2日前の出来事
「俺が……負けた?」
足が震え、汗が頬を撫でる。鉛のように重くなった身体は、その場に崩れ落ちた。
「やっぱり、あたしの勝ちみたいね」
目の前の少女――おそらく自分と同年代だろう。
彼女は余裕の笑みを浮かべ、軽い口調で勝敗を告げる。
俺たちを遠目で見ていた民衆達は、すでに立ち去っていた。
――信じられない
王宮騎士だと聞いて油断は無かった。むしろ冷静だったはずだ。
それなのに手も足もでない。この差はなんだ……?
「ねえ」
少女の声で思考が途切れる。俺は俯いたままで返事をした。
「どうした」
「戦う前にあたしが言った約束、覚えてる?」
「騎士団に入れってハナシだろ」
「うん。あたしの部下として騎士団で働いてほしいの」
「お前に傷ひとつ付けられない。・・・・・・そんな奴が必要か?」
自嘲気味に呟く。それほど少女との『差』を痛感していた。
「弱くないよ。あなたは強い」
少女の目は俺をしっかり見据え、そして優しく微笑む。
「その台詞、アンタに言われても虚しいだけだ」
「うーん、それもそうだね」
だけど、と少女は言葉をつなげる。
「君の身体能力は、騎士団の中でもトップクラスだよ。魔力もそれなりにある。唯一イマイチなのは、武器の扱いくらいかな」
驚いた。思わず目を見開く。剣術は独学で覚えたものだ。
しかし、自信が無かったわけではない。それを『イマイチ』と評価した彼女の剣技は、確かに俺のそれとは、比べ物にならなかった。
「アンタ、名前は?」
「あたし? あたしの名前は――」
騎士団に興味があった訳じゃない。
ただ、彼女の持つ『次元多面体』が、俺の脳裏から離れなかった。