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覚醒編6・『ロールさん』が短刀(ドス)をドスッ、ドスッと(錯乱中


「……えっと、『ロールさん』には聞きたいことがあるんですよ」


 さっきまで固まっていた春菜も順応し始めたのか、自分から『ロールさん』に向かっていった。



『……へぇ、聞きたいことね。それは一体何だい?」



「ちょっと噂で聞いたんですけど……」




「……浩之君」


「何だ、柚繰?」


 春菜が喋っているところを遠巻きに眺めていた柚繰が俺に話しかけてきた。


「これは、今、この部屋で何が起こっているの?」


「……お前の言いたいことはよく分かるよ、柚繰」


 深く考えたくはないがな。


 柚繰にしてみれば、いや、俺にしてみてもそうだが、こっくりさんもどきをやるからということで付いてきのだ。

 それが蓋を開けてみれば、ご神体は割れる上に中から得体の知れない物体が飛び出してくるわ、あまつさえそいつは喋るわで何が何だか、という感じだ。

 隼人と春菜のバカ2人は順応性が高すぎるので、既に『ロールさん』と喋っているが、普通の人間にしてみたら気でも狂ったのか、と疑わんばかりだ。

 俺にしたって、いやに冷静であると思う。もう少し、取り乱してもおかしくないぐらいなのだが。


「観察に徹しよう。事の動向を見守ってから考えても遅くない」


「………………えぇ、分かったわ」




「噂で聞いたんですけど……将来、就いたら成功する仕事を教えてもらいたいなぁ、なんて」


 俺たちが目の前の現実に順応しきれずにいると、能天気な春菜が続けて訊ねていた。

そう言えば、『ロールさん』はそんなことを教えてくれるんだったか。



『あぁ、成程ね……そういうことを教えてあげている、ってことになってたか』



 にやにやと、いら立ちを覚える顔で『ロールさん』は続ける。



『うーん、若干ニュアンスが違うんだけどね。将来的に成功するというよりも、君たち自身に課せられた世界からの役割を教えてあげる、っていうイメージかな?』



「「課せられた役割?」」



『そう……難しい説明は省くけど、この世界に存在する生命にはそれぞれに役割があるんだ。それは植物であれ、動物でアレ、無機物であれ、全てに存在している意味がある。人類にも勿論役割がある』



『人類にはこの世界を結末まで導く重要な役割がある。この世界の結末まで人類が残っているのかは定かではないけどね。その人類の中でも、個々人に役割は割り振られている。ほとんどの人類はその役割について認識していることはないけどね』



『演劇や舞台を想像してご覧よ。登場人物全員に意味があるだろう? でも、その登場人物が好き勝手に振る舞っていたら物語として成り立たないよね。そこで僕みたいな存在が必要なのさ』



『僕の役目はその物語の登場人物に『役割』の台本を渡すことなんだ。だって、そうだろう? 演劇や舞台でやることが分かっていたら、役割が分かっていない人間に比べてとてもスマートに振る舞えるじゃないか』



「「な、なるほど……」」


 何に納得したのかはよく分からないが、頷きながら話を聞いている隼人と春菜。

本当に分かっているのだろうか? 甚だ疑問だ。



『そういう意味でなら、そこの小さい子が質問した事になら答えられるよ。君達が世界から求められている役割をね』



 どこから取り出したのか、鈍く光る短刀を片手ににやにやと笑う『ロールさん』。

変な所で、短刀が三つ又のフォークでなくて良かったと、感じている自分がいた。パクリ、ダメ、絶対。


「……話しは半分ぐらいしか分からなかったけど、要は役割を教えてもらえば成功する、ってことだよね?」


「……あぁ、そうだよな。人よりもスマートに振る舞えるってことは、有利だよな」



『……まぁ、結果的にはそうなのかもしれないけど。人類も変わったね。少し前だったら、納得するまで説明を欲しがる性質だったと思ったけど』



 ここに来て初めて『ロールさん』のにやにや顔が崩れたように見えた。にやにや+呆れ顔といった感じだ。


「「それだったら、『ロールさん』っ!」」



『……え、あ、なんだい?』



「俺たちの」


「私たちの」


「「この世界での役割を教えてくださいっ!!」」


 綺麗にハモっていた。恐ろしいくらいに息が合う二人だ。



『……いいよ、教えてあげようじゃないか』



 にやにやをより一層強くして『ロールさん』はそう言った。



『それじゃ、この短刀を胸に抱えてくれるかい。刃物だから気を付けてね』


 テーブルから浮遊した『ロールさん』は隼人にペーパーナイフのような形状の短刀を手渡す。


「お、おぅ……」


 受け取った隼人は戸惑いながらも、短刀を胸に押し当てる。

胸に抱かれた短刀はぼんやりとその刀身を光らせた。


「……これでいいのか?」



『うん、いいよ。それじゃ、今度はそっちの小さい子にも短刀を渡してくれるかい?』



「だとよ、春菜。ほれ」


「あいよ……あ、隼人とは違う色で光った」



『うん、読み取れたみたいだ。じゃあ、短刀を返してくれるかい?」



「はい『ロールさん』、どうぞ」



『うん、ありがとう……成程、これはこれは……』



 受け取った短刀をためつすがめつ確認する『ロールさん』。



『やはり聞いていただけあって凄いね君達』



『大きい子の方は、商運……いや、勝運に長けているのかな。成程成程、馬鹿ツキといっても過言じゃないね。God Luck(豪運)といったところかな』



『小さい子の方は……そうか、君は文学が好きなんだね。丁度いいじゃないか、君はConverter(変換者)の才ががあるのか』



「「???」」



 何事か厨二病のような単語をぶつくさと溢しながら『ロールさん』はにやにやと笑っていた。



『大きい子は西大路隼人君と言うんだね。……君は、自分の家を更に大きくする事が出来る器だよ。僕の口から言えることは君が考えたこと、思ったことは高い確率で成功に繋がるということかな。自信を持って行動するといいよ』



『小さい君は、池澤春菜さんと言うんだね。……近い将来、君の力が必要になる。この世界を平和に導くためには君の能力が必要になるんだ。文学を読むのも好きだけど、本当は物語を書く事も好きなんだろう? 思いつくまま、心の衝動を書いてみなよ』



『本当に、絶妙なタイミングという奴なんだね。創造主のお考えになることは見当もつかないけど、この場を創り出せたのは僥倖と言っても差支えがないな』



 そこまで言うと、『ロールさん』は翳していた短刀を、



ドスッ、ドスッ。



 隼人と春菜の胸に突き刺した。




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