16部
し、し、自然死ー?」
ミコトの大きな声にダイは思わず口を塞いだ。
「声がでかいよ。ばか」
「だって、あなた……」
二人はミコトが商売をしていたすぐ近くの茶屋で団子と茶をすすりながら会話をしていた。ダイは事の顛末を洗いざらい話した。
「持ってるだろ? 毒屋なんだから」
「持ってません」
「何?」
「あなたね、人を殺す毒なんて持ってたら、すぐお上に捕まってしまいますよ。私のはあくまで人の困ったことを毒の副作用で治して、ほんの少しの本作用で苦しむのは我慢してね。っていう人様のための毒しか扱っておりません。まったく毒屋なめてもらっちゃこまりますよ。アンタみたいな人たまーにいるんだよなぁ。ホントいい迷惑だよ。だいちあれほど言ったのに、あの毒飲んじゃって……知りませんよホント」
ミコトは話にならないと、団子をむしゃむしゃと、ほうばった。
「金なら出す」
「だからね。持ってないもんは無いんだってば。ちょっとお姉さん、この団子の餡、ちゃんと塩入れてる?あんた甘みばっかで深みが足りないよ」
「百五十文」
「お姉さーん? ちょっとお茶おかわり」
聞こえないとばかりにミコトは無視を決め込んだ。
「三百文」
ミコトがビクッ動いたのをダイは感じた。
「……あ」
ダイはもう一押しとばかりに上乗せした。
「四百」
「……」
ミコトはゴクリと喉を鳴らした。しかし、さすがにダイもこれ以上貯めた金を死に代に使うわけにはいかない。しばし沈黙が流れた。
「あの、どうしても死ななきゃダメなんですか?」
「あ?」
「死んだふりして、どっかに旅立つってのは? 」
「え?」
晴天の霹靂。
ダイは思いつめて、本当に死ぬ事ばかり考えていたが、その手があった。
「もしそれでいいんだったら、いい毒がありますけど。脈が止まっちゃう毒。止めたい脈の周辺にちょっと塗るだけなんですけど……」
「けど?」
「十日程すると、すごく匂うんです。あの、カメムシって知ってます? あれの五倍くらい臭いのが、ひと月くらい続くんですけど……」
ダイは眉間にシワを寄せたじろいだ。カメムシはホオズキ虫の別名だ。アレより臭い。
その威力は計り知れない。
「よ、よし、それでいい。その代わり、死んだことになった俺を速やかに遠くの町に連れていってくれるか?」
「それはお安い御用ですよ! それで四百文ですね?いやったー憧れの最高級うな丼が食べられる~♪ 美味いらしいんですよこれが。夏より冬のが旬て知ってました? えへへへ」
「死なないから半額の二百文だね」
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ~」
「ふはははは」
ダイは、久々に笑った。このミコトという男はどうも調子が狂う。