2部
今でこそあん摩をしているが、元は将来有望の大工だった。棟梁にも見込まれ、まわりから努力も買われ、いつか必ず人様のためになんかデッカイ物を作る。それがダイの夢だった。
だが、十四年前。ダイは木材の下敷きになった。
体は治ったが、頭の打ち所が悪かったらしく、それからすっかり目が見えなくなってしまった。大工も廃業せざるをえず、当時はずいぶんと荒れたものだ。しかし結納したばかりのツキはそんなダイをいつも優しく支えてくれ、今に至っている。
嫁のツキは卒が無く、出すぎたことも言わなければ、家事もしっかりして近所付き合いもでき、すこぶる評判が良い。夜、ダイが帰宅するとちょうちん貼りの内職の手を休め夕餉を出し、今日あったことを面白そうに話す。みんなから、若くて美しい嫁でうらやましいと、からかわれるほどだ。そんなツキは、今のダイにとって自慢であり、誇りであり、全てだった。だが一つ、ダイにはツキに不安があった。
ずいぶんと痩せていることだ。
あん摩の仕事で色々な人の体に触るダイは、ツキの体がどんなに痩せているか解る。今はもう三十を過ぎているというのに、まるで脂がついていない。
まるで出会ったあの時の十八のままのような華奢な体だ。
普段、自分はしっかりと食事を摂っているが、ツキが食べている姿を見ることが出来ないダイにとって、ツキが無理して生活をやりくりしているのではないかという不安であった。
かといってあん摩の仕事でそこまで稼げるわけでもないのだが、少しでも評判が立つように、長めに施術をしたり、少しでもまた呼んでもらえるよう料金を安めにしたりしているが、そこまで客が増えるということもなかった。