そして
神の世界。
QPがいなくなった今、一見すると誰もいないようであった。
しかし、話し声はしていた。
「何ということだ……あのキュービッドが我らすらも欺いていたとは……」
「それも問題ですが、進行役がいなくてはまずいのではないですか?」
神々は静まり返り、最高神の言葉を待った。
威厳のある最高神の声が響いた。
「残りわずかだが、新たな進行役を立てよう。骸が世界を支配する前に彼女達には決着をつけてもらわねばならぬ。」
「必要ありませんわ。だってその前にワタクシが残り二人を殺しちゃうんですもの。」
透き通った声が響いた。
いつの間にか神の世界に佐紀が漂っていた。
神々は驚きどよめく。
「何故、貴様がここにいる!ここには神に呼ばれなければ人間は入ってこられないはず!」
佐紀はニコニコ笑いながら言った。
「さぁ、何故でしょう?でもね、不思議なことが起こるのはこれからですわ。」
佐紀はダイヤの指輪を外し、赤マントに姿を変えた。
首を鳴らしながら佐紀は言った。
「現実に武器を持っていくことはできませんけど……まぁ、その代わりに神の世界に持っていけたってところですわね。」
神々はうろたえわめく。
「有り得ない、有り得ない有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない、……」
そんな神々を最高神が一喝した。
「落ち着け、主等!……QPを、神の一員を殺した代償にその力を手に入れたといったところであろう。」
「ご解説、どうもありがとうございます。」
「で、何しにきた?」
佐紀は胸の先端にダイヤの指輪をこすりつけながら言った。
「殺人鬼がやる事なんて決まっているじゃないですの。殺戮ですわ。」
袖口から西洋剣を滑らし、取り出して構えた。
「なめるなよ、人間風情が!」
ものすごい怒号と共に空がガラスのように割れた。
中から衣一枚の神が何人も出てきた。
佐紀は笑いながら言った。
「ほほほ……それじゃあ、ワタクシはこう言いますわ。神風情がなめるんじゃないですわ!」
神々は念じ、武器を作り出した。
炎の矢、氷の銛、緑のダイナマイト、黒いサーフボード……
佐紀はようやく驚いたように言った。
「へぇ。ワタクシ達が使っている武器のオリジナルってところかしら?」
「そうだ!お前らに渡した武器は元々我等の物を模して作られたものだ!」
「最後の戦いの前の前菜ぐらいには楽しませてくださらない?」
そう言って佐紀は神々に向けて空を走り出した。
「くそっ!くそっ!くそぅっ!」
蒼はそうわめきながら自室の壁を叩いた。
拳は壁にめり込み、血まみれになった。
しかし、痛みを感じる余裕すらなかった。
そのぐらいに荒れていた。
「現実世界に現れる骸の数は増えていっているのに……何故なんだ!?何でボクは現実の世界で武器を使えないんだ!?今こそ必要なのに……これでは本当に恋愛ゲームのためだけに手に入れたようなものじゃないか!」
再び壁を叩くと、部屋が揺れる。
机の上に置いてあった写真立てが地面に落ちた。
写真には幼い頃の蒼と母親が写っていた。
写真立てを拾い上げ、蒼は写真に向かって言った。
「分かっているよ、母さん……こんな時に母さんがいたら何て言うか。」
どんな時でも正しくありなさい。
それが蒼の死んだ母親の口癖であった。
「ボクは正しくあるよ。どんな事をしてでもね。」
そう言って、蒼は写真立てを裏向きにして机の上に戻した。
そして部屋を出て行った。
「これじゃキリがないよ……」
骸を倒しながら曲がぼやいた。
まるで倒せば倒すほど増えるかのように、骸との現実の世界での戦いは多くなった。
かといって放っておくわけにもいかなかった。
「せめてもう一人いれば……要さんか美ぃが生きていれば……梓は協力してくれなかっただろうけど。」
曲の後ろから近づく足音がした。
骸かと思い慌てて銃を構えて振り向くと、そこに立っていたのは蒼であった。
ほっとして曲は話しかけた。
「もう、声ぐらいかけてよ……でも、調度よかった。この状況を打破する対策を……?」
曲は蒼の表情が今までに見たことないものである事に気付いた。
絶望やあきらめが入り混じった表情……
視線は曲の方ではなく別のものを見ているかのようであった。
曲は蒼に近寄って行き、視線を自分に合わせて言った。
「どうしたの?らしくないよ?」
蒼は小声で喋りだした。
「……ボクは正義でなくてはならないんだ。」
「はぁ?」
「ボクは骸を倒してみんなを守らなくちゃならないんだ。」
「うん、まぁね。だから、あたしもこうやって骸と戦っている。」
「そのためには、現実で武器を取らなくちゃならないんだ。」
「そうだけど……ないものねだりだよ、それ。」
「違う!君を殺せば現実でも武器をとれる!」
腹部に痛みが走った。
蒼は隠し持っていたナイフを刺した。
ナイフをつたわって二人の間に血溜りができる。
「あ…お…?」
「こうするしかなかったんだ……ボクが正義になるにはこうするしか……」
神の世界での戦いに決着がついた。
「ふぁああ。今までで一番つまらない戦いでしたわ。」
佐紀があくびをしながら言った。
周りには10体の神の死体が漂っていた。
一緒に神の攻撃で切り取られた佐紀のウサギの人形を持った右腕も漂っていた。
佐紀は右腕を拾い上げ、切り口に押し付けた。
ウサギの人形が灰色に輝き、腕がくっついた。
最高神の威厳のある声が響いた。
「見事だ……それだけの力があれば残りのゲームを勝ち抜く事も容易いだろう。」
「お褒めのお言葉、どうもありがとうございます。」
「そして、どうする?今度はワシを殺すのか?ワシを殺せば骸が世界を覆う前に全てが終わるぞ。」
「ほほほ……そんな事ぐらいでワタクシに見逃してもらえると思っていますの?」
佐紀は空中を左手で掴むしぐさをした。
空を掴むかのようであったが、佐紀が力をこめると空間がビニールを掴んだかのように捻じ曲がっていく。
佐紀は掴んでいない右手で胸の先端をいじりながら言った。
「そんなに心配しなくても、殺したりしませんわよ……だって貴方はワタクシの最愛の人ですもの。そうでしょう?ねぇ、利士ぃ!」
絵を外すかのように空間が外れ、中からおもちゃやゲームで囲まれた部屋が現れた。
そこにはパソコンの前に座る博和 利士が呆然としていた。
利士は驚きながら言った。
「ここまで……最高神の正体までも気付いていたのか……」
「貴方の事は何でも知っていますわよ。だって、最愛の人の事ですもの。貴方がそうしたんじゃないの。」
「そう、僕は自分にとって都合の良い世界を作り出した……僕は自分の生きている世界に絶望した。だから逃げた。だから作った。それがこの世界だ。」
「可哀そうな利士。可哀そうな造物主。誰にも愛されなかったのね。」
「でも、僕の作った世界に限界が近づいていた。終わらせないためには僕への「愛」が必要だった。誰よりも強い「愛」が……」
佐紀は笑顔で胸の先端にダイヤの指輪をこすりつけながら、言った。
「もう、大丈夫!ワタクシが「愛」してあげますわ!その代わり、ワタクシの胸の中で絶望して!屈辱に満ちた顔でワタクシに穢れのないその体を貪らせて!全てはワタクシの快楽のために!それがワタクシの「愛」し方ですわ。」
利士はうつむきながら言った。
「それでも、この世界を終わらせるよりはマシかな……好きにしな、殺人鬼。ただし、最後の一人を倒した後にね。」
佐紀はニヤリとして言った。
「決着がついたようね……決勝戦の相手はどちらかしら?楽しみですわ。」




