踊る赤い糸
「あはははのは!やった、やった!作戦大成功!」
梓は笑いながら走っていた。
QPがその後ろを飛んで追いかけながら言った。
「見事なものだな。だが、いいのかい?右の人差し指はこちらの位置を正確に追いかけているよ?」
「そうね、こんだけ離れているのに殺気が届いている……ターゲットを霧雀からこちらに移したというところかしら?」
「そのうえ、彼女は肉体強化に武器を代えている。真っ直ぐ走っていたら……」
「追いつかれるでしょうね。病院で寝たきりだった運動不足なこの体ではね。」
「だったら、隠れるとか……」
梓は携帯電話を取り出して言った。
「もう一度言うわ。作戦大成功。」
「追いついたわよ!」
曲が叫んだ。
梓を路地裏まで追い込んだのであった。
曲はネックレスのペンダントの色を青に変え、銃を梓に向けて言った。
「霧雀は……あの殺人鬼はあたしが倒さなくっちゃいけなかった!そんなに人を殺したいなら相手をしてあげるわ!さぁ、戦うわよ!」
梓は泣きじゃくっていた。
曲は少しうろたえて言った。
「どういうつもり……?あんたから攻撃してきて……」
曲は思った。
(人違い?いや、そんなわけはない。こいつから赤い糸が出ているのは追っている時に確認した。)
「曲!?」
自分の名前を呼ばれ曲が振り返る。
曲を呼んだのは蒼であった。
信じられないといった顔をしながら蒼は言った。
「その姿……梓……まさか君が……」
梓が蒼を確認し、叫んだ。
「蒼様ぁー!助けて!」
蒼は梓を守るように前に走っていき、曲を睨みつけながら言った。
「その姿……梓から連絡を受けて霧雀に追われていると思ったんだが……まさか君が?」
曲は蒼が何を驚いているのか理解した。
(つまりこの女は蒼さんにあたしが襲ってくるって騙そうとしているんだ……)
曲は舌打ちをして蒼に言った。
「……どいてよ、邪魔だから。」
「聞いているんだ!何故、梓を襲う?」
「決まっているじゃない!さっき、こいつから赤い糸がのびているのが見えなかったの?」
蒼は首をふって言った。
「ここにくるまで見えなかったよ……君の赤い糸、一本しか。」
「そんな馬鹿な!」
曲は梓の赤い糸を目標にここまで走ってきた。
赤い糸は天までのびる。
蒼がくるまでに確認できないはずがない。
曲は梓を指差し、怒鳴った。
「そいつの右手の包帯……それで赤い糸を隠しているんだから!」
「包帯の下なら以前にボクが確認しているよ……怪我があっただけだ。」
「そんなのカモフラージュに決まっているでしょ!」
「さっきも言っただろう?ここにくるまで赤い糸を確認していないって。それに赤い糸があるからどうだって言うんだい?」
「それは……」
(霧雀をそいつが殺したから……いや、違う。霧雀の事はどうでもいい。そいつがゲームに乗っているから。いや、乗っているから殺すとか……でも、乗っているやつは何とかしないと……えぇと。)
曲はため息をついて言った。
「ふぅ……面倒くさい。」
「何っ?」
「どうだって良いでしょ、そんな事。あたしはそいつに用があるの。蒼さんは引っ込んでいて。」
「そうはいかない。友達が暴走しているなら止めないと。」
「友達の暴走を止める……?」
曲は美の事を思い出し言った。
「そんなの後悔をするだけだよ?」
「今、止めないと後悔する。」
「経験者が言っているのよ!」
そして世界が歪みだす。
曲が再びため息をついて言った。
「ふぅ……あたし達の決闘が認められちゃったね。」
「くそっ!」
梓は泣くふりをしながら心の中でほくそ笑んだ。
(ここからが今回の本当のおびき出し。さぁ、踊れバカ女ども!ウチの手の中で好きなだけね!)
蒼が右の小指の指輪を引き抜き地面に投げつけた。
蒼の姿が白衣に変わる。
曲は間髪入れずに銃の引き金を引いた。
銃弾が蒼に向かってくる。
しかし、蒼はスタンガンを振り、電撃で銃弾を消し去った。
蒼は曲を睨みつけて言った。
「……真っ直ぐ、心臓狙い。本気なんだね?」
「自分で言ったじゃない。あたし、暴走しているんでしょ?今すぐその後ろの女から手を引かなければ……」
「ければ何?ボクを殺す?」
「うるさいな!」
曲は銃を連射しながら近づいてきた。
蒼は次々に電撃で銃弾を払いながら言った。
「距離をつめるつもり?でも、それは賢くないな。銃は離れてこその武器だろ?」
「電撃だってそうじゃないの!でも、これなら!」
曲のネックレスのペンダントの色が青から茶色変わった。。
その変化に蒼は驚いて言った。。
「何っ!?」
警戒して蒼は梓を掴んで距離を離した。
その時、曲に近づく影があった。
「うぅう!」
それは、佐紀が言っていたこの世界で死んだ者の末路……
骸であった。
骸は曲に噛み付こうと近づいた。
曲は舌打ちをして言った。
「どいつもこいつも……邪魔するなって言っているでしょう!?」
曲は骸をブン殴った。
骸は粉々に飛び散っていった。
蒼はその様子を見ながら言った。
「その力……以前、霧雀と組んでいた男の……」
「そして美ぃが奪った武器よ!」
「……君も奪ったんだね。」
「奪った?違う!あたしは……勝手に押し付けられただけ!」
蒼は頭をかかえて言った。
「分からない……何故、そんな事を黙っていたんだ?」
「言う必要がなかったからよ!つーか察しが悪すぎ!霧雀が博和君のお姉さんの武器を奪った時点で気付きなさいよ!」
蒼は梓の方を見た。
梓は恐怖でガタガタ震えながら蒼の袖を離そうとしない。
(これじゃあ、自分に電撃を流して肉弾攻撃を防ぐ手は使えないな。)
蒼は曲にスタンガンを向けて電撃をはなった。
曲は難なく電撃をかわす。
(手加減したら当たりもしない……さてどうするかな?要が来てくれればこの状況も変わるんだが……そこまで上手くいくかどうか。)
曲は笑って言った。
「黙っているなって言ったね……その女、霧雀の武器を奪ったよ。だから要さんの武器も持っているよ。」
「何!?どういう事か、説明しろ!」
「だから説明しているじゃない!霧雀の武器とあいつが奪った武器をそいつが持っているって!」
蒼にとっては誰が武器を持っているかはどうでも良かった。
それよりも驚いたのは。
(霧雀が死んだ……?要が霧雀に殺された……?)
放心状態になりかけながらも蒼は聞いた。
「説明……しろ……」
「だ、か、ら!……そうか、知らなかったっけ。英子は要さんに殺されたよ。そんで要さんは霧雀に殺されたよ。もう一つそんで、霧雀はその女に殺されたよ。仇の仇を殺したのはその女……だから、あたしはその女を狙う。これが全て。分かった!?」
蒼はその場に座り込みたくなったが堪えた。
そこがまだ戦場であったから。
(英子と要が……!?そして霧雀まで……)
曲は蒼の隙だらけの様子を見て力を抜き言った。
「そういえばあんたにとっても仇の仇になるわね……そいつ。」
蒼は梓を見た。
梓は首を横に振って震える声で言った。
「違います……!あの人嘘言っています!ウチはあの人が赤いマントの人を殺すところを見て……追いかけてきて……「まだ知られるわけにはいかない!目撃者は消す!」とか言いながら……」
蒼は考えた。
まだ知られるわけにはいかない?
誰に?
(曲は黙っていた。武器を奪ったことも……そういえば曲が現実で武器を使えるようになった事も要からの推測で聞いたていだけだ……曲から直接聞いたわけではない……推測は当たり、実際に現実の世界で武器を使って曲は梓を追い回していた……)
曲にも梓の言葉が聞こえていたので、言った。
「はっ、嘘つきはどっち!?忘れないで蒼さん、霧雀は現実で武器を使えないのよ!赤いマントの姿を見られるわけがないのよ!」
「現実で武器を使う方法は要から聞いているよ……でも、あの殺人鬼が現実で人を殺していないとどうして言い切れる?」
「……」
「君を嘘つきだと思いたくないけど……今は頭に血が上っている君を止めることを優先するよ。」
蒼はスタンガンで電撃を放った。
今度は本気で。
(堪えてくれよ……!この一撃……!)
しかし、堪えるどころか曲は再び電撃を飛び退いてかわした。
電撃は地面に落ちた。
空中で曲は少し笑いながら言った。
「はっ、さっきより勢いあるけど一直線な攻撃なんて当たる訳ないでしょ!?」
「いや、そうでもない。」
曲の着地点がボコボコ言い出した。
「しまっ……!?」
曲は気付いたが飛んでから空中で着地点を変える事はできなかった。
地面から大量の電撃の柱が吹き出す。
曲の体は電撃の中に消える。
電撃がおさまるとそこには倒れた曲がいた。
蒼は倒れている曲と周囲の様子を見てホっとしながら言った。
「元の世界に戻らないということは決着がまだついていないって事だな……生きているって事でいいんだよな?電撃は地面を掘り進むこともできる……目に見えるものだけを信じた君の負けだ。」
蒼は曲に近づいた。
曲は失神しているようであった。
蒼は続けて呟いた。
「さて、どうやって元の世界に戻ろう……」
そこで蒼は先ほどの曲の言葉を思い出す。
「はっ、さっきより勢いあるけど一直線な攻撃なんて当たる訳ないでしょ!?」
(一直線な攻撃が当たる訳はない……)
曲の最初の銃弾は心臓を狙っていたとはいえ、一直線であった。
その後の攻撃も全て。
(当たらないと知っていて一直線な攻撃を仕掛けていた?いや、当たらないことを期待して一直線な攻撃をしていた?)
蒼は梓の方を向いた。
梓はおじぎをして言った。
「あっ、ありがとうございます!やっぱりかっこいいな、蒼様は……その人、死んじゃったんですか?」
「いや、気絶しているだけ。」
「えっ、とどめとかささなくて良いんですか!?目を覚ましたら、また襲ってきますよ!?」
「その時は何とかするよ……それよりもさっきの嘘の話だけど……」
「ウチの方を信じてくれたんですよね?そりゃそうですよ!こんないきなり襲ってくる人を信じるわけがないですよね?」
蒼は梓にスタンガンを向けた。
梓は驚いて言った。
「なっ、何のつもりですか!?」
「聞かないの?」
「いや、今聞いているじゃないですか!」
「ボクのこの姿の事を。この武器の事を。」
「えっ……」
「それよりも曲の生死の方が気になって仕方がないって感じだったけど?」
「ウチの事、疑っているんですか……?ひどい!」
梓は顔を覆って泣き始めた。
蒼は申し訳なさそうな顔をして言った。
「……嘘をついているとも、敵だとも思いたくはない。でも、少し眠っていてもらうよ。」
蒼がスタンガンに力をこめ始めたときだった。
蒼の目に梓の包帯が飛び込んできた。
少しずつほぐれていた。
梓が顔を覆っていたのは口で包帯を外していたのであった。
蒼は呟く。
「まさか……やっぱり……」
「蒼様、知っていますか?女の子の着替え中は無敵だって事を。」
包帯が解け右の親指から赤い糸がのびてきた。
梓の体が緑色に輝きだす。
輝きがおさまると梓の姿は迷彩服に変わっていた。
緑色のベレー帽をしていた。
蒼はあわててスタンガンから電撃を放ったが、梓はそれよりも先に動いて電撃を避けた。
クルクル踊るように距離をあけながら梓は言った。
「見破られるとは思わなかったな……さすが蒼様。しびれるなぁ。」
「何で……赤い糸は見えなかったのに……その指の傷のせい?」
「ん?これは2段カモフラージュ。包帯とって傷がなかったら変でしょ?赤い糸は蒼様の位置から見えず、右の人差し指からは見えるように調整したの。」
「そんな事が……」
「これ、極秘情報だけど教えちゃう。赤い糸は殺気で他の指の子に見えるようになる。そして殺気の強さによって見える範囲が変わってくるの。どう、参考になった?」
「……」
「ならないか!普通の人は殺気のコントロールなんてできないもんねぇ!でも、ウチは出来る。病院で寝たきりだったから体を鍛えることはできなかった。でも、その代わりに感情を鍛えることにしたの。だから感情のコントロールはオリンピック級ですよ!」
蒼は歯軋りをした。
(となると曲が言ったとおりにこいつは敵か……)
そんな蒼の考えを見透かしてか梓は言った。
「勘違いしないで。ウチは蒼様の味方ですよ?」
「騙そうとして何を……」
「騙すなら味方からと言うでしょう。ウチと組みませんか?とりあえず、そこで気絶しているアホにとどめを刺しましょうよ。」
「ボクはゲームに乗るつもりは……」
「またまたそんな事を言って!どうせ生き残れるのは一人だけなんですよ?」
「それを言ったら誰と組んでも……」
「ウチが言っているのは「最後の二人になるまで」の話ですよ。3Pなんて……キャー、それもいいかも!」
「うるさいよ、変態!」
それは蒼の声ではなかった。
曲が起き上がり叫んだのであった。
蒼と梓は驚き、梓は言った。
「えー、何でもう復活?蒼様の一撃であんたは確かに……」
「そっちからはそう見えたのかな?お生憎さま。あたしは間一髪でさらに後ろに避けたの。
電撃の裏にいたから見えなかったのかな。」
今度は蒼が言った。
「しかし、避けると言っても一旦飛び上がってから空中で体制を変えられるわけが……」
「この肉体強化の武器はね、ジャンプした後に空中で動けるの。どういう原理か知らないけどね。で、電撃が思ったよりでかかったから狸寝入りしてればそっちの女がボロを出すんじゃないかと思ったんだけど…予想通りね。」
梓はため息をついて言った。
「蒼様だけじゃなく右の人差し指にまで見破られたわけね……」
曲はペンダントの色を青に変え銃口を梓に向けた。
止めようとする蒼に言った。
「まだ、邪魔するの?こいつの本性、分かったでしょう?」
「それはそうだけど……」
「これだけは言わせて。あたしもゲームに乗ったつもりはない。蒼さんと敵対するつもりもない。でも、ゲームに乗るやつは許さない。これ以上、要さん達みたいな犠牲者を出さないためにも。」
梓が地面を蹴って言った。
「あーつまんない!自分の思い通りにいかないなんてつまんない!」
曲があきれながらも答えた。
「それは残念でした。」
「つまんないから、なかった事にしよっかな!」
梓がベレー帽を一回転させると色が緑色から紫色に変わった。
体中につけていたダイナマイトが消えた。
代わりに体中に紫色の時計が装備された。
「とりあえず、蒼様と別れた時間まで戻そうかな?」
「何を言っているの?」
「安心して?あなた達の記憶は残るから。むかつくけど。」
梓は時計の針を指でギュルギュル回した。
世界が歪み始める。
しかし、いつもの世界が戻る時とは違っていた。
歪むというよりビデオの巻き戻しという見た目であった。
気がつくと曲は自分の部屋にいた。
時計の針はQPにそそのかされる前に戻っていた。
携帯電話が鳴り出す。
蒼からであった。
電話に出ると蒼の声がしてきた。
「そっちはどう?」
「信じられないけど、自分の家。」
「ボクもそう……多分、あの武器は時間を操るんだと思う。」
「反則級だね。」




