後半戦、突入
ここは神の世界。
またしてもQPが一人で漂っていた。
「お呼びですか?」
QPが独り言のように喋ると声が鳴り響いた。
「説明しろ。神の納得の行くように。」
「博和 小折、今生 冶、折部 要の3名が脱落し恋愛ゲームは残り6人になりました。ゲームはこれで3分の1が終了したことになります。」
「そんな事ではない!分かっているだろう!」
別の怒声が鳴り響く。
しかし、QPは動じることなく答えた。
「何をそんなに困惑しているのですか?たかが武器を人間の世界に持ち出しただけではありませんか?」
「たかがだと……?あれは決闘の世界で使われることだけを前提に神が与えた武器だ。もし……」
「彼女たちが反旗を翻すとでも?有り得ません。仮にそうだとしても所詮は人間の世界に持ち出しただけの話。神の世界に持ってはこられません。」
「人間の世界に持ち出した事がすでに有り得ない事態なのだ!」
「まぁ、待て。」
威厳のある声が他の声を遮った。
威厳のある声は続けて言った。
「そうなる前にゲームを終わらせればいいだけの話だ。もう行け、QPよ。」
「ははっ!全ては最高神様の思うままに!」
QPは神の世界から消えた。
要が死んだ次の日。
蒼は学校でふてくされていた。
(曲も英子も要も連絡が取れなくなるなんて……どうなってるんだよ?)
誰も蒼のメールにも通話にも応じなかった。
要が英子と話していたので心配はしていなかったが……
様子を見に行くには他の3人とは校舎が離れすぎていた。
「えー静かに!」
蒼のクラス担任が入ってきて、蒼の思考が中断された。
担任がHRを始める。
「今日は転校生を紹介する。それじゃあ、入ってきて!」
ドアがガラガラと開き女生徒が入ってくる。
(変な時期に転校してくるな。)
蒼はその女生徒を観察する。
すだれのように髪をたくさん結っている少女はその幼い容姿のためか自分より年下に見えた。
前の学校の制服かセーラー服を着ているのがブレザーだらけのこの学校では異彩を放っていた。
「えーと名前が……」
「自分でしますよ、先生。団麦 梓です。病弱でみなさんより1年遅れています。」
「おいっ…」
先生がうろたえたが梓は制して言った。
「こういうのは先に言っておいた方がいいんですよ……」
「えーコホン。そういうわけで、団麦君は去年、入院をしていて1学年君らより上ということだ。しかし、成績は優秀で1年留年させる必要もないのだが……本人の希望でな。」
「どうせなら高校生活は3年間過ごしたいですから……みなさん、よろしくね。」
スカートを掴んでチョコンとおじぎをした。
それがまるで蒼の方を向いてしているようで蒼は少しドキリとした。
(年下でも通じるのに年上なのか……それよりもどこかであった気がする?デジャブか?)
スカートから離した梓の右手には包帯が巻かれていた。
下校時間を過ぎた学校の蒼のクラスにて。
誰もいない教室で梓が机に寝そべって歌を歌っていた。
その歌は流行歌ではなく、音楽の教科書に載っている歌のメドレーのようなものであった。
「楽しそうだな、右の親指。」
QPが現れる。
梓はニコリと笑って言った。
「そりゃあ、楽しいわよ。ウチは高校一年どころか小学校、中学校もまともに通った事がなかったもの。」
「体が治って良かったね。それでもう満足かい?」
「まっさかー!この体は全て利士様のためにあるのよ!指も、髪も、胸も、心臓も……それから……あら、はしたない。」
梓は一人で真っ赤になってキャイキャイ騒いでいる。
「でも、ショックだなぁ。蒼様はウチの事を覚えていないみたい。」
「おや、榎木 蒼と組むつもりかい?」
「さぁ?でもそれもいいかもね。」
「意外だな。9人の中でも最有力候補だった時刻 標を倒したから、もっと好戦的な子だと思っていたよ。」
「あら、そう?ウチは結構、寂しがり屋だよ?」
「……不思議な子だな。目的が全く分からない。」
梓は机の上に立って言った。
「ウチらの目的なんて一つしかないじゃん?博和 利士と結ばれる!」
舞台に上がる前に――時刻 標、死亡。
これで……後5人。
「おっはようございます!」
「えっ、おはようございます?」
次の日の朝、蒼は梓に突然挨拶をかけられてうろたえた。
梓は元気よく喋り続ける。
「久しぶりですね?ウチの事、覚えてないですか?」
「えっ、もしかしてボク達ってどこかで会っている?」
「ガーン、梓ちゃんショーック!ほら聖ビレゾン病院で……」
聖ビレゾン病院……
中学校の時に利士が入院したことあった病院である。
蒼がお見舞いの時に年が近くて遊んだ子。
「思い出した?」
笑顔を向ける梓に蒼は入院していた子の面影を重ねる。
「ごめん、今思い出した。名前も知らなかったし、君以外に入院している子とも遊んだからね。」
「ひっどーい!ウチは影が薄かったって言うのね!」
梓は大袈裟に泣く真似をした。
(一々、オーバーな子だな。)
蒼がフォローの言葉を投げかけようとして止まる。
梓の右手が包帯で巻かれていたからだ。
「……」
なぜ、この子は自分に近づいてきたのだろう?
蒼は不審に思い聞いてみた。
「ねぇ、その包帯はさぁ。」
「あっ、これ?退院する時に転んじゃって……危うく出所、出来なくなるところでした。てへっ。」
「取って見せてもらってもいいかな?」
蒼は言ってから、しまったと思った。
(指輪じゃないんだから、こう言われて見せるやつなんか……)
しかし、梓の答えは違っていた。
「いいですよ。」
簡単に承諾してシュルシュルと包帯を外していく。
親指の付け根が裂傷している以外、何もなかった。
梓はモジモジしながら言った。
「そんなに見つめられると恥ずかしいな。」
「あっ、ごめん……もういいよ。」
蒼は自分が敏感になりすぎている事を自覚した。
(そう簡単に赤い糸の敵が現れるわけないか……)
考え事をしているといつの間にか梓の顔が近くにあるのに気付いた。
蒼はのけぞって聞いた。
「うわっ、何?」
「綺麗なお顔……」
「えっ、それはどうも。」
「病院で遊んだ時から憧れていました。」
「そんな、梓さんの方が年上なのに……」
「さんはやめて。梓って呼んで。これから仲良くしてくれませんか?いや、変な意味じゃなくて!友達として!」
「べっ、別にいいよ。」
「よっしゃー!蒼様の心ゲット!」
「あっ蒼様ぁー?」
「憧れているって言ったでしょ?ウチの方は譲らないのでよろしく!」
そうまくしたてて梓は笑いながら校舎の方に走っていった。
その晩。
夜道を猫がのん気に歩いていた。
あくびをした瞬間に自分を覆う大きな影があるのに気付いた。
猫は逃げ出そうとしたが遅かった。
「ふにゃっ!」
首をつかまれてゴキッという音ともに首の骨を折られ、猫は絶命した。
影はその猫の皮を果物ナイフで器用に剥がし、火であぶり始めた。
火の光が影を照らし、顔が見える。
影の正体は佐紀であった。
焼いた猫の肉を上品にかぶりつく。
「生徒会長のお嬢様も地に落ちたものだな。」
QPが現れて言った。
「あら、ごきげんよう。でも、この生活も悪くなくてよ?」
「家には帰っていないのかい?」
「だって警察だらけでうっとうしいじゃない!あのホモがうっかり現実で死んだりするから……それに居場所を知られているから寝首をかかれまくりですし。」
「自分でバらしたんじゃないかい。」
「あそこで知った人間を抹殺するつもりでしたのに……まさか、正義感をおびき出すときに邪気眼娘と接触しているなんて思いもよらなかったですわ。おまけにホモから他の人間の家を聞く前にホモは脱落ですし……散々ですわ!」
ぼやいてから猫肉に再びかぶりついた。
一口食べてハンカチで口を拭いてから佐紀は言った。
「ところで何か御用?言っておきますけれど、おもてなしできるほどにお肉は用意しておりませんわよ。」
「他の敵の居場所を知らないと言ったね。」
「ええ、こちらは知られているのに。不平等ですわ。」
「教える。と言ったら?」
佐紀は肉を置いて言った。
「意外ですわね……貴女は中立だと思っていましたのに。」
「誤解だよ。わしはえこひいきが好きなんだ。」
QPは佐紀に耳打ちをした。




