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11部
日が沈む焼けた光が、庭から長い影を部屋に落としていた。
こんなに幸せを感じたのは何年ぶりだろう。
たぶんツキにとってもそうであろう。
視界が段々と暗くなっていることに気づいた。ダイはむくりと体を起こし、疲れ果てぐったりと寝息をたてているあどけないツキの寝顔を見つめた。
もう二度と、見ることは出来ないであろう妻の顔を、充分に焼きつけようと思った。
だが、ふと、ツキの向こう側にある化粧台が目に入る。
ビクっ。
ダイは化粧台に立てかけてあった鏡に映った自分の姿を見て驚愕し、それから目を離せなくなってしまった。
禿げあがり、瞳は白く濁り、頬は弛み、肌は気味が悪いほど青白くシミだらけ。あれほど隆々としていた筋肉はそげ落ち、だらしなく膨らんだお腹には毛がボウボウと生えていた。
頬を触る手が自然と震えた。
醜い。
自分の姿がこれほど醜いとは想像もつかなかった。
悲しくて悔しくて涙が勝手に出てきた。
ダイは、布団に潜りこみ、ツキに悟られないように声を押し殺して泣いた。布団の中で視界は完全に元に戻り、また暗闇の世界が戻ってきた。