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皐月 ~鯉と花見とバカップル~

 



 


 とある公園の片隅で、一組の男女がのんびりとしていた。



 「あ~いい天気ね~♪今日は外に出てきて正解だったわね。ゴールデンウィーク中だから混んでるかと思ったけど、ここは意外とすいてるし♪こんなナイスな提案をしたあたし自身を褒めてあげたい気分だわ」


 「・・・お前に命じられて、この一週間ずっと近所の穴場スポットを探したのは俺なわけだが?」


 「うむうむ、良くやった。褒めてつかわそう」


 「何でお前はそんなに偉そうなんだっ!」


 「あらあら、こんなにいい天気なのに不機嫌だったらもったいないわよ?」


 「誰のせいだと―――いや、良い。お前の戯言につきあっても、こっちが疲れるだけだ」

 「ムッ!誰が面倒くさい女ですってっ!」


 「誰もそんなことは言っていないだろうが!・・・一応、自覚はあったんだな?」


 「まっ!自覚って何よ、自覚って!」




 ―――いつものように犬も食わないようなやりとりが続く。ただ一点だけいつもと違うとすれば、それはここがいつものアパートではなく、公園という公共の場所であることだ。つまり・・・




 「―――そろそろ騒ぐのは止めてくれ。いかに穴場とは言ってもそれなりに人は居るんだ。


 ・・・流石に注目を集めるのは恥ずかしい」


 「あら?あたし達のラブラブっぷりを見せつけてやればいいじゃない♪」


 「・・・頼むから止めてくれ」


  そんな中、一枚の花びらが女の頭の上へと降ってきた。


 「あら・・・これは桜かしら?変ね~、今はもう桜は散っているはずなのに」


 そんな女の疑問に対して

 

 「―――これは八重桜だな」


 と、男は簡潔に応えた。


 「八重桜?・・・あ~あの『いにしえの~奈良の都の八重桜』ってやつ?」


 「その八重桜だ。八重桜は普通の桜より開花が遅いと聞いたことがある。ちなみにお前の今言った歌の続きは『けふ九重ににおひぬるかな』だな」

 「百人一首よね?―――そうだわっ!来年の正月は百人一首大会やりましょっ」


 男は『また妙なことを思いつかせてしまった』という表情をすると


 「お前・・・二人で百人一首って、詠み手と取り手しかいなくなるだろうが・・・」


 と呆れたような溜息とともに言葉を発した。それを聞いた女は意地の悪い笑顔を見せると、こう言い放った。


 「あら~♪あたしはあんたと二人っきりで正月を迎えるなんて一言も言ってないけど~♪♪♪」


 「っっっ!」


 「あんたが、そんなにあたしと二人っきりで正月を迎えたいって言うんなら仕方ないわね~来年の百人一首大会はやっぱり取りやめ~♪」


 「・・勝手にしろ」


 「あらあら、そんなに照れなくたって―――」


 言葉の途中で女は何かの興味を惹かれたように急に口をつぐんで視線を上へあげた。男も女の見ている視線の先をたどり


 「???何かまた変なものでも見つけたのか?」


 と尋ねた。

 

 「変なものっていうか、あれよあれ。毎年この時期にはよく見かける奴」


 「ああ。


 



 ―――鯉のぼりか」


 「そうよ。特に、あっちに見えるのは本格的な奴で大分大きいじゃない・・・そういえば、あんたも男の子だったわよね?」


 「・・・お前は俺が女にでも見えるのか?大方、俺の家では鯉のぼりを飾っていたかって聞きたいんだろう?」


 「あら♪流石はあたしの自慢の彼氏様♪良くあたしの言いたいことが分かったわね~」


 「流石に俺だって今の話の流れからして、先の展開が読めないほどバカじゃない・・・ちなみに俺の家では、あそこまで大きいのはさすがになくて、ベランダにつるす様な小さいのしか飾ったことはないぞ」

 

 「へえ~、やっぱり男の子のいるうちは小さくても鯉のぼりを飾るもんなのね~、それじゃあ兜なんかは?」


 「あるわけないだろう」


 「なるほど・・・だからあんたはこんなに気弱に―――」


 「誰が気弱だっ!俺は別にお前の尻になんか敷かれていないっ!・・・大体それを言うなら、お前だってその可愛げのなさは、家でひな人形を飾ってなかったからじゃないのか?」


 「まっ!誰が可愛げがないですって!あたしの可愛らしさが分からないなんて、あんたの目は節穴よっ!」




 ―――その後しばらく、二人のじゃれ合いは続いた




 「ぜぇぜぇ、一旦休戦にしようじゃないか」


 「そうね・・・さすがに疲れたわ・・・それにお腹も空いてきたし」


 「そう言えば、さっき柏餅を買ってきたんだったな」


 「そうだったわね。すっかり忘れてたわ」


 そう言って男は自分のカバンの中から3個入りの柏餅のパックを取りだした。そしてまず一つを女の方へ差し出そうとしたが、その動作は女の声によって中断させられた。


 「ちょっと待って、ただ食べるんじゃ面白くないわね・・・」


 「柏餅を食べるのに、面白さを求める必要があるのか?」


 そんな男の正論は女に聞き入れられなかったようで、女は自分のバッグの中に手をつっこむと


 「じゃじゃ~ん」


 と言って、バッグの中から新聞紙で作られた兜と新聞紙を丸めたもの(恐らく刀のつもり)を取りだした。


 「・・・何でお前はそんなものをバッグに入れて持ち歩いているんだ?」


 「え~?だって今日は子どもの日だから、あんたに被せて遊ぼうと思って」


 「・・・そうか」


 そう答えた男の顔には全てを受け入れる悟りの表情が浮かんでいた。


 「じゅあ、いつもの通りルールを確認するわよ。


 



 ―――今回は極めて単純よ。まずじゃんけんをして、勝った方が刀で相手の頭を叩きに行く。負けた方は兜でそれを防ぐ。相手の頭を叩くことが出来れば、その時点で柏餅を一つ手に入れることが出来るわ。防がれた場合はもう一回仕切り直しで、じゃんけんをやり直す。・・・何か質問は?」


 「特にないな」


 「柏餅の個数と同じ3回勝負で行くわよ。




 じゃあ始めるわ。最初はグー、じゃ~んけ~ん、ぽんっ!」

 

 



 ―――女の手はグー


 ―――男の手はパー


 女の左手は素早く兜に伸び、男の左手は素早く刀に伸びる。勝負の行方は・・・









 『ポカッ』





 ―――男の勝利であった




 「くっ、本気で来たわね・・・」


 「当然だ。でないと、お前に失礼だからな」


 「フフフ、そうこなくっちゃ。次は負けないわよっ!




 最初はグー、じゃんけん、ぽんっ!」



 ヒートアップする二人の勝負。今度の決着はいかにして着くのか?


 ―――女の手はパー


 ―――男の手はグー



 女の右手は刀へ、男の左手は兜へ伸びる。勝負の行方は?










 『ポスっ』




 ―――見事に、男は兜で女の刀を防いでいた



 「くやしい~」


 「まあ、実力の差だ。諦めろ」


 そう言って男が兜を戻そうとした瞬間―――



 『もらったっ!』



 女は刀をもう一度振り下ろした。






 






 『ポスっ』




 しかし、その一撃は再び男の持つ兜に防がれていた。



 「フッフッフ。甘い甘い、そんな考えはお見通しさ」


 「・・・あんた、そうとう慣れてるわね」


 「当然だ。小学生のころは、結構頻繁にやっていたからな。お前程度の策略では俺には勝てんよ」


 「くっ!少しばかり上手くいったからって、調子にのらないことねっ!」


 威勢のよい事を口では言いつつも、女は自分の不利を自覚していた。


 『このままでは勝ち目は薄いわね。まともにやっても勝ち目がないなら、仕掛けるのはほんの刹那―――』




 「―――いくわよ。最初はグー、じゃんけん、ぽん!」



 ―――女が出したのはパー


 ―――男が出したのはグー


 


 男の右手が兜に伸び、女の右手が刀に伸び―――なかった。


 

 「どりゃあああっっっ!」


 

 女はパーのまま右手を左へ振りぬくと、男が取ろうとしていた兜を弾き飛ばした。


 「―――なっ!」


 あまりの出来事に男は短い間呆けていた。しかしその間に―――





 『ポカッ!』


 女の刀が男の頭を叩いていた。


 「ふっふ~ん♪こんなものかしら~!」


 「くっ!次は負けんぞ!!!」


 これで一勝一敗勝負は最終戦へともつれ込んだ。



 「いくわよっ!最後の一回、最初はグー、じゃんけん、ぽんっ!!!」





 

 ―――女の手はグー


 ―――男の手はチョキ



 男は一瞬の間に思考を巡らせる。


 『グー・・・やはり、さっきの手は効かないと考えて思考を切り替えてきたか。恐らく、次にあいつが考えるのは俺が対策を考える間に攻撃してしまう、という即効勝負だろう・・・しかし、まともにやれば俺の方が早いのは一戦目で証明済みだ。ここから全力で兜を取れば、あいつの攻撃は防げるはず』



 そう考え、全力で右手を兜に伸ばした。しかし―――










 「チェストーッ!!!」








 女は握りこんだ拳のまま、その右手を










 男の脇腹へと突き刺した。




 「グホッ!」



 男が痛みに悶える中、女は



 『ポカッ』 


 と男の頭を叩くと


 「あたしの勝ちねっ!」


 と声高らかに宣言した。




 ◆◆◆



 「ヒドイ目に遭った・・・」


 「何よ~、勝負の最中に油断する方が悪いんじゃない」


 「お前・・・それは小学生レベルの言い訳だぞ・・・」


 「もう、だからちゃんと謝ったじゃない・・・それとも、“これ”を止めてもいいのかしら?」


 「・・・」


 そう、今は男が女の膝の上に頭をのせているいる状態、いわゆる『膝枕』の体勢なのである。


 「・・・しかしゴールデンウィークも、もうお終いか」


 「全然さりげなくないけど、話題転換に乗ってあげましょう。まぁ、確かに過ぎてみるとあっという間だったわね~」


 「・・・お前は良かったのか?」

 

 「何のこと?」


 「結局このゴールデンウィーク中はこの公園に来ただけで、後はいつも通り俺の部屋にいるだけだったじゃないか。この連休前から『あそこも行きたい、ここも行きたい』って言ってたお前はそれで良いのかと思ってな」


 「何だ、そんな事を気にしてたわけ?」


 「・・・まぁな」


 「下らない悩みね~、別に良いのよ。だって―――










 ―――あたしはあんたと一緒に居られれば、どこだっていいんだから」





 「・・・そうか」


 「あ~!赤くなっちゃって、か~わいい♪」


 「ええぃっ、人をからかうなっ!」


 「キャ~、コワーい♪」










 ―――この連休中、あなたは大切な人達と一緒に過ごすことが出来ましたか?

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