新月の空の下で
はじめまして!山下和男です。
この作品を投稿するにあたり、だいぶ前に書いた作品なので恥ずかしい部分や初々しいところがあったりなんだりで…。
……と、ともかく、私山下和男の初作品をお楽しみください!!
ときに人は平凡な日々をすごしてる中でふと特別を求めるものである。
俺も例外ではない。毎日特に意味も考えず生しているとたまには刺激が欲しいものだ。旅行というのはその一種だと俺は思う。そのような特別な日々がすぎるとまた再び平凡な世界に引込まれるのである。しかしながら特別な日々も度を越せば嫌になるし、そういう日々に限って長く続いたりするのだ。
失礼。紹介が遅れたな。俺の名前は高橋遼一。特徴も特にない高校2年だ。自分で特徴がないと言うのは少し気が引けるが前の話と繋げるのなら特徴も特にないという表現は適切であろう。クラスメイトの連中に聞けば大半がそう答えるのだから。実際聞いた訳ではないが、学力も平均、スポーツもそこそこ、身長も平均ぐらいであれば体型もよくみかける様な体型だ。
―――そんな俺がこんな話を突如するということは平凡な世界から特別な日々に連れて行かれてしまったからである。もし俺が変な好奇心に囚われなかったら、平凡な人間だったのに…。
その日も俺はいつも通りに高校へ行った。そしていつも通り授業を受け、いつも通りのんびりとすごしていた。
「まったく授業は退屈だぜ…」
「ほとんど寝てたお前が言うセリフじゃないだろう。…それでも成績上位ってのが腹立つ……」
こいつはクラスメイトの山崎秀輔。ダラダラ感丸出しのくせに学力とか運動に関しては学年上位というなんとも憎たらしい奴である。
こいつが何故俺に絡んでくるかは謎である。中学が一緒というわけでなく、部活も一緒というわけでもない。高2の最初に偶然席が近くよく話しそれ以来こんな調子である。
「なぁシュウ。お前、永井と同じ中学だったよな?」
「そうだけど、どうした急に?もしや永井に興味があるとか言う訳じゃあないだろうな。」
「はぁ?馬鹿いうな。ただ中学の時も休み時間はずっと寝ていたのか聞きたかっただけだよ。」
永井というのはクラスメイトの女子、永井咲姫のことである。シュウと違い、授業はきちんとうけてはいるが、休み時間はほとんど寝ている。寝ていない時は可愛らしい笑顔を絶さず、友達と話をしている。小柄で黒のロングヘアーの娘だ。
「しょうがないな。偶然3年間クラスが同じだったこの山崎秀輔様が教えてあげようじゃないか。」
「3年間も同じだったのかよ!?」
「まぁな。中1のころは極普通の少女って感じだったな。休み時間に寝てる様なことはしてないと思う。」 「それじゃあいつ頃寝る様になったんだ?」
「中3からかなぁ。本人は夜受験勉強しているから眠いって言っていたが最近もそうだろ?」
「中学よりも高校の勉強は大変だからじゃあないのか?」
「俺は勉強だとは思わないな。きっと夜に、ゴファ!!」
「そんな馬鹿げたことがあるかっての。お前じゃああるまいし。」
キーンコーンカーンコーン
「お、チャイムか。それじゃあ席戻るぜ。」
「また寝るなよ。次寝てたらチクるからな。」
「ははっ。勘弁してくれ。」
そういうとシュウは席へと戻っていった。先生が着く頃には黒髪の眠れる少女は目を覚ましていた。
そんなこんなで学校の授業も終わり、通っていた塾の帰り。この時にすべてが始まった。
「はぁ。これでやっと休める…。」
来年は大学受験だから今のうちに対策をと言うことで母が半強制的に俺に通わせているのだ。部活もろくにやっていないので宿題にこそ追われることはないが、正直勉強のし過ぎでノイローゼにでもなりそうである。こういう勉強の生活から抜け出したい気持ちというのが特別な日々へ浸りたい気持ちなのだろう。
ふと、路地のところから何かが聞こえた。最初は猫かと思ったが人の声と何かの雄叫びの様だった。ただの猫の泣き声だとわかっていたら路地の方に行くことはなかっただろう。よく分からない音がすると気になってその場へと行きたくなるものだ。何よりその行動が運命の歯車を動かしてしまった。
路地の方に進むとなんとも薄気味悪い雰囲気を漂わせていた。さっきの音はまだ奥の方のようだ。しかし狭い路地がこんなに長く続くものだろうか。不思議に思いながら俺は歩き続けた。
何かがおかしい。電灯はない。だが景色自体が薄く光っているから暗いわけではない。
…景色自体が薄く光っている?そんなこと日常的にあるだろうか?いやあるはずがない。
音は更におくの方から聞こえるがあまりの不気味な状況に足がすくんでしまった。
「…ん?この声は……?」
どこかで聞いたことのある高い声。おそらく女性の声だ。だがどこで聞いたか思い出せないし誰の声かもわからない。
杉内……なわけないか。」
懐かしい友の名をあげて見たが当てはまりそうな人物はいない。ただ懐かしい感じの声なのだ。
「…奥までいってみるか。」
この空間自体正直怖いがそれよりも声の主が気になって仕方がなかった。聞き覚えはあるが、誰だか思い出せないもどかしさ。モヤモヤした気持ちをずっと持っているよりも、先に進む方が気持ちは楽である。
路地に入ってからどれくらい時間が経ったのだろう。最初に音が聞こえたときはそんな距離があるとは感じなかった。路地自体も何Kmあるかわからない長さとは思いにもよらなかった。こういうときに限って携帯電話の電源が切れているものだ。なんで昨日充電しなかったのだろうか。結局必要なときになると使えない状況になるというなんとも携帯電話の意味を成してないことになる。
「そろそろか?」
激しい音に近付いてきた。人の声も聞こえる。どうやら人がいるらしい。更に近付いてみると、急に視界が開けた。そこはどうやら森の様な場所だった。何故か薄明るく、周りの景色がはっきり見えた。後ろに振り返ってみると森が広がっていた。
「…あれ?」
路地を歩いていた。長い長い路地を。しかし後ろにはあるはずの路がなくて、ないはずの森がある。そして聞こえてたはずの音や声が聞こえなくなった。
「おい、お前!そこで何してる!!」
「へっ?」
突然、さっきの女性の声がした。驚いた俺は咄嗟に振り向いた。そこには……。
鬼のように鋭くにらんでくる眼、長い黒髪に赤い斑点のある見覚えのある制服、そして赤い液体が流れ落ちる剣。
「う、うわぁぁぁ〜〜!!!」
「おい、まて!!」
俺は歩いてきた路を急いで戻るつもりで走って逃げた。日頃運動はしてないが、人間は危険にさらされるとすごい力を発揮するらしく、何百m、何十Kmも走った感じがした。それでも森から景色は変わらない。まだまだ走って走って走った。この時ならメロスよりも早く走れたかもしれない。あの女は追いかけてきているかいないかわからなかった。振り向くのがすごく怖かった。
ドンッ!!
何かにぶつかり、思わず倒れこんだ。木にでもぶつかったのだろうか。それにしては弾力があったような……。
はっとして、顔を上げた。嫌な予感がする。もしかして奴が…
「グルゥゥァァァーー!!!」
「うわぁぁぁぁぁ〜〜!!!」
ば、ば、化物だ!?獣のように毛深いが2足歩行でリーチの長そうな腕にナイフのような爪、顔は人のようで人ではなく眼は紅く餓えていた。
「グルゥゥァァァ!!」
恐ろしくて、あまりにも恐ろしくて体が硬直してしまっている。終いには震えはじめてしまった。
「く、来るなぁ!」
無論その声は通じるはずもなく、その化物は俺に向かって腕を降り下ろし、更に俺の体を突き刺した。
――あぁ、俺はここで死ぬのかなぁ…。こんなところで死ぬなら好奇心だけで知らないところに来るんじゃあなかった……。
「…!!おいっ!遼一!しっかりしろ!!」
「グルゥゥァァァ!!」
…さっきの女性か……?でも、俺…名前……。
「ちっ、Cランクの鬼にやられたか…。」「グルァァァ!!!」
鬼と呼ばれるあの化物の攻撃を簡単に見切り、一気に鬼の懐へと潜っていった。そして刀を力いっぱい振り上げた。
「飛翔豪烈刃っ!!」
「グァァァァ〜〜!!」
あの化物が簡単に斬り裂かれた。何なんだこいつは……。
「大丈夫かっ!遼一!遼一っ!!」
「…お…前は……永…井……?」
「…!しっかりしろ!!大丈夫かっ!」
「…もう…遅そうだ…。……行ってくれ。」
最後にあったのが永井とはねぇ…。短かったがいい人生だったかな……。体が冷えていくこの感じ…。これが死んでいく感じかなぁ…。
そして世界が闇へと閉ざされた。
不意に体が熱くなるのを感じた。中心部からだんだん周りに広がっていった。体に熱いものが流れている感じだ。…もしかして地獄に来たのかなぁ……。
目を開けるとそこは和室の様な部屋だった。
「……ここが死の世界か…?」
それにしては生きてるときと変わらないような気もするが…。
「お生憎だがここは地獄でも天国でもないぞ。」
…聞き覚えのある声がする。
「気分はどうだ?」
「口調が違う気もするが…。永井か?」
「ああ。聞かれたからこの口調を隠す必要ない。このままでいいか?」
「あぁ…。」
会話をすることがあまりなかったが、口調が明らか違うことはよくわかった。
「お前はあそこで何してた?」
「何って…。路地に入ったら長い道のりが続いていて進んでいったら変な森に着いて、そして……。」
「なるほどな。偶然あの場所に迷いこんだと…。」
永井はため息をついた。すると押入れから何か棒状のものを取り出した。
「…受け取れ。」
その棒を俺に向かって投げた。何だろうと思いつつもそれを受け取った。
「…これは……!」
「かつて私が使っていた刀だ。名は永勇。大切に使え。」
「な、なんで!?なんで刀なんか使わなくちゃならないんだ!?」
「…それは……。」
永井の顔が少し下へ向いた気がした。そして、彼女は下の方に目を向けたまま何かを押し殺したような声でいった。
「お前が鬼狩になったからだ…。いや、なってしまった。」
「…は?」
なってしまった…?どういうことだ?
思っていたことが顔に出ていたらしく、すぐさま彼女はわけを話してくれた。
「なったことに恨むのなら私を恨め。お前は鬼にやられたのを覚えるか…?」
「ああ…。」
赤い餓えた目、熊よりも長いであろう爪、そして獣のような体…。あの化物のことを鬼というのか…。
「肉は抉られ、体は貫かれ、酷い状況だった。」
…痛いで表現出来ない痛みが体中から感じとったのは覚えていた。まさかそんなに酷かったとは…。
「もちろん応急処置はした。それでも回復する様子が見られなかった。」
…応急処置じゃあ確かに何とかなるわけないよなぁ、…肉抉られてたら。
ん?じゃあどうやって回復したんだ?
「死なせたくはなかった。だから処置に私の血を使ってしまったんだ…。」
「永井の血を使うくらい平気だろ別に。確か血液型一緒だろう?」
「鬼狩の血が体中に流れわたったら普通の人も鬼狩となってしまうんだ…!」
「え…。」
「鬼狩になると普通の人より回復速度が上がる。身体能力も上がる。しかし鬼を狩らなくてはならないんだ…。」
もう言葉が出なかった。鬼狩になったから鬼を狩る?馬鹿言え、凡人中の凡人のこの俺が普通の人と別次元のことをやることがあるのだろうか(…あるからこの物語はあるのだろうが)。「フォローはする。しばらく夜になったらうちへこい。今、私ができる精一杯のことだ。」
「…狩らなければいけないのか?狩らなければ死んだりするのか?」
「そういうわけではない。鬼狩はあの世界に勝手に引きずり込まれるだけだ。逃げようとすると二の舞になるぞ。」
…もうなんだかあまりにも現実離れした話だ。本当に俺は鬼狩になってしまったのだろうか。
「…今日はもう遅い。ゆっくり休め。」
そういうと永井は部屋を出ていった。
…どうもおかしい。もうあの出来事が夢のようである。
家に帰ると俺の記憶が正しければ最低1日は経っているはずである。しかしあの日の夜の塾から帰ってくる時間だったのだ。体の感覚ではかなり時間が経っているはずだが現実では僅か数分のことになる。おかしい話だ。俺の感覚がおかしいのだろうか…。
「なんか浮かない顔だな。どうした?」
いつも通りに高校へ行った。だがあの出来事が夢かどうか定かでないから気分が晴れないのだ。
正直、気にしてくれたシュウに感謝したい。このまま考えていたらそれこそノイローゼにでもなりそうだ。
「…なぁシュウ。鬼とか化物とか現実にいると思うか?」
「…どうした?頭でも打ったか?」
「…いや、何でもない……。」
そのときだった。廊下側から突然、俺を呼ぶ声がした。
「遼一くぅ〜ん!ちょっとこっち来てぇ〜!」
その声の主は俺が知っている永井の声だ。なんだ、あの時のことは白昼夢だったのか…。明らかに夜の時間だったがそこは気にしちゃいけない。
俺がそんな思い込みをして廊下の方へ行ったら、幻想をすべて吹き飛ばすように思いっきり胸倉をつかまれると、明らか女子高生離れした力で引っ張れた。
「ちょ、な、永井!?」
「気にしないでついて来てね☆」
き、気にしないでって!?明らかおかしいから気にするだろ普通!!
そうやって体育館裏まで連れてこられた。
「最初に言っておく…。」
…あれっ?この口調って……。
「鬼の話を易々と話すな。機密事項だ。」
…ああぁぁぁ……。あのことは白昼夢でも何でもないのかよ…。
「それと私以外の人とあまり接するな。巻き込みたくないならな。」
「なあ、本当に戦わなきゃいけないのか?」
もしあのことが本当なら、鬼狩になってしまったのが本当なら、戦わなきゃいけない。だけど話が急すぎる。いきなり戦えというのは俺はできるだけ避けたかった。
「…迷いがあるうちはまだ一人で戦うな。今夜から戦い慣れしてもらうために軽く修行する。」
「……わかった。」
正直ショックが大きかった。情けない話だがあのことが本当というのを認めたくないらしい。理性が認めていても、本心はそういう非日常的なことを拒絶してるのだろう。
考えながら教室まで行くと、何だかざわついた雰囲気になっていた。俺が入ると、シュウが近付いてきた。
「なんだよ…。」
「なあ遼一。お前と永井って付き合ってるのか?」
はあ?何言ってんだこいつ?
しかしながらこういうときって大体タイミングがいい。俺にとっては悪いというのだろうが…。なんと永井が入ってきたのだ!
「お、丁度いいところに!永井、お前こいつと付き合ってたりするのか?」
ああぁぁぁぁ…。シュウ、お前何空気読めないことしてんだぁ……。
永井はこっちにきて、いつもの可愛らしい笑顔で、少し恥じらいながらこういった。
「…実は昨日から……ね?遼一くん?」
…なんか空耳が聞こえる気がする。
「え、マジでかよ!やるなあ、遼一!」
「ちょ、ちょっとまて…!?」
誤解を解こうとしたら後ろがだんだん熱く……。
(痛い!痛いからつねるな永井…!)
(じゃあうんと言え!いますぐにだっ!!) (なんで言わなきゃいけないんだ!まさか本気ってわけじゃないだろうな!?)
(ば、馬鹿言え!そっちの方が2人で行動しやすいだろ!)
かなりの力でつねられている。背中の辺りにある贅肉が引きちぎれそうだ。我慢できないので俺は仕方ないとは思いながらも、まぁいろいろと期待しながらも、認めることにした。
もう自棄だ!どうにでもなれぃ!!
一日中永井と付き合っているというのが本当かどうかという質問攻めにあった。今日は酷く疲れた。幸いにも今日は塾がない…。
「遼一く〜ん、帰ろっ!」
「ちょっと疲れたから休ませてくれ…。」 「それじゃあうち来なよ!さっ行こっ☆」
永井にグイッてひっぱられる。俺的にはグイッじゃなくてもっと適切な表現があると思う。
「わかったから引っ張るのはやめろ。」
永井はすっと手をひくと、廊下へ駆け出した。
「んじゃ、昇降口で待ってるね☆」
「いや、すぐ行くから咲姫はそこにいろ。」
「え……。」
一瞬永井の顔が固まった。
「なんだ?名前で呼ぶのはまずかったか?そっちの方がカップルっぽいからいいかなって思ったんだが。」
咲姫は顔を赤らめるた。少し恥ずかしかったかな…。
「こっちのときはそれで呼んで…。」
「え…?」
咲姫は顔を上げると、花のようにフワッと笑った。
「ほら、ボサッとしてると先行っちゃうよ〜!」
「っておい!待てよ!」
う〜ん。どっちが本当の永井なのだろうか…。夜が本当なら咲姫は偽者ってなるし、今の姿が本当なら夜の姿は無理して出来た姿なのかなあ。形上とはいえ付き合っているわけだし聞いてみるのも手だよな。
茜色に染まる空の下、俺は久々にのほほんとした気分で過ごせている。咲姫もそうではないのかなと思う。あの時からそんな時間は経過していないが、この笑顔は普段みせるようなものではない気がする。
「ここが咲姫の家か…。以前俺が看病してもらったとこか?」
「うん。あの時はちょっと時間軸がおかしくなっちゃったけど…。」
「時間軸?」
「まぁ詳しいことは中でね☆」
ということで和風の御屋敷って感じの家へ入った。玄関にきてふと思ったことがあった。
「両親って共働きか?」
俺は咲姫に言ったつもりだった。しかしそこには咲姫はいなかった。
「何故そう思う?」
…永井さんがキターー……。
「靴がないからさ。靴箱はないし、しまうとこがないならここにあるはずだろ?」
永井は俺の推測を見事にぶち砕いた。
「靴箱はあそこにある。そして母は働いていない。」
あ、じゃあ母親がいるのね。
ふと気がつくと永井は顔を下に向けていた。手にも力が入っていた。
「…どうした、永井……」
「…でもこの家には私一人だ。帰ってくる親はいない……。」
「え……。」
聞いてはいけないことを言ってしまったようだ。少し後悔した。
「私の親は…。」
「いや、話さなくていい。辛いだろ…。」 永井は顔を上げた。ほとんど無表情に見えるがどことなく怒っている感じがした。
「…辛くはないから言わせてくれ。遼一には知っておいて欲しい。私が鬼狩になったわけを…。」
…鬼狩になったわけか……。少し、いやかなり興味深い話だ。何故永井が鬼を狩らなくてはならないか。知っておいて損はないだろう。…もしかしたら自分の戦う理由になるかもしれないし。
俺は首を縦に振った。それを永井はみる と俺を和室へ連れていった。
「2年前、中学3年のときだ。私は遼一と同じ状況になった。」
お茶を置きながら永井は言った。
「同じ状況?あの世界に迷って鬼に致命傷を受けたのか?」
「そういう今ではないが…。」
永井は俺の真正面に座った。そして懐かしそうな目で話した。
「私の両親は鬼に殺された。私の家は代々鬼狩の家系らしく、鬼を狩っていた。」
「…鬼狩って何のために狩るんだ?」
「お前が歩いていた時空の狭間からこの世界に鬼が流れて出てくるときがある。人間に被害が出ないようにということで江戸幕府は陰で鬼狩という役職をつくり、人々が鬼に殺されないように、鬼を退治していたわけだ。」
そういうと永井は少しうつむいて続けて話した。
「私は親が夜遅く出かけるのを不思議に思ったから、尾行して何しに行っているか、確かめようとした。そして向こうの世界を知り、鬼の存在も知った。しかし私があの世界へ行ったせいで両親は守りながら戦わなくてはならなくなり、A級の鬼に殺された。私はお前と同じように走って逃げ、永井咲姫は一時死んだ。」
「一時死んだ?どういうことだ?」
永井は少し微笑んだ。
「体が冷たくなっていく感覚。私はあの時を一時的に死んだ状態といっている。」
鬼に体の突かれ、傷口はすごく熱くなるが周りからだんだん冷えていく。あの時のあの感覚は忘れられないだろう。
「私は心の中で死んだと思った。体が完全に冷えたとき傷口からだんだん熱くなって行くのを感じた。私が鬼狩になった瞬間だ。」
「鬼狩の血が流れたってことだよな。」
「ああ。その場にその後の私の師匠と呼べる鬼狩がいた。その人が鬼狩の私を生んだことになる。」
師匠か…。ということは俺ら以外にも鬼狩はいるということになる。まぁ江戸幕府が陰でつくったというほどである。
「剣もそこで?」
「ああ。鬼狩になるとかなり身体能力が上がると感じたのは修行のとき。1ヶ月いないで習得できたしな。おそらくお前もすぐに習得出来るだろう。」
すぐに…か……。正直不本意だがやるしかなさそうだ。それに隠れメタボから脱却できそうだしな…。
「よし!やりますか!!」
俺がやる気を見せると、永井は少し笑い、顔に明るさが出てきた。
「それでは、武道場へいくとしよう!」
「目指せ、脱☆隠れメタボ!!」
永井は顔をしかめた。しまった、つい本音が……。
「……何のことだ?」
「気にしないでくれ……。」
ちょっと悲しい気持ちになった。
「脇が甘い!もっと締めろ!!」
「うっ…ぐっ……。」
は、激しすぎる…。永井がこんなに力があるとは…。
「ぜぇ…はぁ……ぜぃ……。」
何時間やっているのかな…正直ここまでやるとは思ってもないぞ…。
この前まではほとんど体力なんてなかった。マラソン大会でも後ろから数えた方が早いし、下手したら中学生の運動部にすら劣っていたかもしれない。そんな俺がいきなり木刀で体を動かすことになるんだから疲れるのは当たり前なのだが…。
「ふぅ。もうこんな時間か。それでは終わるとするか。」
永井はそういうと木刀を置きストレッチを始めた。
「遼一もやれ。疲れが残るぞ。」
俺は完全に疲れきっていた。このまま寝たいくらいだ。
「ま、マジっすか…?」
「大マジだ。疲れが戦いに支障を与え、自分を殺すかも知れないからな。」
仕方なしに俺は永井がやっているのを見て自分もやってみることにした。永井は楽々やっているようだが、久々に運動した俺にはしんどかった。
「7時か…。帰りの支度したら行くか。」 「行くってどこに?」
「どこって決まっているだろう。お前の家へだ。」
「はぁ!?こ、こんな時間に上がらせられないけど。」
「上がるつもりはない。ただ送りたいだけだ。」
「え?なんで??」
そういうと永井は笑い、当たり前という感じで言い放った。
「私は遼一の彼女なのだからな!!」
辺りはもう暗くなっていた。室内で修行をしていたので周りの明るさはわからなかったからここまで暗いとは思わなかった。
「…帰り危ないから送んなくてもいいんだが……。」
「平気平気!…帰りはこっちで帰ればお前も安心だろ…?」
少なくとも普段見ている永井よりも安心度は高かった。…っていうか切替えが出来るのかよ!?
「…ちょっと鬼狩になってよかったなって思い始めたよ。」
不意に俺がそういうと永井はどうして?っていう顔で見てきた。
「急にどうした?頭でも打った…?」
「大マジでいっているんだ。こうして咲姫と帰れるわけだし、咲姫と話す事も出来るようになったしな。」
「…そう思ってくれてよかった……。最初に向こうであったときに逃げられたのを後悔しているから…。」
咲姫は一呼吸おくと、続けて話した。
「鬼狩は本当に大変だと思う。命も係わってくるし…。普段から毎日狩らなくちゃって言うのはないけど、ゲートが開いたら急がなきゃ行けないし…。そんなことになったのをよかったっていってくれたのは本当に嬉しいよ。」
「でもまだ実践してないからこれからが大変だな。」
星が輝く夜。かなり細い月だけでは照らしきれないから道の電灯がついている。こんなところを永井咲姫と一緒にいるこの特別な時間が長く続くと思っていた。
「じゃあ、ここが俺っちだから。送ってくれてありがとな。」
「遼一くん、ちょっとこっち向いて?」
何だろうと咲姫の方を向くと、咲姫は俺の頬に…。
「これからも、頑張ろうね!それじゃあ!」
…咲姫は本気なのだろうか。いや、思い込みだろう……。
それは置いておいて、鬼狩になったということ以外は充実していて前の生活が嘘みたいであった。永井、いや咲姫と交友関係を持つ事が出来たし、2人ですごすなんて物凄い事まで経験出来た。
…このときはまだわかっていなかった。鬼との戦いの怖さを。そして鬼の真の力を―――
鬼狩になって早くも1ヶ月経とうとしていた。剣術もある程度出来るようになったし、体力も大幅に上がったし、鬼狩としての力がついてきたなと思う。あれ以来まだ向こうの世界に行っていないが、今ならきっと戦っていけるであろう。
「…はぁ……はぁ……。」
「だいぶ…力…つけたな、遼一。」
かれこれ30分は戦っていただろう。鬼狩になったばかりのころとは大違いだ。あの時は1分と持たず、永井に負けていたから30分やり合えたのは強くなったと言えよう。
「…でも鬼狩んなくていいのか?」
永井は壁の方にあるボトルを手に取り、中にあるドリンクを口に含んだ。
「…プハッー!安心しろ。鬼の世界のゲートが開くは新月の夜だけだ。あいつらは太陽光に弱いからな。」
「夜に太陽光?」
かなり変な話だ。夜に太陽光なんて存在するのだろうか…?
「月は自分で輝いているわけではない。太陽の光を反射させて光っているのだ。」
永井は得意そうに話した。確かに月は太陽の光を反射させているが太陽光と呼んでいいのだろうか?
「…さて、7時にもなったし帰るとしますか。」
「そうか…。気をつけてな。」
あの1回だけだった。永井が家まで送ってくれたのは。学校とかこういうときは相変わらずだが、何となく間に線がある気がしてきた。
「…なあ、永井?」
「どうした?」
首を傾げて永井は尋ねた。…そんな顔されると言いづらいのだが……。
「最近、俺を避けてたりしない?」
思い切って聞いてみた。さて、どう返答するのやら…。
「べ、別に避けてたりしておらん。避けていたらこうやって鍛練もしないであろう。」
まぁ確かに。と納得しないのがそのときの俺。すぐさま攻めの一言を告げる。
「そういうのは人の目を見て言え。そういうときじゃなくて…。」
「避けておらんといったら避けておらん!何故私を信用しない!?」
…怒らせちゃったかなあ。避けてないとなると、きっと俺は思い違いしていたのかな。ただあと一言言うことにした。
「怒らせたなら悪い。信用していないわけじゃないんだ。俺の単なる思い違いみたいだから…。ただ一つ聞きたいけど本気ってわけじゃなかった?」
「…何のことだ?」
永井は目を背けて話した。嘘ついているのか?
…あまり詮索しない方がいいな。あいつが恋心持っているはずがないさ。そもそもタダの鬼狩仲間でそれ以上でもそれ以下でもない。
だったらあれは何だったんだ?
鬼狩になる前に戻れないだろう。シュウとは話こそするが、前みたいにずっといることがなくなったし、何かクラスメイトと距離がある気もする。まぁ永井とはそういうわけじゃないが。しかし体自体は確実に違うものになっている。オーラかなんかわからないけど、存在感が違っている。たぶんクラスメイトが距離を置くのはこれが原因だと思う。
でもそんなこと考えている場合じゃない。今日おそらくゲートが開く日なのだ。鬼が流れていかないように倒さねばならない。 正直怖いし何故自分がとは思う。だが永井に恩返しという形で楽をさせてあげたい。そのためにも頑張んないと。
そう思っていた学校の帰り。突然永井が今日は休めといい始めた。
「たまには休んでよ。いつゲートが開くかわからないし、しばらくは自主練ってことで。」
「なんでだ?まだまだ心配なんだが…。永井にも勝てないまま鬼が倒せるかどうか自信がないんだ。」
2度もやられるわけにはいかなかった。俺にもプライドがある。永井の足も引っ張りたくないし…。
「自信もって!大丈夫だから。ちょっと私にもいろいろ準備があるから、ね?」
そういうとゴメンといいながら永井は駆け出していった。俺は準備する必要がないのだろうか。
「…とりあえず塾いくか。」
多少モヤモヤしていたが、なにもしないよりはましだった。ただ怖いのは塾の連中を巻き込む事だが、今日は心配いらないような、そんなかんじのことを永井は言っていた。勉強に集中出来るとは思えないが、いくだけは行こう。やっぱりなにもしないよりはましだしな。
「…嫌な予感はするが……。」
護身用に永勇を持って行こうか。剣道の帰りとか言っとけば怪しまれることはないだろうし。
―ただ、この予感が当たらなければいいのだが―――
予想は的中した。全くもって集中出来ず、終いには永井が何やっているか気になり、更にさっきのことについて考えていたら苛立ちが生じた。行かないよりましとか思ってはいたが、ここまでくるとどっちもどっちと思えてくる。
ただ嫌な感じは残っていた。あの時の感じ。それに加えて苛立ちがあるわけだから気分はかなり悪い。よけいに機嫌も悪くなる。
そういうふうに感情が揺れ動く中、あの時の、あの場所にきた。そうだ、ここですべてが始まったのだ。
「ここの路地、前まで気にしなかったけどあれ以来なんか薄気味悪い雰囲気出している気がする…。」
路地に近付いてみた。その先は暗くてよく見えない。どうせ何もないのだろう。そう思って帰ろうとしたそのときだった。
「グルァァァ!」
…あの声が後ろから、つまり路地から聞こえたのだ。あの声、そう鬼の声である。
「またここにゲートが!?」
以前は一般人、それも極普通のだ。ただ今は違う。鬼狩だ。
「…永勇を持ってきて正解だった!」
バックを見えなさそうなところにおき、永勇を片手に奥に向かって走っていった。
あの薄く光っている道を走り抜ける。かなりの距離があるが、今では走り抜けることは容易いことだ。どんどん進んでいく。あの場所に近付くにつれて、鬼の声が大ききなってくる。あの少女の声も聞き取れた。
「…!永井もいるのか…。」
ならばもっと速く走らないと。スピードをあげ、更に奥へと進んでいく。
急に景色が変わった。あの森だ。しかしあの少女の声が聞こえない。前に来たときもそうだった気がする。ならば探すだけだ!
「グルァァァ!」
「!!出たな鬼…!」
鬼が長い手を振り下ろした。すぐさま抜刀して、振り下ろした手を横へといなし、攻撃に移る。
「前までの俺と同じと思うな!」
刀を両手で持ち、思いっきり振り抜く!
「一閃業陣斬!」
「グァァァァ!」
鬼は腹部当たりで上下に分かれた。おそらくCランクだが、実践で一体を倒せたことに少し安心した。
「次っ!」
Cランクの鬼がゾロゾロ出て来た。…無傷での勝利13%!
「はっやっせっ!」
「グルゥゥァァァ!」
鬼と鬼の間を抜くときに脇の辺りを切る。致命傷とはいかないが、多少動きが鈍くなるはず!
「…ったく、数が多すぎるっつうの!」
次々と出てくる鬼たち。永井はこんな中狩っていたのか…。斬っても斬ってもこれじゃあきりがない。
「グルゥゥァァァ!」
「よっと食らうかよ!」
鬼の攻撃を間一髪でかわす。かわしたところで着地する前に鬼の攻撃がくる!これは直撃だ!!
「グラァァァァ!!」
ぎりぎりのところで刀で防いだが、足がついていないわけだからそのまま地面に叩き付けられる。背中から思いっきり、だ。
「うぐっ!」
下はもちろん畳でないからダメージは半端ない。ただすぐ起きないと次の鬼の攻撃はよけれない。起き上がる反動を利用して、後ろへ飛ぶ。もちろん意味がないわけじゃない。着地した反動で更に加速し、鬼の集団へと突っ込む。
「うおぉぁぁ!一閃突撃刃!!」
偶然正面にいた鬼の胸部に突き刺さる。すぐに抜き、倒れていく鬼を踏み台にし体を捻って刃を外に向け、体を一気に回転させる。
「遼一オリジナル、スパイラルハリケーン!!」
完全に外れている名前だ。気分で名付けた自分が恥ずかしいが、周りに人はいない! 気にしなくてもよいのだ!!
不特定多数に斬撃を当てたので、鬼は腕なしや、かなりの量の血を流しているものもいれば、目が斬れて暴れているのもいるし、足が斬れてしまっているのもいる。とりあえず作戦は成功したといえよう。
「恨むんだったら俺を鬼狩にした奴を恨みな…!やっ!たっ!はっ!」
そのような鬼たちのトドメをさす。相手はほぼ戦闘不能だからトドメは楽にできた。もうこの辺りの鬼は大体狩れたかな。ちょっと怖かったけど、ちゃんと狩れたからよかった。
…鬼狩にした奴恨めってことは永井を恨めってことだよな。なんか悪いこといった気がする。
そういえば永井は来ているのだろうか。ちょっと移動してみるか。
最初にあった鬼の集団以外に鬼にあわない。全然あわない。もう会う気がしない。あれが全部だったら楽すぎないか?そしたら修行の方が大変な気がしてきた。
―クハハハハ!所詮その程度のものか!
―くぅ!なめるな鬼風情が!!
永井と他の人の声が聞こえた。どうやらこの辺りにいるようだ。とりあえずいってみよう。
「無様だなあ、鬼狩になってまでも生きようとするその姿!僕には到底理解出来ないね。」
「五月蠅い黙れカス!!二度とその口聞けないようにしてやる!!!」
「活きがいいねぇ〜。可憐な少女がいうセリフじゃないだろうがね。」
一人は間違いなくない永井だ。永井が男に刃を向けている。ただその男…。かなりきつそうな永井の顔を見て笑っている男は容姿は人間だ。ただ何か、その男が持っている、オーラか何かが人間外の別のものと悟っていた。
「…まぁいい。そこにいる少年。出てきなよ。」
男はこっちの方に手を向け、手を上へと上げた。次の瞬間、地面が持ち上がるかのように宙に舞い、2人がいるところへ落された。
「うわっと!」
普通の人よりも身体能力は上だから、体を宙で回転させて着地することは楽だったが…。
「遼一!?何故ここにいる!?」
「何故って鬼狩だからだろ!」
「なら速く逃げろ!いますぐにだ!!」
「逃げるって!?俺も鬼狩だ!なら一緒に戦うべきだ!」
「ふざけるな!相手を考えろ!あいつはAランクの鬼なんだぞ!なったばっかのひよっこに何ができる!!」
永井がそういうと鬼の男が嘲笑った。
「ハハハハ!賢明な判断だ!流石は永井の娘だ!!自らを犠牲にするその姿、美しいじゃないか!!」
「永井の娘…って……?」
永井がいっていることに熱くなっていた俺だが、鬼のこの言葉で熱が冷めた。
―永井の親は鬼に殺された。永井の親を知っているこの鬼は――
「な、永井?もしかしてこの鬼が……。」
永井は表情に憎悪が表れていた。刀を握っている力もかなり強くなっているようだ。
「あいつが…私の両親を殺してAランクに成り上がった、鬼だ。」
そういうと永井は構えた。眼は憎しみに染まり、表情は怒りに変わり。こんな姿の永井は今までに見たことがなかった。
「まぁ、あの時は運がよかった。鬼狩のなかでも名の知れた実力者に押されっ放しだったとき、偶然可憐な少女が表れたからね。出てきてくれなかったら僕はAランクになれずに死んでたなあ。」
「だったここでくたばっちまえぇぇぇっ!」
永井は叫ぶと鬼に向かって真っ直ぐに突進していった。
「おやおや。でも僕、まだ死にたくないからなぁ。怒りで周りが見えてないお嬢さんにまた同じ苦しみを味わせますか。」
そういうと鬼は右手を前にだし、そこから霊気か何かの波動を放った。もちろん突進している永井へとだ。永井は攻撃がくると分かった途端にステップをいれて、簡単に回避した。そしてそのまま鬼の右手に向かって刃を振り下ろした。
「ふ、まだまだ。」
鬼は右手を永井の刀に向かってふった。永井の刀に当たったときはその手は刀を持っていた。永井の刀に当たってはいるが、その刃は永井の頬に斬り筋をつけた。
「後ろにまわったら斬れると思ったかい?」
「…今だ、逃げろ遼一!!」
永井は俺を逃がすためにわざと後ろにまわったらしい。この隙をつけば、逃げられるが…。
「…永井を……永井咲姫をおいていけるかぁぁぁ!!!」
俺は構えると、鬼に向かって突っ込んだ。今まで以上のパワーを、この永勇に込めて!!
「うおぉぁぁ!一閃突撃刃!!」
「一直線に突っ込んでくるとは、命知らずだなあ!」
鬼は左手で先ほどの倍の力で気を放った。俺は勢いをだんだん増して突撃していたからよけられるはずがなかった。
「ぅぐふぇ!」
ふざけて殴られたときの声みたいだ。だが発した声からは想像出来ない、かなりのダメージを受け、吹き飛ばされた。1mとかそこらではなく、軽く10mは飛ばされていた。
「遼一っ!」
「他人の心配している暇があれば自分の状況を考えたら?」
鬼は右手で刀をはらうと、永井の胸倉をつかみ、俺がいる方へと投げ飛ばした。
もうかなりのダメージを受けて半分瀕死な俺だったが、飛ばされた永井を受け止めた。
「う、ぐ……。」
「遼一!無理するな!もし死んだら…!」
こんな状況でも永井は俺に逃げろというのか。まぁまだ俺はなったばっかで実践経験もないし、頼りないかもしれない。それでも…。
「別に死んだら死んでもいい。この世で一番大切なやつをこんな危なっかしいとこにおいていけるかよ…!その方が死ぬより辛いわアホ。」
口から赤くなった痰を吐き、立ち上がる。そう、鬼狩になったなら鬼狩なりにいい人生を歩みたい。例え短くとも、大切なモノを守らず逃げるよりずっとましだ。
「…遼一……。」
「茶番は終わったかい?安心しなよ、2人まとめて逝かせてあげるから。」
鬼は両手を前にだし、開いていた手を握った。途端に俺たちの場所が爆発した。
「……どこだ…?」
さっきの爆発で砂埃が発生し、鬼は前方の視界がわからない状況だった。辺りを見回す。鬼の警戒心は最大に達していた。
――そこだ…!!
「一閃烈波刃!!」
「は、そんなの食らうとでも!?」
しかし俺はニヤリと笑った。鬼は完全に忘れていたのだ。それなのに右手で攻撃を防ぎ、左手で俺の方へと攻撃を加えようとしている。――今が好機だ!!
「…じゃあね……。」
「それはこっちの台詞だっ!!」
「剛爪烈波斬っ!!!!」
鬼の背後から突如永井が出てきた。砂埃で隠れていたのだ。その永井の渾身の一撃を鬼はガード出来ずその身に受け、左手が吹き飛んだ。
「グァァァァ!!」
「片手じゃあ防ぐのやっとだろっ!!これで楽にしてやる!!」
俺は再び鬼と距離を置き、一気に突進していった。
「一閃突撃刃!!」
その一撃は鬼の右手、胸部へと突き刺さる。鬼は悲鳴もあげることもなく、その場へ倒れこんだ。
「…マサカ……スナボコリヲリヨウスルトハ……。マイッタナア……モットイキテタカッタノニ…。ナガイガニゲズニイタノガヨソウガイダッタ……。」
鬼は壊れた機械のようにカタコトで話した。この鬼はもう死ぬのだろうか。ただこの鬼の姿が怖くて仕方がなかった。
「マア…イイ…ヤ…。シヌナラ…シヌ…デ……イッショニ……!」
鬼の右手が動こうとしたそのとき、鬼の頭と腕が斬られた。永井が斬ったことにより、その声は止まった。
と、同時に泣き声が付近で聞こえた。その声の正体は永井であった。
「…おい、どうした!」
「本当は…本当は遼一に死んで欲しくなかっただけだったのだ……。大切なヒトが死ぬくらいなら、誰にも何も想われてない私が犠牲になればいいと思っていたのだ……。」
うつむいて泣きながらも永井は話した。
「…鬼狩になったとき、すごくつらかった…。鬼を退治するために毎日鍛練、この世界にくれば鬼を狩る……。普通の人じゃない生活から逃げ出したかった……。でも…でも、遼一が…遼一が鬼狩になってからは楽しい日々だった。本当に楽しかった……。遼一が強くなるにつれて、こういう鬼にも構わず戦う気がして……。」
永井は突如崩れ落ちた。握っていた刀も永井の手から離れた。崩れ落ちた永井を俺は受け止めた。
「うわぁぁぁん!大切なヒトが死ぬのが嫌だっただけなのだ…!!ただ…それだけだったのだ…!」
泣き叫ぶ永井。そんな永井、いや永井咲姫を俺は抱き締めた。
「俺は…俺は永井、永井咲姫が大切なヒトだ。大切なヒトを失う怖さはお前も分かるだろ?…互いに失うと怖いんだ。だから自分を犠牲なんて絶対に言うな…。俺は…俺はこれからもこういう生活でもいいから咲姫と一緒にいたいから…。」
「う…、ひくっ……う…うわぁぁぁん!」
そしてその永い夜は明けた。
平凡な世界から特別な日々に連れてこられた俺だが、まぁ悪い生活でもない。前と変わらず学校へ行き、シュウとか咲姫とかクラスの連中とふざけたり、はしゃいだり。もちろん学生の本分の勉強だってしっかりとやった。
「…ふぅ。これで課題終わりっと。」
机に向かっていた俺は伸びをして、更に欠伸までした。そして、机の上にある大切なヒトとの写真を眺める。
不意に窓からコツコツと音がした。何だろうと思い、カーテンをあけたらそこにはあの人がいた。窓を開けると彼女は部屋へと入っていった。
「どうした?この時間に?」
「どうしたもこうしたもない。今日はゲートが開く日だろう。さっさと準備しろ。」
黒髪の少女は少し怒りながらも言った。
「今日だったのかよ。先言ってくれればよかったのに。言わなかったら言わなかったで先行くとか……。」
永井は笑いながら、そして半分照れながら言った。
「一緒に行かなきゃ意味がないだろうが。私とお前はずっと一緒なのだからな!」
なんかベタな落ちなような違うような…。
続きが書けそうな作品ですが、この先が思い付かなかったので短編にさせていただきました。
皆さんどのようなご感想を持たれたのやら……。
高橋遼一に永井咲姫、シュウや途中遼一がいっていた名前が別の作品で脇役として出て来るかも知れません。
さて、次回の作品の作成に取り掛かるとしますか……!