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卯月 ~嘘とクイズとバカップル~

 とあるアパートの一室。今夜、再び熱いバトルが開催されようとしていた。




 「では問題で~す♪今日は何の日でしょ~か?」


 「今日は四月一日、エイプリルフールだが・・・また何か厄介な事を考えついたのか?」


 「まあっ!厄介な事って何よ、厄介な事って!」


 「そのまんまの意味だが?お前は毎回毎回、何かしら厄介な事を思いつくだろうが」


 「・・・あんたの言う厄介事に、毎回ノリノリで参加してるのは誰だったかしらね~?」


 「っっっ!!!断じてノリノリなどではないっ!」


 「うっそだ~~~」


 ―――その後もしばらく、犬も食わないような言い合いが続く。



 「―――ハァ・・・いい加減疲れたから、お前の下らん思いつきとやらを話してみろ」


 「あら、素直じゃないわね~。知りたいなら知りたいと、はっきり言えば良いじゃない?」


 「・・・もうそれで良いから、さっさと話を進めてくれ」


 「じゃあ行くわよ、一回しか説明しないから静かに聞きなさい!」


 「・・・うるさかったのはお前だろうが」


 「そこっ!うるさいわよっ!」


 「理不尽だ・・・」


 「ルールは簡単よ―――今から一時間の間に、あたしとあんたの二人が交互に何かを言っていって、相手の言った内容にウソが交じっていると思ったら『ダウト』と宣言するだけ。ウソが交じっているのに気がつかなかったり、ホントのことを言っていたのに『ダウト』と宣言してしまった場合は―――」


 女はそこまでで言葉をきると、自分のカバンの中から何枚かのカードを取りだした。




 「―――この中からカードを引いてもらって、そのカードに書かれていた罰ゲームをやってもらいま~す♪」


 「・・・相変わらず、そういう事には無駄に準備が良いんだな・・・」


 「あらっ♪褒めても何にも出ないわよ?」


 「皮肉だっ!」


 「あたしの方こそ皮肉よ?」


 「ぐっ・・・ええいっ!ルール説明が終わったのなら早く始めるぞっ!」


 「あら♪さすがはあたしの自慢の彼氏様♪のりのりね~」


 「・・・もう何も言わん」


 「じゃあ、あたしの先攻ねっ!え~と、あたしの趣味はジグソーパズルである」


 「ダウト。一度は夢中になったが、三日で飽きただろうが」


 「くっ・・・さすがによく知ってるわね」


 「当然だ―――では俺の番だな。俺の趣味は数独である」


 「ホントのことね。

 

 え~と、確か一週間前からハマっているのよね?あたしが数独苦手だから、あたしの目の前ではやったことないけど」


 「・・・お前の方こそよく知っているな」


 「フッフッフ、当然よっ!さあ、あたしの素晴らしさを存分に理解したところで、あたしを崇め奉りなさいっ!」


 「全力で断る」


 「まっ!これだけ健気で可愛い彼女だっていうのに、どこが不満だって言うのよっ!」


 「別に不満はないが・・・強いて言えば、そのテンションの高さはたまに気になるな」


 「ヨヨヨ・・・あぁ神様、目の前に居るこの贅沢者は、いつかあたしを捨てるでしょう。あたしは一体どうすればよいのでしょうか?」















 「―――ダウト。お前、そんなこと微塵も思っていないだろ?」


 「・・・う~ん、今回はあっさり引っかかってくれないわねぇ。『そんな事するかっ!』って興奮するかと思ってたのに」


 「ハッ!この俺がいつまでも同じ手に引っかかると思うなよっ!」


 「ダウト」

 

 「どういう意味だっ!それは!」


 「ほ~ら♪あっさりと引っかかったじゃない」


 「グッ!


 ちょっと待て・・・どんどん本来のゲームから逸れていっていないか?」


 「あら、ホント」


 「それと思ったんだが、相手がホントの事言っているかが分かる質問じゃないと無理だろう?その辺りはどうするんだ?」


 「あら、特に問題ないじゃない?だって―――」



 ここで女は、春の日差しのような柔らかな笑顔を向けると


 「―――あんたはあたしの事を世界で一番良く知っているでしょう?」


 そう、微塵の疑いも持たずに言い切った。



 「・・・まあな」


 さすがに照れているのだろう。男の目線は、女から逸れ何もない部屋の隅へと流れていった。


 「ではゲーム再開ということで―――応急手当に必要な4つの処置を『RICE処置』と言いますが、ここに出てくる『RICE』とは、

Rest(休息)

Ice(冷却)

Compression(圧迫)

Elevation(挙上)

の頭文字である」


 「・・・おいっ!なぜいきなり問題のレベルが跳ね上がるんだっ!」


 「あら~、細かい事を気にする男はもてないわよ?」


 そう無邪気に―――あるいは、無邪気を装って尋ねてくる女に対して、男は何かを言おうとしたが、結局何も言わないことに決めた。そして、数秒間じっと目をつむって何かを考えていたかと思うと、しぼりだすような声でこう言った。



 「・・・ダウトだ。『Rice』の『C』は『Control』(抑圧)の『C』だ」


 男がそう答えた瞬間、女は勝ち誇った笑みを浮かべた。


 「残念でした~♪『Rice』の意味は、さっきあたしが言った意味で合ってるわ」


 「クソッ!」


 「では、お待ちかねの罰ゲームタイム~♪さあさあ、このカードの中から一枚を引きなさいっ!」

 男は、女が嬉々とした様子で差し出してきたカードを、まるで親の敵でも見るかのような視線で射抜いていたが、しばらくすると覚悟を決め、女の手から一枚のカードを勢いよく引き抜いた。そこには―――











 カードいっぱいに大きな文字で『ちょんまげ』と書かれていた





 ◆◆◆


 「アッハッハ♪ケッサク~♪♪♪」


 「・・・いっそ殺してくれ」


 そこには、大笑いする女と頭がちょんまげ(もちろんカツラ)になっている男の姿があった。


 「この姿を写真に撮って、友達に送りつけてやろうかしら?」


 「ヤメロッッッ!!!」


 「分かってるわよ~♪さすがに可哀そうだし、そんなことはしないわ」


 「クソッ―――なめるなぁ!」


 男はちょんまげのカツラを勢いよく脱ぎ捨てると、女に向かって宣戦布告した。 


 「ならば俺も本気でいかせてもらおう―――東京タワーの大展望台までの昇り階段の段数は、ちょうど700段であるっ!」













 男が自信満々で出したその問題は


 「ダウト。東京タワーの大展望台までの登り階段の段数は、ちょうど600段だもの」


 女によってあっさりと打ち破られた。


 「フフンッ、まだまだ甘いわね~♪今の出題はあの隅に置いてある雑誌に載ってるじゃない。この部屋にほぼ毎日入り浸っているあたしだもの、そんなものは既にチェック済みよっ!」 


 「・・・考えてみれば、俺の部屋でやっている時点で、俺が不利すぎるんだよな・・・」 



 そう言った男の背中は諦めと哀愁に満ちていた。


 「あら?気が付いたら残り時間が、もうあと二分しかないわね―――よしっ、最後は特別ルールにして『ダウト』かどうかを宣言するのは、あんたとあたしがそれぞれクイズを出し終わった後、一斉にするってことでどう?」


 「・・・好きにしろ」


 「じゃあいくわよ?---あたしはあんたが、世界で一番だ~い嫌いっ!」


 「奇遇だな―――俺もお前が、世界で一番嫌いだよ」




 しばらくの間、二人の間を沈黙が通り過ぎていく。そして何の合図もなかったにも関わらず、二人は息をそろえてこう言った。






 「「ダウト」」

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