「スタート」
「何なんだよ、あいつ!っていうかここどこ?」
美が英子に寄りかかりながら悪態をついた。
英子はブツブツ言っている。
「パパ……ママ……」
どこまで行っても荒野。
美の顔が歪む。
足からは血が出ていた。
赤マントの人物に足を切られたのだ。
「英子……」
「助けて……これからはお勉強がんば……」
「英子!」
「ふぇぇ?」
「あんた一人で逃げなさい。あたしは……もう走れないから。」
「でも……」
「あんた一人なら逃げられるでしょう!」
そんな言い争いをしているうちに赤マントは二人の襟首を掴んだ。
「うひゃあ!」
「クソゥ!」
赤マントは英子に寄りかかっている美を引き剥がした。
美は尻餅をつく。
持っているサバイバルナイフを英子の頬につきつけた。
ガスマスクのせいかくぐもった声で言った。
「逃げ足を失った方は後回し。まずはお前から。」
「英子!」
「いっやぁぁぁだぁー!」
その時、赤マントの後頭部に石が当たった。
曲が投げたのであった。
「この、英子を離せ!」
石を何個も顔に向けて投げつける。
「どうだ!こう見えても中学校時代はソフト部だったんだ!……万年補欠だったけど。」
「まがりちゃん!」
石にうろたえて解放された英子が駆け寄ってくる。
その体を抱き止めて曲が叫んだ。
「逃げるよ!全速力で!」
「駄目なの!みぃちゃんが足を怪我して!」
見ると赤マントが美の襟を掴んで持ち上げていた。
赤マントは勝ち誇って言った。
「お前か……自ら殺されにきたのか?」
「友達を助けにきた……美ぃを放せ!」
「いやだ。武器も持たない奴の命令は聞かない。」
「じゃあ、武器を持っているボクの命令なら聞くのかな?」
いつの間にか蒼がその場に立っていた。
その姿は以前のように白衣をまとっていた。
蒼は曲に耳打ちをした。
「全く……待てって言ったのに。」
「ごめんなさい……」
「君と友達になって良かったよ。」
ニヤリと笑い、今度は赤マントに向かって叫んだ。
「さあて、どうする?また逃げるのかな殺人鬼さん。」
「逃げる?どうして?」
殺人鬼は美の体を持ち上げて言った。
「せっかく盾を持っているのに。」
「お前……!」
「それとも盾を電撃で焼く?いつだったかみたいに。」
赤マントはマントの中から紐を取り出した。
そして器用に美を体にくくりつけた。
「これでご自慢の電撃は使えまい。」
「どうかな……直接触って送り込めばその子に影響はないよ。」
「触るか…やってみろ。」
赤マントは飛び出した。
同時に蒼も飛び出す。
蒼がスタンガンを突き出したが手をサバイバルナイフで切り払われた。
「いっつっ!」
「運動不足じゃないか?遠くから電撃を撃ってばかりいるから。」
「黙れ!」
蒼の動きは決して悪いものではなかった。
しかし、赤マントのナイフさばきがはるかにそれを凌駕していた。
蒼の傷が徐々に増えていく。
時々、電撃を放とうとスタンガンを突き出すがすぐにやめる。
赤マントが美を前に突き出すからだ。
やがて、蒼は地に足をつけた。
赤マントは勝ち誇っていった。
「中々、楽しませてもらったよ。君とのひと時は。でも、もう終わりにしようか?」
赤マントがナイフを振り上げた瞬間に石がまた飛んできた。
赤マントは飛んできた方向をにらみつける。
曲が再び投げたのであった。
曲が叫んだ。
「もうやめろ!この殺人鬼!」
「言ったはずだ。武器も持たない奴の命令は聞かない。」
「……じゃあ、武器を持っていればいいの?」
蒼が顔を上げて叫んだ。
「駄目だ、六学さん!君が戦う理由なんてないんだ!一度武器を手にとってしまったら、もう戻れなくなる!」
赤マントが蒼の頭を足蹴にして言った。
「戦う理由ならあるだろ?欲しいのだろ、あの男が!」
「あたしは……好きな人を他人から奪ったりしない!」
曲は微笑んで蒼に言った。
「ねぇ、榎木さん?それじゃあ、あなたは一体何のために戦っているの?」
「……」
「君と友達になれて良かった……あたしもだよ。榎木さんと知り合えて良かった。だから武器を手に取るの。他人を殺して博和君を手に入れるためじゃない。あなたの力になりたいの。蒼さん!」
曲は自分の人差し指の付け根に巻き付いたバンドエイドを食い千切った。
中なら赤い糸が出てくる。
「ぬっうううううう!」
祈るように手を組み、力をこめた。
曲の体が青く光り輝く。
「ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
咆哮とともに青い光は強く輝きだす。
輝きが収まると曲の姿が変わっていた。
西部劇のガンマンのような格好に。
首に青い宝石の入ったペンダントのついたネックレスが振り子していた。
近くにいた英子がつぶやいた。
「きれい……」
曲は腰に装備された銃を曲は手に取り構えた。
赤マントはうろたえずに言った。
「とったのか…武器を。しかし、飛び道具とは残念だったな。この盾がある限り、こいつの二の舞だぞ?」
「果たしてそうかな?」
引き金をひく。
タン、タン、タン。
発射された銃弾は赤マントと美をつないだ紐だけを正確に打ち抜いた。
美が地面にこぼれ落ちる。
「しまった!?」
考える隙も与えずに曲は引き金を引き続ける。
タンタンタン。
赤マントのナイフを打ち抜き、足を打ち抜き、ガスマスクを弾く。
赤マントがその場にしゃがみこむと同時に世界が歪み始めた。
蒼がつぶやく。
「そうか、こいつだけが生み出した世界だからこいつが逃げる意思をだせば……」
赤マントは手で顔を隠しながら言った。
「精密さと連射……それが右の人差し指の女の武器か。今回は意表を付かれたが次は負けぬ。」
そして全員が元の世界に帰還した。
曲と蒼の服装も元に戻る。
英子が信じられないといった顔で二人を見ている。
しばらく無言が続いたが、蒼が口を開いた。
「……ごめんね。」
「何が?」
「巻き込んでしまって。ボクが不甲斐ないせいで……」
「謝るならあたしの方だよ。あれほど、蒼さんに戦いへの参加を止められていたのに……」
蒼は傷の痛みに堪えながら言った。
「お互い様だね。」
「そうだね。」
「じゃあ、こう言おう。」
「なぁに?」
「これからよろしくね、曲。」
どこまでいっても地面が見えない青空の世界。
かつて曲が初めてQPにあった夢の世界。
ここが、人間の住む世界でも決闘の世界でもない3っつめの世界、神の住む世界であった。
そこにQPが一人漂う。
しかし、QPは一人ではなかった。
肉眼では見えないがそこにはQP以外が確かにいた。
それも、何人も。
QPは姿なき者達に語りかける。
「これで9人揃いました。ここからが本当のゲーム開始です。」
どこからとも男とも女とも分からない声が聞こえてくる。
「駒をそろえるのに時間をかけすぎではないのですか?」
QPは相手の位置が分からないのか独り言のように話す。
「ふっ、神様達はせっかちでいらっしゃる。どうせだから楽しみましょう。」
別の声が響く。
「そんな悠長な事を言っている場合か!貴様は状況が分かっているのか!」
「まぁ、待て。」
別の声が響いた。
その威厳のある声に対し、他の声は静かになった。
「この件はQPに任せた。わしの一存でな。」
QPはかしこまって言った。
「はっ、最高神様。」
「これ以上ここにいても、他の神々とぶつかるだけであろう。ゲームの進行状況は分かった。下がりなさい。」
その言葉を聞いてQPはその場からいなくなった。
いなくなった後はヒソヒソと見えない神たちが喋りだす。
「全く、天使風情が我らと肩を並べるなど……」
「仕方ありませぬ。奴めが適任なのは事実。」
「ああ、このゲームは何としても成立させねばならぬ。」
「それに人間どもに気付かれてもならぬからな。あくまで戦いは一人の男をめぐっただけのもでなければ。」
恋愛バトルロイヤル、スタート。
これで……後9人。




