覚醒編2・『ロールさん???』
「お、来たか、待っていたぞ浩之ッ」
優香に尻に蹴りを入れられながら登校し教室に入ると、ドヤ顔で俺の机に座る悪友に出迎えられた。
「おい、人の机に汚いケツで座るんじゃねぇ」
「ガハハハッ、どうした機嫌が悪いじゃねぇか。腹でも減ってんのか?」
バシバシッと俺の背中を叩きながら豪快に笑う隼人。
うん、話が通じてないねこいつ。
「……はぁ、まぁいいや。んで、どうしたんだよ? 俺よりも早い登校なんて……そっちこそ何かいいことでもあったのか?」
始業式と同じような事を言ってみる。
「おぅ、それがよ、昨日な」
ニヤニヤと笑いながら懐から折りたたまれた紙片を取り出す隼人。
「今、巷で話題の『ロールさん』を手に入れたんだよ!」
「『ロールさん』?」
何やら巷で話題であると、ビシッと勢いよく、折りたたまれた紙片を広げて掲げられたので見やるが……
「………………こっくりさんじゃねぇか」
どこか懐かしさを覚えるお決まりの50音に鳥居のマークと数字、YES/NOの文字。
昭和に流行した所謂こっくりさんだ。
「ちっちっち、本当にお前は早合点男だなぁ。確かにこの紙はこっくりさんと似てるけどよ……」
言いながら、隼人は制服のポケットをガサゴソと漁る。あ、汚ね、くちゃくちゃのティッシュが出てきやがった。
「……見ろ、これがロールさんのご神体だぁっ!!」
「お、おい、やめろよ、汚い、きたっ、おい、汚いって………………あれ?」
くちゃくちゃのティッシュはゴミかと思いきや、隼人がそれを広げて俺の鼻先に広げる。
中に入っていたのは……
「これが、その『ロールさん』とやらのご神体だって?」
「そうだ、とくと見てくれッ!」
しわくちゃティッシュの中には、五百円大の紅い石が入っていた。いや、石なんていったら失礼か。丸みを帯びた楕円形で透過性の高いものだ。
綺麗なビー玉をかち割ったものと想像して頂ければ近い気もするが、それにしては、割れた断面等も見当たらないので、元々こういう形のものなのだろう。
それより何よりビー玉のような安っぽさもない、というか、気品すら漂っているように思う。
「何か高価そうだなぁ……お前これそんなティッシュで包んどいていいの?」
「――『ロールさん』の本体は買うと10万円ぐらいらしいよ、高校生には高い値段設定だよね」
「うぉっ!? 急に話に入ってくんなよ春菜!?」
ぴこんっとポニーテールを揺らしながら自然に話題に入って来た春菜。
背の小ささも相まって、全く気配に気が付かなかった。
へぇ、これが……なんて高価な石を前に目を輝かせているが、俺の問いかけには答えてくれない。
どうして俺の周りにはこんな奴ばかりなのだろうか?
「巷で有名なって、そんなに今流行ってるのか?」
「え、浩之、『ロールさん』知らないの!?」
うわ、今時そんなことも知らないの? もしかして原始人? なんて目で俺をまじまじと見てくる春菜。
………………甚だ遺憾だ。
カチリカチリ。
「ロールさんだかロールパンナちゃんだか知らないけど、俺はそんな噂聞いたことないぞ? 何なんだよその『ロールさん』とやらは?」
溜め息を吐きながら、「やぁねぇ……これだから不機嫌面は……」なんて井戸端会議をしている二人に聞いてみる。
ちなみに、件の『ロールさん』についての概略はこうだ。
『ロールさん』
最近中高生の間で噂になっている占いの一種。質問すると大体何でも答えてくれる。(答えられないものには答えないらしい)
質問者の未来について質問すると、将来就く事になる職業を教えてくれる。実際にその職業に就くと大成功を収める。
やり方については以下の7つが上げられる。
①例の紙の上の鳥居のマークにご神体を置き、参加人数分の人差し指を置く。
②ロールさん、ロールさんどうぞおいでください。もしおいでになられましたら「はい」へお進みください、と話しかける。ご神体が動き出したら成功。
③聞きたいことを質問する。
④すると、答えをご神体が動いて教えてくれる。
⑤1つ質問が終了したら、鳥居の位置までお戻りください、とお願いして鳥居の位置に戻す。
⑥いくつかの質問を終えたらロールさんを終了させます。
⑦ロールさん、ロールさん、どうぞおもどりください、とお願いしてロールさんが「はい」と答えた後、鳥居までご神体が戻ってきたら、「ありがとうございました」と礼を言って終了。
という以上のようなやり取りを行うようで、行う際には色々注意する事があるらしい。
………………完全無欠にこっくりさんのパクリだった。
いや、ご神体に金がかかっている以上、こっくりさんより悪質かもしれない。
「こっくりさんは良く知らないけど、ロールさんの凄い所は自分の将来向いている職業を教えてくれるんだよ」
「あぁ、俺も聞いたことがあるぞ。実際教えてもらった職業に就いてみると、出世してすごい成功を収めたとか何とか」
ふんす、と春菜も隼人も鼻息を荒くしてそう捲し立てる。
ますます眉唾物になってきた。ほとんど雑誌のパワーストーンとか金運ネックレスとかと変わらないじゃねぇか。
しかし……職業か。こういうものも世相が反映されるんですかねぇ。
世の中不景気なこの時代に藁にも縋る思いで占いに走るっていうのも分からなくはないのかもしれない。
「なるほど。いや、別に何一つ理解したっていう訳ではないんだが、とにかくなるほど。それで、隼人がドヤ顔で持ってきたってことは、その『ロールさん』ってのをやってみようってことか?」
「運よく手に入ったからな、話の種にやってみようぜ、とお前を待っていた訳なんだ。昼にでもやってみようぜ」
「あ、ズルい! あたしも混ぜて混ぜてー!」
そこまで話が進むと担任が教室に入ってきた。お、もうそんな時間か。ちなみに柚繰も同時に教室にイン。……あいつ割とギリギリを攻めるんだな、イメージ的に8時くらいには教室にいそうなのに。
そんなことを考えていると、「あとでねー」などと言って春菜が自分の教室に戻っていった。既に隼人も自分の席に戻っている。
「……おはよう、浩之君」
「あぁ、おはよう柚繰」
挨拶だけかわすと、担任の朝のSHRが始まった。




