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異世界編6・浩之、目覚める。

 急にとんちきなことを言い出すおじいさん。

魔法を使って浩之君の身体を私が治すって……浩之君の傷をってこと? 何言ってるのこのおじいさん?


「いや、そもそも魔法を使ってって、何をどうやって……」


「魔族でも神族でもないからのぅ、二人の魔法の使い方は特殊なんじゃ。コツとしては……強く魔法を使いたいと想うことかのぅ?」


「魔族も神族も何も、そんなアバウトなアドバイスじゃ……」



「…………では、私は行く。言うまでもないだろうが、後は頼む」



 急に声がしたので振り返ると、目を瞑ったままの浩之君が何かよく分からないことを言っている。

どいつもこいつもとんちんかんなことを言いやがって。

……行くって何処へ?


「……藍ちゃんや、その辺はもう少し後で説明しよう、あまり時間もない。心得ましたぞ主よ。また会える日を楽しみにしております」


 ?マークを浮かべて混乱している私を宥めながらおじいさんは浩之君に向かってそう言った。

その応えに対して、軽く頷くと浩之君は更に続ける。


「…………柚繰藍。この先、数々の危難がお前と巻坂浩之を襲うだろう。そこに関しては申し訳なく思っている」



「……はぁ?」



「…………浩之を頼む。詳しいことはそこにいる老人に聞け」



 その言葉を吐くやいなや、浩之君は気を失ったかのように頭が揺れた。



「……何言ってるの? 怪我して熱で頭が……?」


「……………………」


「……浩之君?」


「……………………」


「……え、ね、ねぇ、ちょっと」


 話しかけても浩之君の反応はない。これはヤバい。


「……ちょ、ちょっと冗談はやめてよ、ね、返事を! 返事をしなさいよ、浩之君!」


 ゆっさゆさと意識が戻るように浩之君の身体を揺さぶる。

そんな乱暴に扱わんでも、なんておじいさんの声が聞こえるが、緊急時につき無視をします。


「……………………っ」


「気付いた!? 浩之君、返事して!?」


「……………………ぎ」


「……ぎ?」


「――ぎぇえええええええええええええぃやぁあああああああああああああっっっ!!!!!!!!!! 痛ってぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「――うっわ、な、何なのよーーーーーーーーーーっ!?」


おじいさんのお家に二人の絶叫が木霊するのであった。



[浩之side]


 ――どうも何だかお久しぶりです、巻坂浩之です。


何だかよく分からない状況です。


シンジ君ばりに見知らぬ天井が見えたかと思うと、泣きそうな顔の柚繰が何事か叫びながら俺を覗き込んで身体を揺さぶっていました。


理解不能です。


意識が戻ると、それに合わせて腹部に激痛が走りました。刺されたことは夢じゃなかったようです。

俺が呻くと、それに呼応して柚繰も俺の身体をさらに強く揺さぶります。これは所謂拷問です。

これこれ、なんていう謎のジジイもいます。


これは一体どういうことなんでしょうか?


 そんなこんなで目が覚めた。

何だか一カ月近く時が進んでいる気がするが気のせいなのだろう。固いことは言いっこなしだ。


 そもそも何で俺は意識を失っていたのか、また何でこんな重傷を負っているのか、ここは一体全体どこなのか。

分からないことだらけであった。

 気づけば半狂乱の集団に囲まれてるし、いやはや、泣きたくなったのはこっちである。


「ほれ、藍ちゃんや。意識は戻ったものの、浩之君の顔を見てみるんじゃ。……こりゃ、マズいじゃろ?」


「……ぐぬぬ」


 俺が周りの状況を理解しようと必死で頭を回転させていると、謎のジジイから声がかかる。

 マズいってなんだよ、失礼じゃねぇか。ていうか、爺さん誰だよアンタ?


「……ど、どうしたらいいの?」


「落ち着いて聞いておくれ、藍ちゃんや。浩之君の身体が健康な自然体のとき、勿論傷はないのぅ? 言ってみれば、浩之君の傷は身体に対する異分子なんじゃ。Correcter(修正者)たる藍ちゃんの力をフルに使いこなすと、この世界に対しても同じように能力を使うことができるが……いやはや、今はその話は置いておこう。藍ちゃん、浩之君の傷がなくなるように強く念じるんじゃ。傷がある状態はおかしい、おや、傷なんかあったか? 傷などない、という風にな」


 あまりの謎の爺さんの言いように軽く目が点になってしまった。

え、何その三段論法? ていうか、そもそも三段論法なのそれ?


「……念じる、ね。分かりました……えいっ」


 柚繰が俺の身体に手を翳して可愛らしく気合を入れた。

それと同時にぽわん、と俺の腹部――傷口周辺――が淡い光を帯びて光りはじめる。

あ、なんかいい感じ……。


「ほっほ、初めてにしては大分いい感じじゃのぅ」


「ほ、ほんと!? こ、こんな感じ?」


 爺さんに褒められて嬉しかったのか、柚繰が振り返って顔を綻ばせる。

柚繰が振り返った瞬間、淡く輝いていた傷口が輝きを止めた。


ブシュッ……ドクドクドク……


「痛ってぇええええええええええええええええええええええぇぇぇぇっっっ!!!」


「きゃあっ! な、何でよ!?」


「……気を抜くからじゃよ。修正されかけていた傷が復活してもうた」


 痛みに絶叫する俺と、動揺してパニクる柚繰と、溜め息を吐く爺さんであった。


「お、おじいさん、どうすればいいの……!?」


「……もっと強く念じるんじゃ、藍ちゃん。傷があっちゃダメだ。あっちゃダメだあっちゃダメだあっちゃダメだあっちゃダメだ……」


 ――って、おかしいだろそれ!? 何処のシンジ君だよ!?

この家に居る奴らおかしいよっ!?


「あっちゃ、ダメだ。あっちゃダメだあっちゃダメだ……」


 ぽわぽわとまるで効果音が聞こえるかのような心地よさが腹部を包む。

何をやっているのか分からんが、傷口が心地よいのは助かる。方法は分からんが、何らかの方法で俺の手当をしてくれているようだ。

 ……医者を呼ぶまでの緊急措置なのだろうか?


「……あっちゃダメだあっちゃダメだあっぢゃ!」


 あ、噛んだ。

そう思った瞬間腹部に再度激痛が走る。


「……うっっぐうぅぅ!!?」


「お、おじいさん、出来ないよぅ……」


 鯛焼きを盗んで走り出しそうな声で叫んでしまった。

……今時うぐぅ、もないよなぁ、痛みに悶えながらも頭の片隅で下らないことを考えてしまう。

 血液が流れ出る感覚が側腹部を伝う。


「大丈夫じゃよ、藍ちゃん。君ならできる。想いを止めずに念じ続けるんじゃ。……ちなみに、次失敗したら多分浩之君は出血多量で死ぬぞ?」


「……そ、そんな」


 爺さんの突然の死亡宣告。

え、俺死ぬの?

確かに横たわったままなのにちょっとくらくらしてきたしね。

い、医者はまだだろうか……。


「お、お願い……死なないで、浩之君……」


 朦朧と仕掛けた意識の先で、ギュッと強く目を閉じている柚繰の姿が映った。

俺だって、死にたくはない。

 再び柚繰が集中したのか、再度淡い光に包まれていく傷口。この瞬間は心地良いというか、気持ちがいい……。


「そうそう、その調子じゃ。幸いその傷は臓器を避けておるようじゃから、健全な肉体に侵入した傷口を修復するイメージじゃ。わしが誘導するからイメージを重ねておくれ。貫かれた腹部が閉じるように、再生した血管に血液が通るように、傷口に皮膚を被せるように……全てが元に戻るように、修復するイメージを持つんじゃ」


「貫かれた腹部が閉じるように……」


 爺さんの言葉を復唱した柚繰が目を開く。その瞳には、先程よりも強い意志が籠っているような気がした。

淡い光も少しずつ輝きを増し、心地よさが腹部から全体に広がっていく。


「再生した血管に血液が通るように……」


「そう、全てはイメージじゃ。綻びを紡ぐように、欠損部を補うように、元合った状態に戻すように……」


 復唱しながら柚繰は俺の目を見た。

俺も朦朧とした意識の中、焦点が合わない目を必死で柚繰の目に合わせる。

大量の出血により、鈍くなった感覚ではあるが、腹部の傷口が盛り上がったかのように感じた。


「傷口に皮膚を被せるように……」


「まぁ、多少傷が残っても問題ないじゃろう。男の子じゃし。腹の傷なんぞ勲章じゃよ」


 おい、ジジイ。柚繰が必死で何かやってるんだから余計な水を差すんじゃねぇ。


「全てが元に戻るように……お願い、治って!!」


 一際強い光が俺の全身を覆ったかと思うと、今まで俺を苛んでいた痛みはどこかへと消え去った。

大量の出血により倦怠感のある重たい腕を腹部に持っていくと、先程まで痛みがあった場所には何もなかった。

 傷口はおろか、治ったような痕もない。

……一体、これは?


 そこまで考えた時、一際強い眩暈が俺を襲う。

あ、これは、意識が……。


「な、治った!? おじいさん、成功……って、ひ、浩之君!?」


「ほっほ、流石藍ちゃんじゃのぅ。荒療治とはいえ、本当に傷を治してしまったわい。大丈夫じゃ、失われた血液を補填するために眠りについただけじゃよ」


 その会話が聞こえたのを最後に、俺の意識は再度ブラックアウトしたのだった。


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