ?」


 隼人には笑顔で、俺には鬼の形相で忠告をくれる優香。それにしても、何故この形相を見て隼人の恋は醒めないのだろうか? 俺だったら千年の恋でも醒めちゃうね。


「うんうん、そうだよねぇ。浩之はちゃんとこの俺が部活動紹介に引きずってでも連れて行くから安心してくれたまえ優香ちゃん」


「ホント? うわぁ、助かるよ隼人君! じゃ、また後でね。隼人君に迷惑ばかりかけてないのよ、浩之?」


「分かったって……とっとと、戻れ。HR始まるぞ」


 俺がそう言うと、優香はじゃぁね、とだけ残して帰っていった。優香の後姿が教室から見えなくなるまで手を振り続ける隼人。本当にもう健気な男だこと。


「……しまった」


 優香の姿が見えなくなると、その健気な男はいつものドスの利いた低い声に戻りポツリと呟いた。


「……墓穴を掘った……か?」


「……自業自得だ」


 おおよそ優香のユニフォーム姿を眺められると浮かれていたのだろうが一転、余計なひと言で失意のどん底に転落してしまった親友に俺は溜息を吐くのであった。

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