異世界編5(上)・ジジイsideストーリー(意味不明)
「――と、そんなところかのぅ。魔界について、『次元世界』について、一通りは説明できたかのぅ」
大事なところじゃからのぅ。一話丸々独占してしまったわい。
魔界の人間ではない、ましてや魔力云々も知識としてない人間界の人間に理解できるよう説明するのは難しい。
何せ、人間界には魔界と神界について知られることがないように(・・・・・・・・・・・・)創造主様は三界の行き来を禁じるようになったんじゃからのぅ。
「……話が壮大過ぎて良く分からなかったけど、ここは、魔界。数ある『次元世界』の内の一つ。何故か分からないけど、私と浩之君はこの魔界へと来ることになってしまった。ここまでは合ってる?」
「ほっほ、如何にもじゃ」
頭を抱えながら娘さん――柚繰藍――はそう言った。
自分で情報の取捨選択が出来るとは、中々に賢い娘さんじゃ。……それとも、『媒介者』の整合性が影響を及ぼしているのか。
「今の時点で、私に理解できないところを考えるのは止めるわ。『次元世界』とか、創造主様とか、これ以上考えたらパンクしちゃう」
「中々に良い選択じゃぞ、娘さんや。分からないことは、いずれ詳しく説明しよう。あまり、余計な情報を頭に詰め込みすぎると余計な先入観を生むだけで却って身動きが取り辛いからのぅ」
「それで、一番大事なところを聞きたいんだけど……」
溜め息を吐きながら、娘さんが居住まいを正す。
「……ここが、魔界とかいうヘンテコな場所なのにはこの際目を瞑るとして、私達自分の世界に帰ることは出来るの?」
「ヘンテコ……」
「これ、ロール。余計な所で入ってくるんじゃない。……娘さんや、その問いかけに対する答えはイエスじゃよ。帰ることは勿論出来る。じゃが……」
そう帰ることはできるんじゃが……。
「ほんとっ!? よ、良かった…………え、じゃが?」
「……詳しく説明するとしようかのぅ。まぁ、まずは、腹ごしらえは如何かな? 夕食を食べてからその説明をしていこうじゃないか」
☆
夕食用に作っておいたシチュー――わしの3日分相当――とパンを振る舞い、夕食を取る。
久方ぶりの来訪者、それも年若い娘さんと夕食を共にできるんじゃから心躍りそうなものだが、夕食後の説明が思いやられて心は重い。
ちなみに、行儀は悪いが主を放置しておく訳にもいかないので、寝台の方へテーブルを持ってきて夕食を取ることになった。
「……あ、美味しいこのシチュー」
「ほっほ、そう言ってくれると嬉しいのぅ」
原材料は秘密だがね、人間界の娘さんにはさぞかしショックだろうから。あの亀上手いんじゃがなぁ。
「さて、食べながらで行儀が悪いが、少し話を聞かせておくれ。娘さんと巻坂浩之君が人間界から魔界へ転移させられた時の話を」
「……飛ばされたっていうのもまだ半信半疑なんだけれど」
そう言って、ぽつぽつと娘さんは語り始めた。
ちなみに、うまい具合に話の合間合間に食べ物を口に入れている。
話を要約すると、こうだ。
・こっくりさんもどきをやろうとしたら、そこのロール――変身中?――が現れた。
・この世界での役割を教えてやる、と急に人の事を刺しはじめた。
・娘さんと友人二人は刺されても何ともなかったが、巻坂浩之だけは本当に刃物で刺されてしまった。
・曰く、巻坂浩之は私たちにとって邪魔な存在である、と。
・曰く、巻坂浩之は『媒介者』なる存在である、と。
・曰く、巻坂浩之がいると、この世界の改変が上手くいかない、と。
・曰く、そして、柚繰藍にも役割があり、Correcter(修正者)の能力でいずれ私たちに協力してほしい、と。
「……ふむ、全く困ったもんじゃな」
「僕は全く記憶がないからね、綺麗なお姉さん」
抗議の声をあげるロールをなだめ、思案する。
本当に困ったものじゃ。余計な事ばかり(・・・・・・・)吹き込みおって……。
しかし、相手方の思惑も見えてこない。このままではただ歴史をなぞること(・・・・・・・・・・)になってしまうのぅ。
「……分からんこともあるが、納得じゃ娘さん」
「ほ、本当に? こんなにちんぷんかんぷんなのに?」
「勿論、全部分かった訳ではないぞ? ある程度、君達が転移してしまった原因などは理解できたというところかのぅ」
すまんな、娘さん。嘘は言ってないぞ?
分かっていること全てを説明しないだけ、この駆け引きも年の功と分かっておくれ。
「状況的に納得できたのは三点じゃな。世界での役割について。巻坂浩之君が『媒介者』なる存在であることについて。そして、娘さん……いや、柚繰藍ちゃんがCorrecter(修正者)の役割を担っているということかのぅ」




