ep.0 僕のカノジョさん。
正直に言います。
僕のカノジョは「 」です。
どこにでもあるような小さなファミレスの一番奥。
向かい合って座る一組の美男美女。
そこで、ある男の人生に革命が起きようとしていた。
「ぼ、僕と付き合ってください!」
「?いいよ。」
こうして即決で新しいカップルが誕生した。
だが、この男はまだ知らない。
この見目麗しい少女がある種の伝説的な女であることを。
「秋良、この間のレポートできた?」
後ろから肩を叩かれ振り向く。
「雄介、できてるよ。見る?」
おぉ!彼は大きくうなずいてプリントを受け取った。
僕の名前は日向秋良普通の大学2年、理工学部。19歳。O型。
身長は未だ伸び続け182cmになった。
「コレ、理系には難しすぎだろ!わっかんね。テストやばいな。」
そしてこっちが「富永雄介」高校からの同級生、同じく理工学部19歳。A型。
「ミカちゃん、だっけ?教えてもらえばいいだろ。文系で彼女頭いいらしいし。」
そう言うと雄介はじっとこっちを見て口を開く。
「そんな情けないことできるかっ!?俺はクールにかっこよく決めてたいの!」
ミカちゃんとは現在交際4ヶ月を更新中の雄介の彼女、菅野美嘉だ。
小さくて本当に女の子って感じのオシャレな女の子。
よく彼女にできたなと何度か雄介に言ったことがある。
広い敷地内を僕たちは歩く。
この大学に入ってなにが一番大変かというとこのだだっ広い敷地を徒歩で移動しなければならないことだ。めったに工学部の敷地内からはでないのだが、今回は少しはなれた隣の教育学部の方へ出歩いていた。
もちろん教育学部の学生であるミカちゃんに会いに行く雄介の付き添いだ。
「本当に広いな、こっちの敷地。工学部の3倍はあるだろ。」
「ほんとだよ、ここどこだよ。美嘉見つからない。」
「僕にもわかんないよ。」
見慣れない景色にふらふらとあるく。
そろそろ足が痛くなってきたのだが。
「あ!雄介!」
あれこれしている間に、聞いたことのある声が聞こえた。
よかった。これでなんとかなる。
そして声のするほうへ振り向いた。
「こっちの小さいのが野木静流同じ教育学部なの。」
僕は今衝撃を受けている。
ミカちゃんは何か話しているようだけれど、今の僕には聞こえない。
なぜかって?
僕は今すごく、すごく衝撃を受けているからだ!
不意に現れたミカちゃんは一人ではなかった。両脇に友達だろう女の子を二人連れ添っていた。一人はクールな顔立ちの女の子。そしてもう一人は・・・。
「国際教育学部の椎名美羽です。」
コレは本当に驚いた。
長身にすらりと伸びた長い足。そしてきっと染めてはいないだろう色素の薄いハニーブラウンの髪。その目は真ん丸く、茶色の瞳がのぞいている。
はっきり言って、かなりの美人だろう。
結局僕は、雄介とミカちゃんの話が終わるまで、彼女から瞳をそらすことができなかった。
その後、なぜか雄介とミカちゃんに呼ばれ、とある小さなファミレスにきていた。
「アキラくんさ、美羽のことかなり凝視してたよね?もしかして、落ちた?」
席に座りコーヒーを口に含んだところで唐突に言われた言葉。
ありきたりにもコーヒーを口から吹き出した。
「そ、そんなんじゃ・・・!」
ミカちゃんは冷静に汚れてしまったテーブルを紙ナプキンで拭きながら話を続けた。
「アキラくんには悪いと思うんだけど・・・美羽だけは止めといたほうがいいよ。」
無意識に眉を顰めたらしい僕を見てミカちゃんがあわてて訂正する。
「いや、ね、別に悪い子じゃないし、むしろいい子だとは思うんだけど。」
少し言いにくそうにして彼女は雄介の顔を見る。
「少し?いや、かなりクセのある子なの。美羽は。」
「くせ?」
「そう。クセ。」
そう言ったミカちゃんはそれからあまり彼女のことを語ろうとはしなかった。
雄介に聞いても、よくわからないんだ。の一点張りで結局よくわからずじまいだった。
あれから数週間、頭から離れない彼女のことが気になってしょうがなかった。
そして、ついに意を決してダメもとで彼女に告白することを決めた。
こうして冒頭にもどり、僕は奇跡的に彼女の了承を得て晴れて椎名美羽の恋人の座を勝ち取ったのだった。