ep.2 カノジョさんのお食事事情。
ep.2 カノジョさんのお食事事情。
本当に、また・・・なんなんだ?
僕はスマホを手に走っていた。
どうしてこんなことをしているのかというと、それは数分前。
講義が午前で終わりだったため、家でゆっくりしようかと自宅に歩いて帰っている途中のことだった。
着信音が鳴り響き、スマホをとりだす。
画面に映った見慣れた名前に僕は首を傾ける。
「あれ?椎名?」
彼女から電話、というか連絡がくるのは非常に珍しい。
いつもは彼女の携帯の電源が入っているだけでも奇跡のようなものなのに。
電話がきれてしまわないうちに、通話ボタンを押して耳元に当てた。
その瞬間キンキンと頭に響く、大きな音が耳に飛び込んできた。
「アキラくん!?助けて!大変なの!ここは駅から大学に向かったところにある、スーパー…」
プチっ。ツーツーツー・・・。
えぇ?何?どうゆうこと?
助けてっていった?
スーパーで助けてってどういう状況?
頭にクエスチョンマークが浮かび上がる。
よくわからないが椎名が助けを求めているのだからと、僕はUターンして今きた道を戻る。
駅は自宅の反対側にあるため、逆方向だ。
なんだか嫌な予感しかしないのだが。
とにかく急いで椎名に合流するため、僕は走った。
言われたとおりのスーパーに着くと、お店の出口のところで彼女が立っていた。
少しうつむいて、その表情は見えない。
泣いてる…?
一瞬戸惑い、手にしていたスマホをポケットにしまうと、両手の手にひらの汗をふきとる。
「…しいな?」
ゆっくりと彼女に近づき声をかける。
緊張していたせいか声がかすれて、思っていたより小さな音になってしまった。
彼女はそんな小さな声に気がついたようで、ピクリと体を震わせた。
「アキラくん!!」
僕の姿を映した瞬間、彼女は満面の笑みを見せてくれた。
泣いているわけでなはかったらしい。
ホッと胸のつっかえが取れ、ため息をついた僕。
そんなことにもまったく気づく様子のない彼女は、僕の腕にしがみつくように抱きつくと「待ってたの。」とにっこりとほほえんだ。
(なんとも非常にかわいいのですが・・・。)
にやける顔を隠すようにもう片方の手で額の汗を拭った。
走ってきたためか、未だにじんわりと体が暑かった。
「本当に助かったぁ。もう一人じゃどうにもできなくて。」
そう言って彼女は自分の後ろを振り返り、下に向かって指をさす。
僕はその彼女の指差す方向を見て、ここに来たことを少し後悔した。
「買い物?…いや、でも。…なに?この量。」
彼女の後ろに並ぶ買い物袋。左から1,2,3,4・・・・えっ?
「ちょっといつもより少し買いすぎちゃって。今日安売りだったの!」
それにしても多すぎる。コレみんな持って帰るつもりだったのか?
コレを見て、なぜ彼女が僕を呼んだのかわかり少し落ち込んだ。
でも、まぁ頼ってくれているのだと考えることにして、僕は荷物を両手に抱え彼女の家に向かったのだ。
「椎名、コレはちょっと買いすぎだと思うよ。」
彼女の住むアパートについて荷物を床に置く。
荷物の重さでだるくなった腕をさすりながら言った。
「そうかな?基本まとめ買いだからね。コレくらい買わないと日がもたないんだよ。」
そんなものなのだろうか。
彼女はさっそく買ってきたばかりの食品たちを冷蔵庫にしまいはじめた。
そして僕には、見えてしまった。
袋の中の奇妙な光景が。
「なにこれ?」
買い物袋から出てくるのは、コカ○ーラ、ファン○、オ○ナミンCなど。
そしてよく見ると他の袋には様々な種類のカップラーメン。
日用品も僅かにはあるが、数ある袋の中から出てくるのはインスタント食品と、ペットボトルの飲み物たち。
しかも、水やお茶などではない。すべて炭酸ジュース類。
「インスタントと炭酸ばっかりじゃない?」
「えっ?そうかな?」
いや、そうだろ。なんて心の中で1人で突っ込んで見るものの。
どうみても体に悪そうな食品ばかりだよね?
絶対生活習慣病の源たちだよね?
「私ね、水とかお茶とか好きじゃないのよね。」
彼女は次々と食品たちをしまいこみながら冷静に言葉を続ける。
「お金出してまで買いたいと思わないっていうか。」
笑顔で振り返る彼女。非常に可愛い。
ただ、言ってることはなんだか子供見たいだな、とか思ってしまった。
そういえば。
これらを見ているうちに妙な不安を覚えた。
本日2度目の嫌ぁな予感。
あぁ、やっぱり・・・・。
冷蔵庫の中を覗いてみると、思ったとおり。
中には炭酸飲料と少量の調味料。
「もしかして・・・いつもカップラーメンと炭酸ばっかりの食生活だったりする?」
恐る恐る聞くと、彼女はわけがわからないといったように目を丸くして笑った。
「そんなわけないじゃない!」
椎名が声を上げて笑う。
「ちゃんと他のも食べてるよ。」
そう言って彼女が手にしたのは、惣菜コーナーで買ってきたであろう焼き鳥だった。
場所は変わって、俺の自宅。
「なにこれ!おいしーい!!」
椎名が大きな声を出して僕の作ったカレーを頬張っている。
「アキラくん料理上手すぎだよ!」
そう言って次々と口の中にカレーをかきこんでいる彼女は本当にうれしそうだ。
正直、あんな食生活ではあまりにもひどすぎる。
よく今までちゃんと生きていたな。
僕だったら、きっと今頃動けないくらい内臓ボロボロの体になっていたに違いない。
「アキラくん、お代わりしてもいいかな?」
「あぁ、いっぱい食べなよ。椎名のために作ったやつだから。」
ありがとう!とキッチンにお皿を持っていく。
僕はそんな彼女の後ろ姿を目で追い、その背中に顔がにやけるのがわかった。
なんだか餌付けしているみたいだな、なんて思って笑った。
「どうしたの?なんかあった?」
「いや、なんか嬉しくて。」
彼女の話を聞くと、家事はおろか料理はまったくといっていいほどできないのだという話だ。
そう言われてみれば、と思いあたるところが。
その後聞いた、彼女の食べ物の好みにもかなり驚かされた。
「好きな食べ物?」
うーん、と悩む彼女はなにやら困ったような顔をして、悩んでいる。
「アキラくん、引いたりしない?」
引く?好きな食べ物を聞くだけなんだが。
彼女はポツリポツリと好きな食べ物を挙げていく。
途中、僕は堪えきれず吹き出した。
「何で笑うのー!?」
と顔を真っ赤にして僕を睨んだ椎名は、ものすごく可愛かった。
正直、彼女の嗜好は中年サラリーマンのおっさんだと思う。
焼き鳥、キムチ、梅干、納豆。
続けてスルメや柿ピーなどのつまみ系を好むあたり絶対そうだろう?
本当、今時の女子大生には程遠い食生活だ。
「とにかく、これからいつでもご飯食べにおいで。」
「うん。」と嬉しそうに顔をほころばせて顔をこちらに向ける。
そして僕もその笑顔に釣られるように笑みがこぼれた。
これからはいつもより多めに食材を買っておこう。
僕は心の中でそう決めたのだった。