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よく似た感情

 その日もいつもと変わらなかった。

いつものように登校し、いつものようにドジをし、いつものように利士を後ろの席から見つめ、いつものように友達と笑いながらすごした。

そして放課後。

「あー、ちょっと!」

美が叫んだ。

「曲、帰るつもり?待ってくれてもいいじゃないの!」

曲はアッカンベーをして言った。

「昨日、友人をひとり残して帰ったお返しですぅ~。」

「うぐぐ、復讐の連鎖は憎しみしか生まないのに……」

ほうきを持った英子が出てきて言った。

「まあまあ……でも、昨日私たちが帰ったのは置いてきぼりにしたかったからじゃないのよ?私の体調がすぐれなかったのをみぃちゃんが心配して……」

「もう、分かっているって冗談だって!仕返しじゃなくて早く帰って寝たいだけ。ふぁ~。」

「あらまがりちゃん、顔色が悪いけど寝不足?」

美がニヤリと笑って言った。

「さては昨日はお楽しみでした?」

「変な事を言うな!寝るには寝たんだけど変な夢見てさ~。寝た気がしてないんだよねぇ。」

「それはあるある。追われる夢?」

「落ちる夢かな、どっちかというと……そんなわけで、また明日!」

曲が教室を出て行った。

その背中に英子が心配そうに声をかけるのであった。

「まがりちゃん!明日は土曜日で休みよ!」


 下駄箱の近くに利士がいた。

もう一人、誰かが近くにいる。

曲は廊下の影に隠れて様子を伺った。

(友達……?)

最初、短い髪型を見て男かとも思ったが女子用制服のスカートをはいていた。

(もしかして同じ委員会とかそういった類の……)

その女の子は利士の頭を上履きでポコンと叩いた。

利士は頭を抑えながら何か言っている。

二人とも楽しげに見えた。

(昔からの知り合いって感じかな……兄弟とか……)

そう思っても胸の鼓動はおさえられなかった。

感情の高ぶりはおさえられなかった。

その感情は今まで感じた事のない。

恋とは違う胸の高まりは、

(……殺意?)

自分の中に初めて生まれたその感情への感想は、

(恋に似ている。)

その時、女の子がこちらに顔を向けた。

(覗いているのがばれた!何で?)

ばれる道理がない。

女の子は利士との会話に夢中だったはずだったのだから。

「……何これ。」

そこで初めて気付いた。

右手の人差し指から赤い糸が天高く伸びていることを。

まるで昨日の夢の続きのように。

「こんな目立つ格好で!」

曲はその場を走り出した。

「待って!」

利士と話をしていた女の子の声が聞こえたが待つはずがなかった。


 曲は校舎の裏まで逃げてきた。

糸はまだ消えない。

途中で何人も学生とすれ違ったが誰も気にとめる様子はなかった。

教師ともすれ違ったが「廊下を走るな!」と見当違いな注意をされるしまつであった。

「見えてないんだ……他の人には。」

では、あの女の子には見えたのは何故だろう。

あの女の子はこちらに気付いた。

まるで赤い糸が出てきて気付いたかのように。

「それが見えるのは君と君の敵だけだよ。」

聞き覚えのある声に曲は顔を上げた。

そこには昨夜の夢に出てきたキュービッドが浮いていた。

「あんた……夢じゃなかったの!」

「QP。」

「はっ?」

「名前だよ。キュービッドは君が「人間」と呼ばれるようなもんだから気に入らない。これからはそう呼んでくれたまえ。」

曲は立ち上がって言った。

「それじゃ、QP。何で急に赤い糸が出てきたのか教えてよ?」

「ふむ、昨夜は説明の途中で時間切れだったからね……君の感情が高ぶった時に糸は目に見えるように具現するよ。」

「感情が高ぶったら……?」

先ほど感じた初めての「殺意」。

それがきっかけなのだろうか?

「上手く利用するといいよ。それを出した反応を見るだけで敵をあぶりだせる。実際、一人敵を見つけられたよ。」

「……こっちも見つかったけどね。で、どうやって戻すのこれ?」

「見えるか見えないかで生活には支障はないよ。でも、指を隠すなら指輪がいいよ。」

「指輪なんて持ってないわよ!」

「早くした方が良いよ。君の赤い糸の匂いにつられて別の敵が来る。」

周りを見渡すと自分と同じように左手のどこかから赤い糸を天に向かって出している人物が近づいてきていた。

その時、地面がぐにゃりと歪んだ。

「何?何?」

「決闘が認められたよ。闘ってもいい場所を神様が作ってくれたのだよ。そこに移動する。」

めまいの後に眼前に広がっていたのは、荒野であった。

「さっきまで学校にいたのに……何ここ!」

「だから闘うための世界。元々は神様が住む世界と人間の世界しか存在していなかった。でも、君たちのために神様がもう一つ世界を用意してくれた。」

「いらないわよ、そんな世界!」

ジャリジャリと荒野を歩く音がする。

先程の赤い糸の持ち主が近づいてきたのであった。

はっきりと見えるところまできて、曲はその容姿に驚愕する。

ガスマスクに赤いマント。

右手にツギハギだらけの灰色のウサギ人形。

左手にノコギリ。

QPが言った。

「説明不足のお詫びに相手の情報を少し漏らす。彼女は殺人鬼。」

「何の役に立つのよ、そんな情報!そっ、それよりどうすればいい?」

「どうすれば、というのはこの場を切り抜ける方法かい?2つある。一つはこの世界から元の世界に逃げ出す。」

「どっどうすれば戻れるの?」

「決闘を始めた二人がいったん出直すべきだと考えること。そうすれば生き残った全員がこの世界を出られる。」

「相手、やる気満々じゃないの!他には?」

「武器をとって闘う事。」

QPが曲の手を取った。

曲の体が青く輝いた。

QPが言う。

「さあ、武器を取りなさい。あとは君の意思だけだよ。」

「あたしの意思……」

「そう。あれは貴女の赤い糸じゃないかい?奪い返さなくて良いのかい?」

QPは殺人鬼を指差す。

赤い糸は相変わらず天に向かって伸びていた。

「あの糸はあたしの……奪い……返す……」

曲は掴んだ手に力を入れる。

QPが手を離す。

しかし、曲の手は「何か」を掴む感触がある。

「さぁ、六学 曲!お前の運命を武器に変えよ!そして目の前の女を倒せ!」

曲の異変に気付いた赤マントが走り出した。

曲は拳に力をこめて一気に……

「ちょっと待った!」

曲と赤マントの間に閃光が走った。

赤マントは吹き飛ばされ、曲はしりもちをついた。

青く光っていた拳からは光が消えていた。

QPはいつの間にかいなくなっていた。

背後から声の主が現れる。

「あなたは……」

それは先ほど利士と話をしていた女生徒であった。

しかし、格好が先程と違っていた。

制服が学校指定のブレザーからセーラー服に変わっており、セーラー服の上に科学者のような白衣を着ていた。

その白衣には黄色い液体の入った試験管があった。

そして右手の小指にはおもちゃ屋で売っているような指輪していた。

白衣の少女が口を開いた。

「君も利士の事が好きなんだね?でも、もっとよく考えた方がいいよ。恋のために人殺しをしなくちゃいけないなんて、全然イコールじゃないから。」

唖然としている曲に優しく微笑んでから白衣の少女は言った。

「これが止めた理由の二つのうち一つ。」

「じゃあ、もう一つの理由は?」

白衣の少女は赤マントに指をさした。

「あいつは、ボクが倒さなくちゃいけないから!」

白衣の少女は裏のポケットからスタンガンを取り出した。

スタンガンが光る。

轟音と共に赤マントのいた位置が抉れた。

赤マントは読んでいたのかその場を避けた。

白衣の少女は歯ぎしりして言った。

「直線じゃ、やっぱり当たらないか……でも!」

前をさしていたスタンガンを上に掲げた。

それに応じるかのように抉れた地面から黄色い柱が吹き出した。

白衣の少女がスタンガンを下ろす。

黄色い柱は赤マントにめがけて落ちた。

曲は思った。

(そうか……あれ、雷なんだ!この子がスタンガンで操っているんだ!)

地面から引き出す、落とす、引き出す、落とす……をある程度繰り返しているうちに赤マントとの距離がドンドン広がっていった。

ある程度距離が開いたところで白衣の少女は舌打ちをし、スタンガンを下ろした。

曲は聞いた。

「どっ、どうしたんですか?」

「これ以上は届かない。ボクの雷の射程範囲外だ。」

忌々しそうに白衣の少女が睨んでいると、世界が再び歪み始めた。

「引き際だと思ったのか。お互いにね。」

白衣の少女の言葉に曲はQPの言葉を思い出した。

「決闘を開いた二人がいったん出直すべきだと考えること。そうすれば生き残った全員がこの世界を出られる。」

曲は最初から逃げ出す気持ちであった。

「ボクの介入で決め手が無くなったからね。まぁ、ボクもこれ以上闘うのは得策じゃないと思うよ。」

「?あなた、さっき自分で倒すって言ったじゃない?」

「仕留められればそれにこしたことはなかったけど、状況が悪いからね。君の安全を考えると。」

二人は元の世界に戻ってきた。

周囲に赤マントはいなかった。

目の前の少女も白衣から学校の制服に戻っている。

短い髪の少女は手を差し出し言った。

「ボクの名前は榎木えのき あお。君と同じく博和 利士が好きな女の子さ。」


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