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3部

 杖を使い人の流れにそって、歩いていると聞きなれた声がした。

「よう! ダイじゃねーか。これから仕事かい? あん摩にしちゃ早いご出勤だな」

「おうハチか。昨日の遅くに使いがあってな。珍しく朝一番で来てくれって言われてんのさ。お前は遅いじゃないか、今日は現場じゃないのか?」

「ああ、もうすぐ杉本様の屋敷を改築するんで、これから打ち合わせだよ」

 ダイに声をかけたのはハチと言い大工時代の同僚だった。今では若くして棟梁になっている。未だにダイのことも気にかけ、付き合いをしてくれている。ダイにとって友人といえば今はもう、このハチくらいなものだった。

「今日はツキさんいるのかい? いい自酒が入ったんだ。あとで持ってってやるから晩酌にでもしろよ」

「いつもすまないな」

「おう、じゃあな」

 そういうとハチが元気な足音で遠ざかっていく音が聞こえた。ダイは少し微笑み、再び杖を頼りに町を歩きだした。


 今日の客は、いつもごひいきにしてくれる武家の山本様。四十五を過ぎたころで、まだまだ若いのだが、息子が十八になったとたん、家督を継がせ、自分はさっさと隠居してしまった。今は、昔から好きだったという絵を描いてばかりの生活をしている。そのためか最近、腰や腕がこって仕方ないと十日に一度はダイを呼び出すというありがたい常連なのだ。

 しかし、今日の山本は違っていた。あれ程カチコチだった体に、コリが全く無いのだ。まるで太った子供のように柔らかな体をしている。

「困りました山本様。これでは、私の出る幕はございません」

山本はコリなど無いはずなのに、何故かだるそうに寝室の床に、うつ伏せで寝転がったままだ。

「それがのう、コリは取れて痛みもないのだが、体にまったく力が入らんのだ。どうもワシはコリがなくては、体が動かぬような気がしてきてのう。お主は毎回見事にわしの体をほぐすではないか、もしかしたら逆にコリを体に入れることも出来るのではないかと思って今日は呼んだのじゃ」

 ダイは困り果てて思わず、頭を下げてあやまった。

「あいすみませぬ。山本様、大抵のコリはほぐせますが、入れろと言われましても困りまする。いったいどうなされたのですか? せめて表側も診てみたいのですが、仰向けにはなれませぬか?」

 山本は、急にダイに向けていた顔を反対側に向けた。

「い、いやもう良い。たぶん無理じゃ。すまぬ。馬鹿げた事を頼んだ。ふう、やはりこうした本人に聞いてみるしかないかのう」

「本人? 」

 ダイは少しうろたえた。ここまで体中からコリを消せる人間がいるのだとしたら、自分など、もうお呼びもかからなくなるからだ。

「じつはのう、数日前にヘンテコリンな商人と出会って、そいつから買った毒を買ったらこうなったのじゃ」

「ど、毒ですか? 」

「うむぅ。 その毒を飲むと副作用で体中のコリは消えるのだが、本作用でひと月は体に力が入らなくなるとな。言われたとおりなのじゃが、ちと本作用とやらが強すぎる。まったく変な買物など、するものでない。」

「しかし、ひと月も寝たきりでは、コリが取れても肉が落ちて病み上がりのように、だるさが残る体になりますよ」

「そ、そうなのか? 困ったのう……」

 ダイは腹が立った。いくら金儲けのためとはいえ、そんな酷い薬を売りつけるなんて詐欺同然ではないか。

「いったい何処で会われたのですか、その毒屋とやらに。私が解毒剤がないか聞いて参ります」

「本当か? すまぬのう」

 ダイはその毒屋に出会った場所を聞き出し、手早く後片付けをし山本邸を後にした。


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