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ホラー短編集

ふつうに生きられないあなたは息をしながらも、どこにも行けない

掲載日:2025/11/15





家の近くに開かずの踏み切りがある。

最低でも十分くらい遮断機がさがったままだし、長いと三十分くらい立ち往生。

電車の運行が終わった深夜でも、なかなか遮断機があがらず、噂では一時間待たされた人がいると。

深夜に一時間、通りすぎる電車を眺めつづけたら「人生が変わる」という都市伝説のようなものも囁かれたり。


「抽象的すぎて怪談にもならないなあ・・」と深夜三時に、例の踏み切りの前に立った。

キャバクラ勤めの帰りのこと。

たしかに深夜でも電車の往来が多いが、この時間帯なら、そう待たずに渡れる。

スマホで客にメッセージを送りながら、時間を潰したものの、いつまでたっても電車の走行音と警報音が鳴りやまない。

顔をあげたら、遮断機に近い線路を電車が走りつづけている。

「どれだけ車両をつなげているんだ?」と首をひねるほど、一向に最後尾が見えてこず。


とっくに運行は終了しているから、客は乗っていないとはいえ、窓から明かりが煌々と。

どんどん窓は流れていき、後方を見たところで、延々と点在する明かりはつらなっているような。

ありえないことだが、想像してしまう。

電車には先頭もしんがりもなく、尻尾を咥える蛇、ウロボロスのように車両がつながり、すべての線路を埋めつくして走っているのではないかと。

この線路はちょうどウロボロスのように、ぐるぐる回る路線図になっているし。


「まあ、それじゃあ走れないけど」とこないはずのない最後尾を見届けようとしたのだが、そのとき一人の乗客が目にはいった。

はっきりと見えなかったとはいえ、うつむきがちに、虚ろな表情をしてたように思う。

友人や知人ではない、見覚えもない陰気そうな女に、なぜか急に哀れみを覚えて、気がついたら走りだしていた。

客を乗せず快走している電車に、人の足で追いつけるわけないものを「移動できるのに、どこにも行けないのはかわいそう!」と目に涙が溢れてやまない。


乗客の女が遠退いてもかまわず、途切れなく走る車両のそばを走りつづけ、どうにか電車を停めて彼女を外に引っ張りだせないかと考える。

すこし足を緩め、石をとって線路に投げつけるも、嘲笑うように跳ね返されるだけ。

石のほかに脱線させることができそうな異物が見当たらなく、無性に悔しくてぼろぼろ涙をこぼしていたら、線路脇に停めてある車を発見。

ドアを開けて運転席に滑りこみ、勢いよくアクセルを踏みこんで急発進、法定速度をはるかに越して爆走し、女が乗る車両に追いついた。

窓を開けたなら、できるだけ外に乗りだし、向かいの席を見るともなく見ている女に泣き叫んで熱弁を。


「ふつうに生きられないのに、ふつうに生きる以外の選択肢がなかったらどうしたらいいの!

ふつうに生きられないなら、ふつうでなくても生きられるような才能がないと生きられないじゃない!

ふつうじゃないのに、ふつうでなくても許される生き方をさせてくれないなんてひどい!

ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!

わたしはふつうじゃないことに憧れる、ふつうの人間じゃない!」


「そうでしょ!?」と怒鳴りつけて、女がふりかえり口を開こうとしたところで、急激にハンドルを切って柵を押し倒し、延々とつながり走りつづける電車へと突っこんだ。

固く閉じていた瞼をおそるおそる開ければ、目の前に電車の顔が。

顔を真っ青にして、おりてきた運転手に引きずられて店の軒先に座らされたなら、長々と説教をされ、そのうちにあたりは騒々しくなった。

サイレンを鳴らしてパトカーが駆けつけ、その音に引き寄せられた野次馬がわらわらと。

わたしが起こした大騒動なれど、他人事のように思え、警察官や運転手に「威力業務妨害罪になるよ」「とんでもない賠償金どうするの」と叱られて脅されても、ぼんやりとしたまま。

さぞ、ふてぶてしい態度だったろうが、警察官も運転手も怒るどころか「なんで笑っているの・・・」と後ずさって声を震わせる。

自覚のなかったわたしは、意識して口角をあげてみせて鼻血を垂らした。

ふつうじゃない人間に見えるように。



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