表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

偽りの恋敵

 月のない闇夜。

もぞもぞと動く影があった。

骸である。

決闘の世界にしか存在していないはずの人間の成れの果て。

しかし、ここは間違いなく現実の世界なのにも関わらず骸はいた。

一人で歩く女性を視界に捉えた骸は、ゆっくりと近づいていった。

女性が気付かない中、飛びかかろうとした瞬間に叫び声があった。

「危ないっ!」

蒼が骸に体当たりをして骸を止めた。

女性は骸の姿とそれが自分を襲おうとしてた事に、腰を抜かしてしまった。

「ば、化け物……」

「逃げて!早く!」

その蒼の言葉を皮切りに女性は一目散で逃げ出していった。

蒼がその姿を見てほっとしているところを押さえつけられていた骸が口を開き噛み付こうとした。

タンと乾いた音がして額を打ち抜かれた骸は崩れ落ちた。

今度はガンマンの姿になり銃を撃った曲が現れ、言った。

「もう、先に行かないでよ……蒼はこっちの世界だと武器を使えないんだから危ないよ?丸腰で骸に立ち向かうなんて……」

「だからって放っておけないよ。人が襲われているのに。」

曲はため息をつき銃をしまって言った。

「それにしても骸が現実に出てくるなんて……これも梓の罠かな?」

「いや、いくらなんでも……QPなら何か知っているかな?」

「説明しようか?」

二人に声をかけたのはQPであった。

QPは二人の承諾も得ずに、続けて言った。

「時間切れが近いんだよ。ゲームの。」

曲が驚いて言った。

「時間……切れ……?」

QPは頷き、説明を始めた。

「こんな感じにだんだんと骸が現実の世界に出てくる数は増えていく。そうなったらこの世界は終了だ。正確に言うと、この世界の支配者が生物から骸に変わるだけだがな。骸に殺された生物は決闘の世界で死んだ時と同じように現実世界でも骸になる。」

蒼がおこまで聞いて叫んだ。

「何だよ、それ!そんな話は聞いていないよ……」

「あえて言わなかった。隠していたからな。神の意思で。」

曲は歯軋りをして言った。

「止める方法はないの……?」

「ある。それは当初から変わらない。君達が戦い、生き残った最後の一人が博和 利士を自分のものにすれば良い。」

蒼がうなだれて言った。

「何でそうなる……」

「理由などない。あるのは事実だけだ。これこそが神々が隠していたこの戦いの真の目的。勝ち残った者がこの世界を救う。」


 「ゼーハァ。ゼーハァ。ゼーハァ。ゼーハァ……何で今更……」

梓は自室のベッドで苦しんでいた。

心臓を押さえ、その表情には以前のような余裕はなかった。

「治ったはずなのに……お医者さんも治ったって言っていた……この苦しみからは解放されたはずだったのに!」

「残念ながら、それは医者の見立てミスだ。つまり、治ってはいなかったんだよ。」

QPが梓の枕元に立って言った。

梓はQPに手を伸ばしたが、届かなかった。

QPはそんな梓を見下ろしながら言った。

「本当に残念だな……君には期待したからこそ、えこひいきをしたんだが。時間戻しの武器を手にしたのが運のつきだった。おかげで他の3人を倒す前に肉体の方が時間切れになってしまったようだ。時間戻しは自分の肉体のダメージも一緒に移動してしまうからな。体内に残った病気も含めて。」

「いや……こんな形で脱落するのはいや……お願いQP!ウチはまだ戦える!戦いたい!」

「だから言っているだろう。残念だと。」

梓はそれ以上、喋らなかった。

目を閉じ、ゆっくりと心臓が止まるのを待つだけであった。


 団麦 梓の物語――。

 病院の中で生き、そして病院の中で死ぬ。

それがウチの運命だと思っていた。

医者は治す気力があれば治る!と毎日のように言っていた。

でも、ウチにとってはどうでも良い事だった。

博和 利士君が入院してくる日までは。

病院で初めてすれちがった時は……まぁ、ちょっと好みかな、死ぬ時にあんな子と一緒にいられたら幸せかな、ぐらいにしか思わなかった。

ある日、彼が病院の廊下でお見舞いに来た女の子の友達と楽しげに話している姿を見た。

その女の子の事が知りたくて、勇気を出して博和君に話しかけた。

榎木 蒼。

小さい頃からの親友との事だった。

とても羨ましかった。

その二人の仲の良さが。

ウチもあの輪の中に入りたい……

病院から出たい……

そう思っているうちに、ウチの体の調子は日に日に良くなっていった。

健康な体がこんなにもいいものだとは知らなかった。

退院が決まり、QPに恋愛ゲームの事を聞いて一番嬉しかったのはただ一つ。

これで榎木 蒼と遊べる。

博和君のようにね。

自分自身に敗北し――団麦 梓、死亡。

これで……後3人。


 神の世界をQPは漂っていた。

相変わらず神々は姿を現さないが、神の世界の空気は重かった。

怒りをこらえるかのような声がどこからともなく響いてきた。

「……これというのも全て貴様の失態だな。やはり、貴様に任せるべきではなかった。」

QPはどこからか分からない声に答えた。

「失態?何の話ですか?」

抑えきれずに今度は怒声が鳴り響いた。

「とぼけるのか!貴様が、のろくさとゲームを進行させているから間に合わなくなったのではないか!その上、人間にゲームの目的まで明かさなければならないとは……」

「まだ、十分間に合いますよ。それに彼女達にとっては本当の目的はどうでもいい事です。世界の終わりが近かろうが遠かろうが、彼女達のやる事はただ一つ……男の奪い合い。何も変わらない。」

そこまで言うとQPは後ろを向いて立ち去ろうとし始めた。

別の場所から声が鳴り響いた。

「どこへ行くつもりだ?」

「右の親指が誰にも殺されずに脱落したので武器の引き継ぎに。急がねば間に合わなくなりますよ?」

そう言ってQPは消えた。

しばらく神の世界は静まり返っていたが、誰かが口を開いた。

「……最高神様、いかがいたしますか?」

威厳のある声が答えた。

「任せるしかあるまい……進行役を奴に選んだのは失敗だったのかもしれん。しかし、奴の言う通りゲームの勝者が決まればそれも些細な事だ。全てな……」


 QPは佐紀の前に姿を現した。

佐紀はQPに笑いかけて言った。

「ごきげんよう、エセ天使様。今日はどんな報告ミスをしてくれるのかしら?」

「手厳しいな。それに時間切れについては報告ミスではなく意図的に隠していただけだよ。君達がもっと早く決着をつけてくれれば言う必要もなかったしね。」

「ふん。世界を救うより、恋愛での殺し合いの方が綺麗に見えるなんて……神様の感覚はやっぱりわかりませんわ。それで本日は何の御用かしら?」

QPは両手を強く握った。

両手は輝き、開くと左手から紫色の時計が右手から緑色のダイナマイトが出てきた。

QPはその武器を差し出して言った。

「右の親指が戦わずに死亡したからね……こういう場合でも武器を誰かに引き継がないといけないんだ。わしはえこひいきが好きだから君に欲しい武器を選ばせてあげるよ。ルール上、両方は渡せないけれどね。」

佐紀は迷わずにダイナマイトに指をさした。

QPが右手を再び閉じ、開くとダイナマイトは消えていた。

QPはそれを確認してから言った。

「これでダイナマイトは君の武器となった。でも、意外だな。時計の方が強いのに?」

「殺人鬼には時計よりも爆弾のほうが似合うでしょう?」

「君がそう思うのならば、そうなんじゃないかな。それでは時計は他の誰かに渡すとしよう。」

「えこひいきのエセ天使様。榎木 蒼に渡すのを希望してもよろしいかしら?」

QPは左手を閉じ、開いた。

時計が消え、QPは言った。

「別に構わないが……何故、榎木 蒼なんだい?」

「だって、あの子だけ、いまだに武器が一つじゃないですの……最後の争いのバランスを良くしたいじゃありません?」

「5つも武器を持っている君がいる時点でバランスもないと思うのだが……」

「自力でとった報酬は別の話ですわ。まぁ、ここまで生き残った彼女への棚ボタボーナスってところですわね。それともう一つお願いがあるんですの。」

「何だい?」

佐紀はダイヤの指輪を胸の先端にこすりつけながら言った。

「手に入れた武器の試し打ちをさせてくださらない?」

世界が歪み始めた。


 佐紀はダイヤの指輪を抜き、赤マントの姿になった。

ウサギの人形は緑色に変わり、左手にダイナマイトを持った。

QPは無表情で見つめながら言った。

「どういうつもりだい?」

「言ったでしょう?こーろーさーせーてーよー。ですわ。」

「……六学 曲にも命を狙われた事があったな。その時も言ったが、わしを殺してもゲームの進行には影響が……」

「ないと思っているからこそ、殺すんですわ。あったら逆に手を出せませんでしたわ。」

「……わからないな、君の考えが。」

佐紀はニコリと笑い言った。

「本当にぃ?ワタクシが貴女を殺す理由はありますのに。分かっているんでしょう?」

QPは表情を変えずに黙った。

佐紀は指をくねくねさせて言った。

「親指があいつで人差し指があいつだから……残っているのは左の人差し指ですわね?」

「……」

「黙秘権かしら?もっと分かりやすく説明しましょうか?貴女が恋愛ゲームの参加者だって言うのはもう分かっていますのよ!」

QPは左の人差し指を見た。

赤い糸は出ていない。

そして、佐紀を見つめながらQPは言った。

「どうしてそう思う?」

「だって利士の指は10本あるのに赤い糸が9本だけっておかしいじゃありませんの!そんな嘘をついて得するのはだぁれだ?自分自身もゲームに参加している貴女だけでしょ、エセ天使!」

「くっ!」

QPは逃げ出した。

決闘の世界に呼び込まれたらいつものように瞬間移動はできないのであった。

QPは思った。

(何故、ばれた!?わしの武器は「偽り」。この力で神すらも欺いてきたというのに……いや、それよりもこの状況を何とかせねば。わしの武器は騙す以外に戦う方法がない……見破られればそれまでだ……)

「もう一つばれた理由。」

佐紀の声と同時にダイナマイトがうしろから飛んでくる音がした。

「殺人鬼に嘘は通用しませんのよ。」

ダイナマイトはQPを巻き込み爆発した。


QPの物語――。

 この世界に生み出されてから人の運命は散々見てきた。

飽きた、というのは通り越してもはやどうでもいい事であった。

そんな自分が「運命」の舞台にあがる……

思ってもいなかった事であった。

他人の運命を覗き見る自分には縁のない話であると思っていたからだ。

だからこそ負けるわけにはいかなかった。

手に入れた「偽り」の武器で最高神すらも欺き、進行役の立場も手に入れた。

後は勝つだけ。

進行するふりをしてゲームを自分の思うように動かした。

全ては勝つために。

勝利……このゲームに勝つことが自分の生まれてきた意味なのだろうと信じて疑わなかった。

それが、わしにとっての「運命」の舞台……

戦わずに勝とうとしたのが災いし――QP、死亡。

これで倒すべき敵は後2人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ