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10部

いつものように如雨露の音で目が覚めた。ツキがほおずきに水をやっている。だがダイはすぐに起きず、そのまま音を聞いていた。ツキの鼻歌が聞こえてくる。

 今日はダイの仕事が一件もない休みの日だ。たまにあるこういう日は、ツキも内職は止めて、二人で神社を回ったり、朝からツキが腕によりをかけて美味しいものを作ったりする。いつもコレと言って予定をたてているわけではない。

 こうゆっくり出来る日はそうない。

 ダイは布団の中で、昨日毒屋のミコトからもらった毒の包みを握りしめた。

(ツキに言えば反対されるに決まっている。何かの感覚が失われていく毒。でも何を引き換えにしても見たい。もう一度、ツキの顔を)

 まだ鼻歌は外から聞こえてくる。ダイは寝ころがった体制のまま、手早く毒の包みを開けた。粉状で目に入れたらかなり痛そうだが、ダイは躊躇なく両目に入れた。

「? 」

予想に反して目の痛みはほとんど無い。多少チクチクとしたが、まるでほんの少しの涙で毒が全部解けてしまったかのようだった。

 プ~ン

 その時、なにかが、ダイの顔にとまった。虫? 掃うとまた顔についてくる。慌ててまた掃おうとするとペチンとまちがって頬っぺたで潰してしまった。

「くさっ!」

臭い! 猛烈な臭いだ。ホオズキ虫に違いない。昨日といい今日といい災難が続く。ダイが腕で顔を拭っているとツキが急いで戻ってきた。

「あ、やっちまったね。あれほどホオズキ虫には気をつけてって言ってあったのに」

ツキは慌てて玄関から出て、ほどなく戻ってきた。ダイの頬に冷たいモノが触れた。外の井戸で水布巾を作り顔を拭いてくれているのだ。

「まったく、子供じゃあるまいし」

「すまねぇ」

「まったくだよ」

 ツキはため息をつきながら、冗談ぽくダイの鼻頭を水布巾でつまんで振った。

 その時だった。

 ダイの目にまったく久しい感覚が蘇ってきたのだ。

 最初は強く眩しい光を感じた。それがだんだんと、光は輪郭を帯びてくる。

 それは……見たくて、見たくてたまらなかった顔だった。

 痩せているおかげなのか、二つ下とはいえ三十過ぎの女の顔とは思えない若々しい顔だ。十八歳だったあの頃の面影をしっかりと残している。目の下と顎の横に懐かしいホクロを見つけた。大きめで、すこし目じりが垂れた愛らしい瞳は健在だ。薄い唇はすこし笑っている。ダイは自然と自分の目から涙がこぼれるのを感じた。

 ツキは想像通りの美しい妻だったのだ。

「あ、痛かったかい?」

 ダイは何も答えず、ツキを押し倒した。

「あ、ちょっと」

 そのまま、じっと、じぃっと……ツキの顔を隅々まで見渡し口づけをした。

見えてないと信じているダイの目をじっと見てツキはかすれ気味に言った。

「まだ朝だよ」

「ああ、酒はもう抜けたろう

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