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それぞれの正義

 「いたっ!すみません!」

飯田は女生徒と肩がぶつかって体勢を崩した。

「いいえ、お気になさらずに。」

その美しい声に飯田は思わず振り返った。

そこには髪の長い美しい女生徒が立っていた。

まっすぐに飯田を見ている。

女生徒の唇がゆっくり動き飯田は息を呑む。

「あなた……」

「えっ、何ですか?」

「いえ、シャツのボタンが取れていますわよ。お時間があればすぐそこに生徒会役員室がありますから、そこでつけますわよ?ワタクシ、こう見えても生徒会役員なので部屋のカギは持っております。」

「あっ、そうなんですか?それではよろしくお願いします。」

飯田は彼女の事を知っていた。

ぶつかったのも彼女に気をとられていたからであった。

彼女は校内でも有名であった。

何しろ生徒会長でお金持ちのうえに美人。

密かに校内で人気があったのだ。

彼女、霧雀 佐紀は。


 飯田が生徒会役員室に入るのは初めてであった。

「他の役員の方はいないんですか?」

「ええ、今日は役員会合の日ではないですので。」

飯田はゴクリと息を呑む。

佐紀と二人きり……

佐紀の制服の上からでも分かる巨乳に目がいく。

「気付いていました?」

突然の問いかけに慌てて飯田は胸から目をそらして言った。

「なっ、何をでしょうか?」

「ぶつかったのはわざとですの。貴方をこの部屋に連れ込みたかったのですのよ。」

飯田の心臓の鼓動が高まる。

再び巨乳に目がいく。

佐紀が左手の小指のダイヤの指輪を胸の先端にこすりつけているの見てさらに胸が高まる。

「あなた……とっても好み。ワタクシ我慢しないほうですの。」

飯田は次の言葉に期待をした。

「だから今すぐ……貴方を殺させて?」

次の瞬間、飯田の目の前が歪んだ。


 「……ここは?」

飯田は決闘の世界に連れ込まれた。

佐紀が顔を紅潮させながら言った。

「ここにはワタクシ達しかいません……さぁ。」

佐紀は左の小指のダイヤの指輪をゆっくりと外した。

体が灰色に輝きだし、佐紀は赤マントの格好になった。

「いい声を聞かせてくださいな?たっぷりと。」

マントの中から鉈を取り出した。

飯田の心臓の鼓動が早くなる。

しかし、先ほどまでの甘い鼓動ではなく……


 佐紀は元の世界に戻ってきた。

もちろん、一人でだ。

辺りはすっかり暗くなっている。

「下校時間を完全に過ぎていますわね……ワタクシとしたことが白熱しすぎましたわ。」

そして再びダイヤの指輪を胸の先端にこすりつける。

「その興奮した時に乳首をいじる癖……直したほうがいいですよ。」

部屋のすみから誰かが話しかけてくる。

この学園の男子生徒であった。

しかし、普通の生徒はしないような白い手袋をはめている。

まるで執事のように。

佐紀は指を胸の先端から離してから言った。

「別に直す必要はないですわ……どうせ、この事を知った人間とはもう会わないですもの。」

「それでは、昔からその癖を知っている私はどうなりますかな?」

「何なら明日から会わないようにしてもいいですけど?」

「お戯れを。」

「それよりも今生このう。何か報告があって来たのでしょう?」

今生と呼ばれた男は佐紀の家に住み込みで働いている執事であった。

佐紀とは小さい頃からの付き合いで佐紀の性癖を唯一知り、その上で仕えている男である。

今生は懐からペンライトと写真を取り出し、写真をライトで当てながら話し始めた。

「まず、一人目は六学 曲。特に目立った生徒ではないので見つけるのに苦労しました。しかし、博和 利士に対し熱い視線を送っていました。」

「ふぅん、地味な見た目だと思ったら隠れストーカーだったわけね。要注意ですわ。次は?」

「ええ、双子の姉である博和 小折。」

「ん?こいつお姉さまでしたの?姉でありながら弟に邪な感情を抱くとは……あっ、こいつの写真は処分していいですわ。もう、いないから。」

「そうですか。」

今生はその場で小折の写真を破り捨てた。

佐紀は写真の破片を踏みつけながら言った。

「他には?」

「次は折部おりべ かなめ。占いが好きで女友達も多いようです。」

「あー、女って占いが好きですからね。」

「ただ、友達に「私には前世から結ばれる運命にある人がいる」とか、漏らしておりますね。」

「何だ、ただの邪鬼眼ですのね。で次は?」

「次で最後です。幼馴染の。」

「榎木 蒼。」

佐紀は再び胸の先をいじりだした。

「長い付き合いですものね……そろそろお別れにしましょうか?」


 次の日の夕方、蒼は夕食を買うために商店街を歩いていた。

(まさか、小折が死ぬなんて……)

小折の敗北は曲から聞いていた。

曲も実際に小折が死ぬところを見たわけではなかったが、元の世界に小折が戻ってきていないことから死んだと推測したのであった。

(それにしても……)

利士の反応が不可解であった。

自分の双子の姉が行方不明だというのにそれを気にした様子がない。

それどころか最初から自分には双子の姉などいなかったと言い出すしまつだ。

(ゲームで死ぬと存在自体を否定されるのだろうか?)

ありうる話であった。

ゲームの進行の妨げになるなら神やQPはそのぐらいはしそうである。

(まずいな……これに気付かれたら、罪の意識が薄くなってゲームに乗る人が増えるかも……)

調味料のコーナーをいつの間にか歩いていた。

「そういえばソースが切れていたっけな……犬の絵と猫の絵のパッケージがあるな。どちらにしようか?味は大差がないと思うけど。」

「犬がいいよ。」

突然、声を後ろからかけられ蒼は振り向いた。

そこにはタロットカードを持ったボブカットの女の子が立っていた。

蒼と同じ学校の制服を着ている。

しかし、もう春も終わりだというのに冬用のコートを着ていた。

コートの少女はタロットカードをきりながら話を続けた。

「犬の方が運気は上がるよ?勉強運とか金運とか。でも、猫はお勧めしない。恋愛運はそちらのほうが上がるけど、他が最悪。」

「……」

「冗談だよ、冗談!ソースの味が同じだと思っているのでしょう?でも、それは大きな間違い。美味しいのは犬の方だよ。」

「……どちらさまでしょう。」

「名乗るのが先だったね。我が名は折部おりべ かなめ。でも、これは今世での仮の名前。真名はブラック・ロリータ・サーファーって言うの。かつて神の尖兵として悪魔と戦ったけど、その勇姿があまりに偉大すぎて神に裏切られた。でもただでは死ななかった。転生を繰り返しては何度も神に戦いを……」

「悪いけど、よそでやってくれる?あんたに付き合うほど暇じゃないんだよ。今晩の夕飯の支度とかで。」

「まぁ、待ちなって。貴女はかつて我とともに戦ったブルー・サンダー・シューター。ラグナロクの時は近い。今のうちに結託して……」

「巻き込むなって言ったの!今度は理解できた?」

そこで要は右手を突き出した。

ドクロの指輪が薬指にはめてあった。

「あんた、まさか……」

要が指輪を引っこ抜くと薬指に赤い糸が巻き付いていた。

要が勝ち誇って言った。

「場所。変えようか、榎木 蒼さん。」


 商店街の裏の公園に二人は来た。

遊具の少ない公園で遊んでいる子供の姿はなかった。

蒼が聞いた。

「……どうして分かったの。ボクの事が。厨二設定以外での答えを要求する。」

「占い。」

「そういうのはもういい!」

「本当だって。我の占いはよく当たるんだよ?まぁ、信じるのも信じないのも勝手だけど。」

世界が歪む。

二人は決闘の世界に呼び込まれた。

蒼が指輪を引き抜き地面に投げつけた。

地面から煙が噴出し蒼の体が黄色に光る。

輝きがおさまると白衣姿に蒼の姿は変わっていた。

要は拍手をして言った。

「なるほど、それがそなたの真の姿か。」

「……ただの着替え。」

「それでは、今度は我の真の姿を見せてやろう!」

要がドクロの指輪を指でリズミカルに叩き出した。

音に反応して要の体が黒く光りだす。

輝きがおさまると要の姿は巫女服になっていた。

「これぞ、神々と戦った時の我の真の姿!」

「神様に仕える姿になって、何を言っているんだか……」

蒼はスタンガンを降り、その場に電撃を落とし地面を吹き飛ばした。

要が意表を突かれ、しりもちをつく。

その様子に蒼が冷静になって言った。

「いけない、変な世界観に飲み込まれるところだった……聞いて、ボクは殺し合いをするつもりは……」

「も、問答無用!」

要が持っていたタロットカードをバラバラと投げ捨てた。

タロットカードはサーフボードに変化した。

要はサーフボードに乗り言った。

「我の神速についてこられるかな?」

「また、神様……神に逆らう戦士じゃなかったっけ?」

「んやから元は神の尖兵だったて言うとるやないか!……言っているではないか。」

言い終わると同時に要の姿が消えた。

「なっ……?」

風を切る音だけが世界に響く。

そして鈍い衝突音と共に蒼の体が宙を舞った。

蒼は無事に着地をして言った。

「そうか……消えたんじゃなくて、もの凄い速度で動いているのか!」

「よくぞ見破った!しかし、分かったところでどうすることもできまい。」

再び蒼の体が宙を舞う。

蒼はやみくもにスタンガンを振り電撃を放った。

しかし、地面を抉るだけで要には当たらなかった。

「ははは。当たる訳がない。よく見えるぞ、お主の電撃の動きが。」

蒼は立ち上がりながら呟いた。

「できればやりたくなかったけどな。当たらないなら……」

蒼は自分の体にスタンガンをつけ電撃を落とした。

「何っ?」

「当てさせる!」

勢いがついた要は電撃を身にまとった蒼に衝突した。

今度は要のほうが宙を舞った。


 二人は元の世界に戻ってきた。

要が電撃に痺れてその場に倒れこんでいる。

蒼が立ち上がり呟いた。

「決着が……ついたの……?ボクは……」

「いや、お互いに本気ではなかっただけの話だよ。」

要が立ち上がり言った。

怪我は転ばされた時についたものだけで軽かった。

最も蒼も同じで軽かった。

蒼はひざについた土をはらいながら言った。

「本気ではなかった?ゲームに乗っていないって事?」

「うん、とりあえず手札を見たかっただけ。戦いを止める覚悟もね。」

「それじゃあ、最初からボクと手を組むつもりで?ボクがどんな人間かも知らずに?」

「言ったでしょ。」

要はタロットカードを突き出し言った。

「占ったって。我の占いはよく当たる。商店街にて待ち人来たるってね。」

蒼はため息をついて手を差し出して言った。

「先行きが不安だけど……とりあえずは、よろしくね。えぇと?ブラック・ロック・シューターさん?」

「……間違えるなら要で良い。この世界ではそう呼ばれている。」

二人はかたく手を握り合った。

その時、蒼の携帯電話が鳴った

曲の番号であった。

蒼が携帯電話に出る。

「もしもし。」

「あっ、蒼さん?六学だけど今どこ?」

電波が悪いのか曲の声が遠い。

「家に帰れないリーマンがいそうな寂しい公園だけど、あんたこそどこよ。電話が遠いよ?」

「そんなのより、赤マントの正体がわかったの。」

蒼の顔つきが変わった。

「……誰。」

「生徒会長の霧雀 佐紀!可愛い顔して中身は殺人鬼だったんだよ!」

「そう。」

蒼は携帯電話を切った。

丘の上にある豪邸が霧雀家の家なのは、この町に住んでいれば有名だ。

霧雀の家に向かって歩き出そうとした瞬間に、要が引き止めて言った。

「待て。どこに行くつもりだ?」

「……あんたとはまた今度話す。」

「悪のアジトに行くつもりか?たった一人で。」

「……厨二設定はもういいってば。」

「聞きたまえ!我の占いには続きがある。待ち人と共に悪と戦えよと。さもなくば、全員死ぬとも。」

「忠告ありがとう。ボクが死んだらこの携帯に登録されている六学 曲って子と連絡をとって。あんたの力になってくれるから。」

止めようとする要の手を振り払い、携帯電話を押し付け蒼は進んでいった。

(死ぬ事になろうとも……あいつだけは絶対に……)


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