Ep.8【番外編】カノジョさんのお友達。
ヒロイン椎名ミウのお友達、菅野ミカから見た2人。
Ep.8【番外編】カノジョさんのお友達。
菅野ミカ、18歳。
血液型は大雑把ではなく、大らかなO型。
教育学部 日本文学専攻学科。
出身は東北地方で、田んぼや畑が一面に広がる緑の豊かな地域。
冬には真っ白な雪で埋め尽くされ、白銀の世界での雪かきが大変。
だからこそ、大人になったら雪の降らない地域に住むのだと小さい頃は意気込んでいた。
そして今、私はその言葉通り関東の雪のあまり降らない地域の大学に通っている。
「そういえばさ、最近ミウ随分楽しそうだよね。」
お昼時の構内のカフェには沢山の人で溢れていた。
先に席を取り、頼んでいたコーヒーとパンを持ってきたミウに声をかける。
「そうかな?…なんか浮かれてる?」
「いや、いいんじゃない?」
春からミウは一つ上の日向アキラ君と付き合っている。
彼の友達の富永雄介と付き合うようになった私がアキラ君に紹介したのが始まりだった。
彼はもう完璧な草食系男子。
見た目も爽やかで、その上性格も穏やか。
雄介も未だに怒った姿を見たことないんだとか。
しかもミウが言うには料理も得意らしい。
「そういえばさ、この間の花火の日…。」
ずっと気になっていた事を聞いてみる。
もうあれから2週間も経つのだけれどミウあの日の話をしようとしない。
一緒に見るはずだった花火も、2人が来ないので結局雄介と2人で見た。
その分私たちもイチャイチャしながら花火を見たのだけど。
「…あぁ、あの日ね…。」
アイスコーヒーのストローをカラカラと回し続けるミウは言葉を選んでいるようだ。
なんかあったな。
疑惑が確信に変わる。
ミウの嘘は分かり易い。口下手なのですぐに黙る。
そして目を合わせようとしない。
「何?やっとキスでもした?」
探るようにかけた声にミウは小さく肩を揺すった。
微妙だったが、テーブルの上でつかんでいたコップがカタリと音を立てたのでわかった。
アキラ君、よくやった!
正直、最初は二人が付き合うのが少し心配だった。
ミウは元々恋愛オンチだし、アキラ君は草食系だし。
付き合い始めなんて、ミウはアキラ君のメールも返さなかったくらいだし。
まぁ、私があれだけ言ったら少しは返すようになったみたいだけれど。
何よりオタクでおっさんなミウを、そしてあの美しいが変態なミウの兄を受け入れる度量があるかどうか心配だった。
何せ今までのミウの男は耐え切れず1週間も持たずに別れてしまったのだから。
彼の奥深さに改めて感服致します。
「で?もしかしてそのままお泊りとか?」
さすがにそれはまだミウには早いかな、とか思いつつ流れで聞いてみる。
それにお泊まりなんてミウのあの兄が許すわけないし。
まぁ、言わなきゃばれないだろうけど、バレた時が怖い。
「…それは…」
うん?
なんだか思っていたのと反応が違った。
私の中では顔を真っ赤にしながら慌てふためくミウの姿だったのに、現状はアイスコーヒーの氷をストローでかき回しながら黙るミウ。
あれ?
なんで黙っちゃったの?
ミウが喋らなくなるのなんて嘘ついてる時か考えてる時くらいじゃない。
…ちょっと待って?
何の話してたんだっけ、…今?
「…あれ?もしかしてマジ?」
ミウはうつむいたまま何も言わなくなってしまった。
覗き込むとミウは唇を噛み締めながら、顔を真っ赤に染めている。
「いや、ごめん。今の話なしで!」
慌てて話題を変えようとしたが何も思いつかない。
恋愛の話ばっかりの友達が多かったためか、ミウの場合はこんなふうに反応されると話を振った私の方が恥ずかしくなる。
奇妙な沈黙が続く。
どうしよう…。
どうする?私‼︎
「ミウ。ミカちゃん。」
一瞬、天の声かと思った。
振り返るとライトグリーンのシャツを爽やかに着こなした、噂の彼が立っていた。
「午後の授業は?休み?」
「私は14時の必須科目が。ミウは確か午後から休みよね?」
「そう。」
アキラ君の登場でさっきまでの微妙な空気が少し和らいだ。
ニコニコと笑う彼は本当に仏のようだ。
こんな人でもイライラとか負の感情になったりすることがあるのだろうか…。
「で、ミウたちは何の話をしていたの?」
前言撤回っ!
アキラ君、空気読めっ!
「最近ミウ達、だいぶ恋人っぽくなってきたねって話。」
嘘は付いてない。
そういうニュアンスの話はしていたのだから。
アキラ君は照れたように笑いミウをみる。
本当に優しそうに、愛おしそうな目で。
「そうかな?まぁ、やっとミウの方からも連絡くれるようになったし、それなりになんとかやってるよ。」
ねっ、と同意を求めるようにアキラ君は笑って見せた。
それに応えるように笑ったミウは彼の腕を引くと隣の席に座らせる。
コーヒーのカップに口をつけながら2人が並ぶと絵になるな、なんて思う。
ミウは中身はともかくビジュアルのレベルは並じゃない。
モデルとか女優でも通用しそうなほど綺麗だ。
またアキラ君もミウの存在感に負けないだけのものを持っている。
甘いルックスに温和な性格、入学当初から結構噂になっていた。
「そういえば、見たい映画あるっていってたよね?午後から僕も休みだから見に行こうよ。」
「え!?いいの?すごい見たかったの!何時の見ようかな…。」
スマホで映画の時間を調べているらしいミウの隣でアキラ君が優しそうに見守っている。
「ミウが見たがってるって、『あの日見た星の名前を僕達はまだ知らない』ってやつ?」
「そう!すごく泣けるアニメの劇場版なの!ミカにも絶対見て欲しいな!」
アニメの話になるとミウは人が変わる。
私はそこまでアニメや漫画に興味がないのでミウがマニアックな話をし始めると、正直ついていけないところがある。
静流は案外アニメもいけるらしく、ミウと2人で盛り上がっていたりするのだ。
「アキラ君もアニメとか見るんだね、ちょっと意外。」
「うん、ミウと付き合うまでは全然見たことなかったんだ。ここ数カ月でだいぶ詳しくなったかな?とりあえずミウの家にあるDVDは制覇したよ。」
洗脳されている…⁇
話を聞いていると、ここ最近の2人のブームは家で一緒にアニメのDVDを見ることらしい。
そういえばミウが頻繁にTSUTAYAの袋を持っているところを最近のよく見かけていた。
2人でDVD…シチュエーション的には恋人同士なら最高の演出になるのだが、それがアニメとなると話はまた別だと思う。
ミウはアニメを見始めたら夢中になって邪魔されるの嫌がるし、アキラ君も真面目に見てミウに手を出そうとかも考えないんだろうな…。
ミウとアキラ君は目の前でアニメの話に花を咲かせている。
私はそんな2人をテーブルに頬杖をつきながら眺めていた。
楽しそう。
アニメのこともミウの押し付けとかじゃなさそうだし。
もう心配することなさそうね。
「そろそろ授業の時間だから私行くね?ミウ、今度カラオケ行く約束忘れないでよ?」
「わかってるよ。頑張ってきてね!」
席の後ろに置いてあったバックを持って立ち上がる。
こちらに向けて手を振る2人。
本当に恋人って感じになってきたな…。
どちらかというとアキラ君がミウに染まってきたというか…。
でも、ミウもアキラ君と付き合うようになってちょっと変わってきたかも?
2人に手を振りかえして歩き出す。
午後の授業はあと20分ほどで始まる予定だ。
授業の前に雄介にメールを入れる。
『今日の晩ご飯は何がいい?』
最近は学校が終わったら雄介の家に行ってご飯を作るのが日課になっている。
雄介は料理もろもろ、家事全般が苦手だ。
お米の炊き方や電子レンジの使い方すらわからないような状態だ。
私がいないと家なんかもすぐにゴミ屋敷になってしまう。
手の中でスマホが小さく震える。
『なんでもいいよ、ミカの作るものなら何でも!ハート』
メールはすぐにかえってきた。
スマホを握る手に力が入る。
…「なんでもいい」が一番困るんだけどな。
カフェの扉を開けると、涼しげな風が体を纏う。
今にも雨の降り出しそうな曇り空に私はふと息を吐く。
もうすぐ秋が来て、あっという間に冬が来る。
ここには雪が積もらない。
雪は降るが、すぐに消えてしまう程度だと聞いている。
あの頃はあんなに雪が嫌いだったのに。
早く雪降らないかな…。
地元の雪が懐かしいなんて。
そう思ってしまうのは何故だろう。
もう直ぐ冷たい季節がやってくる。