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霧雀の一族

 蒼は霧雀邸についた。

(正面からは入れないか。)

しかし、いつも閉じている門が今日は開いている。

守衛に聞くと、

「今日は佐紀お嬢様のご誕生日パーティです。お嬢様の希望でどなたでも入れますよ。」

と教えてくれた。

蒼は思った。

(運が良いの?いや、罠かな。どちらにしても……)

豪邸の中に進んでいく。

そこにはきらびやかな格好をした人たちが会食パーティを楽しんでいた。

普通の庶民の格好をした蒼はその中で浮いていた。

(どこ?霧雀 佐紀はどこにいるの!)

辺りを見回すが見つからない。

生徒会長の顔は学校の集会で見慣れているから見落とすわけはないのに。

そこで放送が流れ始めた。

学校でよく聞く佐紀の声であった。

「皆様。今夜はワタクシのお誕生日にお集まりいただいてありがとうございます!佐紀はとても嬉しく思います。」

(まずいな、これだけの人を巻き込むわけには……)

「ここでサプライズゲストを紹介いたします。榎木 蒼さん!」

一斉に会場にいた全員が蒼の方を振り向く。

「今日は来てもらえるとは思ってもみませんでした。ワタクシの最愛の友人に歓迎の花束を!」

全員が懐から銃を取り出す。

蒼めがけて一斉に発射した。

蒼は素早くテーブルの下に隠れ、そのままテーブルを持ち上げて盾にした。

豪華なテーブルは頑丈で銃弾を防いでくれた。

そのまま廊下の影に逃げ出す。

その様子を別室のモニターで見ていた佐紀が感心して言った。

「決闘の世界でなければ武器が使えないから楽勝だと思ったのに……中々やるじゃないですの!」

横に立っている今生がそれを聞いて言った。

「こないだ学校で説明しようとしましたのに。榎木 蒼は母親を殺されてから仇を討つために訓練を……」

「あら、そうでしたの?健気ですわね。まぁ、いいですわ。やっぱりワタクシ達の決闘は武器でつけなくてはね。」

世界が歪み始めた。

決闘の世界に移動したのだ。

佐紀の部下たちも決闘の世界に巻き込まれ、うろたえて口々に言った。

「何だ、ここは?」

「さっきまで俺達は霧雀邸にいたはずなのに……」

「佐紀お嬢様!これも演出ですか?」

もう、蒼を狙っているものはどこにもいなかった。

「ひぃっ、何だ、あれは?」

見ると人の形をした泥の塊が動いていた。

泥の塊は佐紀の部下の一人に襲い掛かった。

「ひぃっ!助けてくれぃ!」

恐怖で動けなくなっていた佐紀の部下は泥の塊に押さえつけられ首を噛み切られ絶命した。

一人が死ぬ事によって我に帰った部下が叫んだ。

「うっ、撃て!撃てぇ!あの化け物を撃ち殺せ!」

銃弾が泥の塊に当たる。

何発か当たると泥の塊は崩れ落ちた。

しかし、次から次にと泥の塊が起き上がり始めた。

それどころか先ほど殺された男も泥の塊と化した。

蒼も驚いて言った。

「何だ、こいつらは?まるでゾンビのような……」

「ワタクシは骸と呼んでおりますわ。」

佐紀が今生を従え現れた。

格好はすでに赤マントになっている。

佐紀は続けて言った。

「ご存じなかった?この世界で死んだ人間はああやってこの世界をさまよい続けるのよ。永久にね。決闘の世界が開かれるたびに復活する永遠の化け物。今度から誰かが死んだところで決闘の世界を開いてみてはいかが?」

「その格好……やっぱりお前だったのか。」

「ええ、貴女が愛しく思っている母親の仇よ。」

蒼は指輪を投げ捨て白衣に姿を変えた。

スタンガンからいつも以上に大量の電撃が放出される。

「お前だけは許さない!絶対に許せない!」

「あらあら怖い、怖い。せっかくの美人ですのに台無しですわよ。」

「今日は逃がさないぞ!ボクとお前の決闘だから!」

「それはお互い様。ワタクシも引く気はござんせん。」

「はっ、1対1でボクに勝てるとでも?」

その時、骸から逃がれた佐紀の部下が佐紀の足を掴んだ。

「お嬢様……お助けを……」

佐紀の横に控えていた今生がその手を払った。

「何をするんだ、貴様!」

逆上した部下は今生に殴りかかる。

佐紀がその光景を見ながら笑って言った。

「1対1ですって?」

今生が右の手袋を取った。

その中指には赤い糸が巻き付いていた。

今生は静かに言った。

「そう、2対1ですよ。」

今生が中指をポキリと鳴らした。

今生の体が茶色に光りだす。

輝きがおさまると、今生の姿が執事服に変わった。

今生は襲い掛かってきた部下を紙のように引き千切り、蒼の方を向いて言った。

「はじめまして、右の人差し指のお嬢さん。俺の名前は今生このう おさむ。博和 利士に思いを寄せる一人だ。」


 霧雀邸の前に曲、要、英子、美の4人がいた。

要があの後すぐに曲に連絡をとり、あの電話が曲のものではないと知って霧雀邸の前に集まったのだ。

しかし、門の前で守衛に引き止められていた。

「ですから、先ほどお嬢様から連絡がありまして。これ以上は誰も入れるなと。」

美が食って掛かる。

「さっきの音を聞いたでしょ?あれ、絶対に銃声だよ!緊急事態だよ!」

「花火かなんかでしょう。もう一度、お嬢様に連絡をとってみますから。」

英子も叫ぶ。

「連絡がとれるわけないでしょ!」

要は3人が騒いでいる場所から少し離れ、曲を呼んだ。

「ちょっと耳をすましてみて。お屋敷の中から何か聞こえない?」

「……!これ、決闘の世界の入り口の吸い込み音!」

「ご名答。しかもかなり大きめだね。」

「じゃあ、蒼さんと霧雀が決闘を……?」

「1対1だといいけどね。入り口を大きめにしたのが気になるな。」

英子と美が守衛のところを離れ、曲と要のところに戻ってきた。

「駄目だよ、正面からは入れない!どこか裏口とか探すしか……」

「みぃちゃん、そんな守衛さんにも聞こえる声で……」

要は少し考えてから言った。

「ねぇ、ホーリー・ガン・ウーマン。決闘しない?」

美があきれて言った。

「こんな時に何を言っているんだよ、あんたは!つーか、ほーり何たらって誰だよ!」


 「ぬがぁぁぁ!」

治は自分の身長より大きな岩を持ち上げた。

それを片手で盾を構えるように目の前を遮った。

「くっ……」

蒼はスタンガンを振り電撃を放った。

しかし、岩を貫くまでにはいたらず電撃は四散した。

岩の後ろから佐紀が勝ち誇って言った。

「どうかしら?力バカでも使い方しだいでしょう?」

「男がこのゲームに参加しているなんて……」

「近親相姦も許す神様ですわよ?性別で差別なんかしないですわ!」

治が大地を蹴り、空高く飛び上がった。

佐紀が地面を駆け出して言った。

「さぁ、2択ですわ。空の力バカと地のお嬢様。攻撃すべきはどちらでしょう?」

「ボクの狙いは最初から……霧雀 佐紀、お前だけだ!」

蒼は駆けてくる佐紀にスタンガンを向けた。

佐紀はそれを見て再び勝ち誇って言った。

「ぶーぶー。外れですわ。」

治が予想より早く空から落ちてきた。

まるで空を蹴ったかのようであった。

電撃を出す一瞬前の蒼は治に組み伏せられた。

佐紀は走るのを止めて歩きながら言った。

「とどめはワタクシが。勝手に殺したりしないでね、今生。」

「はっ、お嬢様。」

その時、治の体が吹っ飛び蒼の姿が消えた。

サーフボードに乗った要であった。

要は蒼をかかえながら曲たちの前に戻り、英子と美の方を向いて言った。

「巻き込んでごめんね……緊急事態だったから位置どりをする余裕がなかったんだ。」

美は笑って言った。

「もう慣れっこよ!それに巻き込まれたのは私たちだけじゃないし。」

「ひぃ!ここはどこだ!?何で風景が変わっているんだ!?」

どうやら近くにいた守衛も一緒に決闘の世界に引き込まれたようだ。

佐紀が驚いて言った。

「どうしてここに……?屋敷には入れないようにしておいたのに。」

要は自慢げに言った。

「あら、知らなかったの?決闘の世界は全て繋がっているんだよ。入り口が違ってもね。」

曲もうなずいて言った。

「最も、あたし一人だったら蒼さんを助けにこられなかった……そこんとこ、分かっている?蒼さん?」

蒼は苦笑いをして言った。

「はいはい。独断専行したボクが悪かったです。」

佐紀は歯軋りをしながら叫んだ。

「忌々しい……だったらここで一気に3ポイントゲットですわ!行きますわよ、今生!」

曲が驚いて言った。

「ねぇあの人、男だよね?中指から赤い糸が出ているよ?」

美がいやらしく笑って言った。

「ホモなんじゃないの?」

英子が口を押さえて驚いた。

「まぁ、ホモ?」

それを聞き逃さなかった治が叫んだ。

「ホモではない!たまたま愛した人が同姓だっただけだ!」

治が地面を蹴り、駆け出す。

再び蒼が構えたので岩を拾って盾のように構えながら突っ込んできた。

要が叫んだ。

「後ろがガラ空きだよ!」

治の後ろから鈍い衝撃が走る。

しかし、今度は治が身構えていたので吹き飛ばされることはなかった。

逆に要が弾き飛ばされ、尻餅をついた。

「いたたた……なんつー硬さ。」

「そう、これこそが俺の武器!肉体強化こそ最強の武器なのだ。」

「最強ね……でも、物理攻撃に対してだけじゃない?」

「榎木 蒼の電撃は攻略済みだ。」

要は素早く蒼の元に移動し、蒼を腰から持ち抱え言った。

「ここはブラック・ブルー・コンビネーションといきましょうか。」

「はっ?」

「やれば分かる!行くよ!」

再び要と蒼の姿が消えた。

治は鼻で笑って言った。

「二人がかりで体当たりしようとも、俺の肉体強化の前には……?」

治の背後から電撃が突然現れた。

「ぐがっ!」

「どう、スピードと電撃の連携攻撃は?」

治がその場に崩れ落ちる。

佐紀が唖然としていた。

佐紀の方は曲に銃口を向けられて動けなくなっていたのだ。

佐紀は悔しそうに言った。

「こんなはずは……ワタクシが負けるはずが……」

「あったんじゃないの?因果応報ってやつよ。」

佐紀は突然駆け出した。

曲は銃弾を正確に佐紀の体に当てたが佐紀の体は止まらなかった。

「こいつ……化け物か?」

佐紀は治の体を掴みそのまま駆け抜けようとした。

要がサーフボードの先端を二人に向けながら言った。

「このう、我のスピードから逃れられるとでも……」

「待って、ここはボクにやらせて。」

蒼が要を制止して、スタンガンを構えた。

(お母さん……今こそ仇を!)

スタンガンの先に電撃を集中させた。

今までにない巨大な電撃が球状になり集まってきた。

「霧雀 佐紀!あの世でお母さんに詫びてこい!」

蒼の叫びとともに玉は爆発した。

そして世界が歪みだした。


 「本当に……危ない……ところだった……ぐぎぃっ!」

治は現実の世界を這いずり回りながら呟いた。

「念のため、決闘の世界の入り口を俺とお嬢様で開いておいて正解だったな……」

最も、そのことは直前まで忘れていた。

佐紀につかまれて耳打ちされてようやく気付いたのであった。

「お嬢様は逃げおおせたのだろうか?それともあの電撃を避けるのが間に合わずに……」

あり得る話であった。

治の肉体強化と比べて佐紀の「切る」武器では耐え切れる道理がない。

肉体を強化している自分でさえこれ程のダメージがあったのだから。

しかし、その事実に治は喜んだ。

「それならそれで好都合……一番の強敵が消えたという事だ。それにこれで奴らは俺が死んだと思い込むはずだ。後は隙を見つけて……」

治に忠義心はなかった。

佐紀は小さい頃からその美貌ゆえによこしまな目で見られることが多かった。

それゆえによこしまな目で見ない同性愛者の治をそばに置いていた。

それだけの話であった。

「くくく……博和 利士に女は似合わないよ。あの子は俺のものだ!」

治は佐紀の呪縛から解放されたかのようであった。

その時、頭上に人影が合った。

顔を上げるとそこに美がいた。

(こいつ、六学 曲の仲間の……見つかったのか?)

周りを見渡すが目の前にいるのは美だけであった。

(……これはチャンスだ。こいつは弱っている人間を放置できない人間だったな。こいつの情に訴えて六学 曲達と手を組めれば。)

治が口を開こうとする前に美が言った。

「えいっ!」

(えいっ?)

それが治が人生で最後に聞いた言葉であった。

そのまま治の意識はブラックアウトした。


今生 冶の物語――。

 俺の親は最低だった。

金のために俺を霧雀の家に売ったんだ。

表向きは住み込みで働くという形だった。

しかし、実際には霧雀家の当主であり佐紀の祖父にあたる男の色欲のためであった。

別に俺が幼少期から可愛い顔立ちをしていたというわけでもない。

当時の霧雀家の当主様が同性愛者というわけでもない。

ただ、自分の性欲を満たせれば誰でもよかったらしい。

毎日が地獄であった。

しかし、逆らえば生活能力のない幼い自分は生きてはいけない。

ただ、殺意だけを胸に秘めて生きていた。

じじいの色欲から救ってくれたのは佐紀であった。

俺を弄んでいる最中のじじいの隙を見て首をしめ殺した。

霧雀の家はじじいが色ボケの最中に死んだ事を恥に思い、特に調べもせずに老齢で死んだという事にした。

その日から俺は霧雀ではなく佐紀に仕える事になった。

金や生活のためではなく、感謝の忠義心だ。

でも、じじいが残した俺へのトラウマは消えなかった。

俺は男しか愛せなくなっていた。

そんな中、佐紀の命令で調べた男子がいた。

博和 利士だ。

俺は初めて恋をした。

じじいのような色欲ではなく、純粋な恋をだ。

しかし、佐紀も利士に恋をしていたのだ。

佐紀は俺が利士に恋した事を喜んでいた。

便利な手駒ができた、と。

恩人を俺が裏切るわけはない、と。

しかし、佐紀の思惑と俺の考えは違っていた。

利用するのは俺の方だ。

今度は霧雀を俺が利用する番だ。

その日から俺の忠義心は仮面に変わった……


忠義心を生かすことなく――今生 冶、死亡。

これで……後7人。

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