えこひいき
佐紀はQPから聞いた「ある人物」の住んでいる家にきていた。
表札を確認し、にまりと笑った。
しかし、その家は玄関の扉のカギが4つもある防犯に厳重な家であった。
「チョチョイのチョイ。」
針金で4つある扉全てを数秒で開錠する。
「夜分遅くに、お邪魔しますわー。」
難なく、家の中に入っていくのであった。
「っと、しー!ですわ。物音を聞いて家の住人と出くわしたらまずいですわ。」
と言いつつ、佐紀はドスドスと乱暴に進んでいく。
「まぁ、見つかった時には仕方ないからこれで……」
ポケットから手術用のメスを取り出す。
メスの光を見つめながらニヤリと笑った。
見つかるのが楽しみなようだ。
しかし、留守なのか誰も出てこない。
佐紀は不満そうにつぶやいた。
「……まぁ、いいですわ。愛しの彼女の部屋は2階でしたわね。」
階段をやはり乱暴に登っていく。
「目的のあれも留守って可能性は……ないですわよね?QPの話では引きこもっていらっしゃるらしいですから。」
そして、「彼女」の部屋についた。
部屋には「まがりのへや」と書かれた看板がドアにかかっていた。
ドアの下には手をつけていない食事がのったお盆が置いてある。
手紙もはさんであるがやはり開封されていない。
佐紀はお盆を蹴り上げてため息をついた。
「全く、友達の一人や二人が死んだからどうだって言うんですの?しかも手を下したのは自分じゃないですの。快楽に目覚めるならともかく、塞ぎこむなんて理解しがたいですわ。」
左の小指のダイヤの指輪をいじりながら言った。
「さて、決闘の世界と現実の世界のどっちで死にたいのかしら?教えて頂戴!」
勢いよく蹴ってドアを開けた。
部屋の中はめちゃくちゃに荒らされていた。
おそらく曲が暴れたのだろう。
しかし、肝心の曲の姿がなかった。
「あら?引きこもりを克服したんですの?」
その時。世界が歪み始めた。
「!」
振り向くと曲がいた。
その形相は以前からは考えられないくらい憎しみに満ちていた。
曲が言った。
「どっちの世界がいいかって?決闘の世界に決まっているよ。あんたのしてきた事、全てを否定してやる!」
二人とも決闘のための姿に変わっていた。
佐紀が感心するような顔で言った。
「どういう風の吹き回しかしら?正義感と組んでいるから受身かと思っていましたわ。中々、好戦的になりましたわね。」
「…あんたのせいよ。そうよ、あんたのせいよ!利士君のお姉さんも、美ぃも、英子も、要さんも全部、あんたのせいで!」
曲は銃を撃った。
銃弾は佐紀を正確に捉えている。
しかし、佐紀は持っていたメスで銃弾を弾いた。
メスは銃弾の衝撃で折れたので、佐紀はメスを投げ捨て言った。
「濡れ衣ですわ。ワタクシは貴女の殺人を手伝っただけですわ。ブラコンの時も邪気眼女の時も。」
「ふざけるな!」
曲は銃弾を連続して発射した。
しかし、佐紀は袖からメスを滑り出した
メスで銃弾を防ぐ、メスが折れて捨てる、再び袖からメスを出す……
そんな激しい攻防の中、佐紀は日常会話をするように言った。
「ふざけてませーん。ワタクシは貴女が殺そうとしていた相手にとどめをさしただけですわ。」
「あたしは殺そうとしてなんか……」
「とぼけるつもり?ワタクシには分かる。同類の臭いが。貴女はワタクシと一緒ですわ。」
「違う!絶対に違う!」
曲のネックレスについたペンダントの色が青から茶色に変わった。
佐紀はそれを見て笑いながら言った。
「ほらほら、それが証拠!他人から武器を奪ったのは貴女とワタクシだけなのに気付きまして?」
「あたしは奪うつもりはなかった……」
「邪鬼眼娘が死んじゃったから代わりに予言をしてやりますわ。貴女はゲームに乗る。近いうちに榎木 蒼を殺す。」
「殺人鬼が要さんの名前を語るな!」
曲が佐紀に殴りかかった。
しかし、途中で拳を止めて佐紀から距離を置いた。
佐紀はペロリと舌を出して言った。
「残念。もう少しでしたのに。」
佐紀が右手に持っているウサギ人形の色がいつもの灰色ではなく、水色になっていた。
左手に氷の銛を持っていた。
曲がネックレスについたペンダントの色を茶から青に戻して言った。
「その武器は長くは使えない。自滅するから。」
「あら、さすがに自分が殺した相手の武器の弱点は、よくご存知ですわね。」
「だから、殺したのはお前だろ!」
「話し合いは平行線ですわね。ワタクシの意見は変わりませんけど。」
佐紀のウサギ人形の色が水色から黒に変わった。
佐紀はサーフボードに乗り、高速移動で姿が見えなくなった。
曲は舌打ちをした。
(くそっ!せっかくQPが霧雀をおびき出してくれたのに……決め切れないなんて!)
QPが佐紀に接触する数時間前。
要が死んでから曲は自室でずっと塞ぎこんでいた。
時折、携帯電話が鳴った。
蒼からの電話である。
しかし、曲は着信音を鳴らす携帯電話に目もくれなかった。
「要さんはあたしを助けるために英子を殺して、死んだ。」
曲はブツクサと独り言をつぶやいている。
「英子は私を救うために生贄にされ、死んだ。」
絨毯をガリガリと掻き毟る。
「美ぃはあたしに憧れたためにあたしの手で、死んだ。」
掻き毟っているうちに爪が割れた。
しかし、今割れた爪以外もボロボロであった。
ろくに寝ていないので目の下のくまもひどかった。
曲は立ち上がり悲痛に叫んだ。
「3人ともあたしのせいで!あたしを助けるために!あたしなんかのために!何でよ!」
曲は椅子をつかみ投げ飛ばした。
椅子は壁に当たり、穴を開ける。
「あたしが死ねば良かったんだ!」
部屋に置いてあったDVDプレイヤーを投げた。
飾ってあったサボテンに当たり、サボテンは地面にぶちまけられた。
「何であたしが生き残るのよ!」
布団のシーツをビリビリと裂く。
「友達3人を失って!生き残って!……何の意味があるのよ……」
暴れるだけ暴れて曲はその場に座り込んだ。
そこにQPが現れる。
「荒れているね。」
「あんた……」
「何をそんなに怒っているんだい?これはそういうゲームだと説明したつもりだったんだが。」
曲はバンドエイドを食い千切ってガンマンの姿になった。
銃をQPに向ける。
QPは声色を変えずに言った。
「わしを殺すつもりかい?」
「……その余裕、人間の手では殺せない存在なの?あんたは。」
「いいや。君が持っているのは神が与えた武器だ。神の使い如きにどうこうできるものではない。」
「だったら……」
「しかし、わしを殺しても何の解決にもならない。わしの仕事はゲームの説明と記録のみ。いなくなってもこの恋愛ゲームは止まらない。」
曲は銃を下ろして呟いた。
「あたしは無力だ……こんな物を持っていたとしても……」
「そうかい?ゲームは止められなくても殺人は止められるんじゃないかい?」
「……どういう事?」
「榎木 蒼が散々言っている事を忘れたのかい?ゲームに乗らなければ誰も死なない。言い方を変えれば、ゲームに乗っている人間がいなくなれば誰も死なない。」
曲は黙り込んで少し考えて言った。
「霧雀 佐紀……」
「そう、このゲームが殺し合いとして成立しているのは彼女がいるからだ。」
「次に会ったら……今度は蒼さんじゃなく、あたしの手で……」
「おびきだそうかい?」
曲は驚いてQPの顔をじっと見つめて言った。
「あんた、中立じゃなかったの?」
QPは無表情のまま言った。
「違うね。わしはえこひいきが好きなんだ。」
二人の戦いを遠くから双眼鏡で梓が見ていた。
その姿は迷彩服で全身に緑色のダイナマイトが装備されていた。
「ふーん、さすがにここまで生き残ってきただけはあるね!ウチ何かじゃ太刀打ちできなそう!」
「よく言うよ。わしは君が優勝候補だと踏んでいるんだがな。」
その後ろにはQPがいた。
「そういえばありがとうね、QP。二人をうまく誘導してくれて。」
「お安い御用さ。わしはえこひいきが好きなんでね……本命は君さ。で、どうするんだい?どちらかが倒れるまで待つのかい?」
梓はダイナマイトを引っこ抜き言った。
「隙をみせた方に仕掛けようと思っていたんだけど……二人とも隙がないや。こちらの殺気に気付いて警戒を解かないよ。」
「では、出直すかい?」
「まさか!うちの殺気に気付いているのが命取り!」
「ラチがあきませんわねぇ。」
佐紀は心もこめずに言った。
そして、梓がいる方向に目をチラっとやって思った。
(誰かさんが狙っているせいで戦いにも集中できませんし……いっその事、あの殺気を出しているやつがやってくれないかしら?)
「言っておくけど。」
曲の言葉が佐紀の考えを遮った。
「あたしも気付いているからな。」
「あら、さすが。」
「……でなければ、お前なんか……」
佐紀は表情に出さなかったが不快に思った。
(生意気言って!でも、これではあの第3者が攻撃してくる事は……?)
その時、ヒューと何かが飛んでくる音がした。
緑色のダイナマイトであった。
梓が投げたのであった。
佐紀がさすがに舌打ちをして言った。
「このタイミングでぇ!?バッカじゃないの!」
曲は爆弾を打ち落とそうと銃を構えた。
銃を両手に持って佐紀と爆弾、両方に狙いをつけて曲は言った。
「撃ち落す瞬間を狙われたらたまったもんじゃないからね!」
佐紀もサーフボードを取り出し、両方に警戒しながら言った。
「それはお互い様。わざと撃ち落さない事も考慮しワタクシは離脱……?」
一瞬だった。
ダイナマイトが飛んでくる方向とは反対から炎の矢が飛んできて佐紀の胸を貫いた。
「ぐがっ……」
「霧雀!」
佐紀は矢を抜こうとするが炎をつかむ事は不可能で手が火傷するだけであった。
やがて炎の矢は消え去り、佐紀の胸から血が吹き出す。
佐紀はその場に倒れこんだ。
ウサギ人形の色を灰色にして。
曲は我にかえり佐紀に近寄った。
「ちょっと!」
「……」
佐紀はもう答えなかった。
(どうなっているの!?伏兵?それともこれが敵の能力?)
曲は梓の方を振り向いた。
そのまま世界が歪み始め元の世界に戻っていく。
曲は視線を固定した。
元の世界に戻ったらその方向に向かうつもりであったから。
「誰だか知らないけれど……」
曲は叫んだ。
「霧雀はあたしが殺さなきゃいけなかったんだ!」
――霧雀 佐紀、死亡?
否。




