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Ep.3 カノジョさんとお勉強。

Ep.3 カノジョさんとお勉強。




どうしたらいいんだろう、この状況。


「あぁ!どうしたらいいの!私の夏休みが!」

僕の彼女こと、椎名ミウは僕の腕をぐいぐい引っ張りながら前方を歩いている。

先ほど電話にて教育学部正面入り口へ呼び出され来てみると、眉間に深くしわを寄せた彼女が腕を組みながら立っていた。

そして無言で僕の腕を掴むと、どこかへと歩き出したのだ。

「本当、信じられないわ!何で課題なんてくだらないものがあるのかしら!もう大学生よ?講義のレポートだってちゃんと提出してるのに!」

なにかブツブツとつぶやきながら彼女は淡いグリーンの建物の中に入っていく。

そこは工学部構内と教育学部構内との間にある古い建物。

「あれ?ここ図書館…。」

彼女はその一番奥の席に荷物を置くとドカッと席について、目にも止まらぬ速さで机の上に参考書とノートを広げた。

何十枚というプリントも広げられる。


いったいなんなんだ?


「どうしたの?アキラくんも早く座って。道具は、持ってきてるわよね。」


道具?

何の道具?


彼女の急な呼び出しに、何も用意してきていなかった。

だがふと手元の鞄に視線を落とし、なんとなく彼女の意図を読み取った。

そして音を立てないように静かに彼女の横の席に座った。

鞄の中のプリント数枚とノートを出して取り掛かった。

隣の彼女はガリガリと手にしたペンに力が入っていて、高速で動き続けている。

まさに鬼の如く。

がりがりとなぜそんなに力を入れる必要があるのだろうか。

椎名の手首が心配になった。

「なに?椎名、テストやばいの?」

来週からテスト週間で周りにはテストの勉強をしているらしい学生がたくさんいた。

だからもしかしてと聞いて見たのだが、そういえば椎名は国際教育学部内での優等生だったのだと、言ってから気がついた。

彼女はキッとこちらを振り向き、静かだが迫力のある声で言う。

「全然問題ないわよ、テストは。ただ、今日夏休みの課題が発表になったから今のうちにやっておこうと思っただけ。こんなくだらないものに私の楽しい夏休みが潰れてしまったら悔やんでも悔やみきれないもの。」

「しかも、どの講義もノルマが結構多いのよね。」


はぁ、そうですか…。

自分の夏休みのためですか。


確かに彼女はたくさんの言語を学んでいる。

その分課題の量も多いのだろう。

彼女はまた黙々とノートに何かを書きはじめる。


僕は…一体どうしたらいいんだろう。




「それ、次のテストの勉強?数字がいっぱい。」

しばらくすると横から彼女が僕のノートを覗き込みながら囁いたのが聞こえた。

いつから見られていたのだろう?

興味心身に身を乗り出して彼女は質問してくる。

「そう、コンピュータ回路の解析。」

「やっぱりアキラ君は理工学部だから数学とか得意なの?」

「そうだな。どっちかっていうと数学は得意なほうかな。むしろ俺は国語とか文型のほうがダメだから。」

そう言うと彼女は不思議そうに目を丸めた。

「そうなんだ。アタシはね、数学はめっきりダメなのよ。中学の頃からねテストは散々だし、高校の模試に限ってはもう最悪!」

彼女は持っていたシャープペンシルを机に置くと、気分が上がってきたといわんばかりに身振り手振りをつけて話し続ける。

「模試って受験時間が長いじゃない?アタシ、数学の模試は最初の一問目の問題しか解けなくて!時間が余るから、もうその時間いっぱい睡眠時間よ。そしたらね、ふと気がついて起きてみたらアタシったら提出する解答用紙に、そりゃぁもう綺麗に涎垂らしちゃってて…。フフッ、どうやって乾かそう?どうしたらばれないかな?ってもう必死で!」


よだれ?!

どんだけぐっすり寝てたの?!

てか、一応全国模試だし、いくらなんでも一問目の問題しかできないって・・・。


そう思いながらも、俺はその話を聞きながら笑いをこらえるのに必死だった。

ここは図書館だし、周りには他の生徒もいるので俺は声を出さないように一生懸命こらえる。

そんな僕の様子に気がつくことなく彼女は話し続けた。

「あとはね夢見ちゃって、あぁ、野球ボールが目の前に飛んでくるって夢でね。アタシ驚いちゃってまだ試験の最中だったのに大きな声で悲鳴上げて、漫画みたいに机と椅子両方倒しちゃって…。」

そこまで聞いて俺はついに我慢できずに噴出してしまった。

一斉にこちらを振り向く人の視線が突き刺さる。

しかし、俺はどうしてもそれを抑えることができなかったのだ。




「もう、アキラ君が大きな声で笑ったりするから、図書館追い出されちゃったじゃない!どこで課題やったらいいのよ。」

彼女は少しご立腹のようだ。

そう、僕たちは図書館を追い出された。

司書さんが申し訳なさそうにご迷惑になりますので…と言ってきた時ですら、笑いを堪えきれず、謝ることも難しかった。

「椎名が面白い話するからだろ。」

久しぶりにこんなに笑った。笑いすぎて頬も腹もなんだかだるい。

しかし彼女は昔からこんな感じにマイペースを崩さないのか。

「そう怒らないで。勉強なら僕の家でやればいいし。ついでに晩ご飯も食べていけばいいよ。」

きっと今夜も買い溜めしておいたインスタントラーメンとか食べるんだろうし、などと考えて今日のメニューを何にしようかと悩む。

「本当?いいの?!じゃあ、今日の晩ご飯はカツ丼にしよう!カツ丼!」

「カツ丼?そんな簡単なものでいいの?」

本当はもっと体に良さそうな物で、普通の家庭料理を考えていたのだが、椎名が食べたいというならそうしよう。

「この間警察ドラマでカツ丼見てね、食べたいと思ってたの!さぁ、買い物して帰ろう!」

さっきまでの不機嫌な彼女はどこへいったのやら。

また彼女は僕の腕を掴んで歩き出す。

そして僕は引っ張られるようにして彼女について歩いていく。

「そうね、ジュースも買っていかなきゃね。どうせアキラくんの家には炭酸なんてないでしょうし。」

彼女の頭はもうすでに買い物のことでいっぱいらしい。

そういえば彼女はジュースしか飲まなかったんだっけ。

「そうそう、アキラ君…。」

急に椎名が立ち止まる。

思わずぶつかりそうになり、すんでのところで止まったのだが、椎名はさっきとは打って変わってまじめな顔をしている。

そんな彼女に不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。

「どうしたの、急に。」

「私ね…今日お財布忘れてきちゃったの。今日の分はお金出してもらってもいいかな?」

満面の笑みで見つめる彼女。

ガクッと力なく僕は肩を落とす。


そんな顔されたら断れないじゃないか!


「わかった。僕が払うよ。」

「やったぁ、ありがとう!」

そして彼女はウキウキとまた歩き出すのだった。



日向 秋良。20歳。

今日も彼女に振り回されっぱなしです。

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