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 あれから、レオンとは話せていません。恒例の勉強会も未実施となっています。

 というのも、折しも今は騎士団の選抜が行われており、騎士を目指す生徒はそれぞれ学校を休学して遠征に励んでいるという状況なのです。


 原作のタイムラインを思い出すに、レオンは王立騎士団となるべく動いているのでしょう。

 そう、原作ではフィオナへの恋心を自覚したレオンは、フィオナを守る専属騎士の道を選ぶのです!


 しかしその遠征の中で王子の想いやフィオナの気持ちに気づいてそっと身を引き、2人を生涯守るという誓いを結ぶのです。うーん、切ない。


 レオンと最後に交わした会話や口調を思い出すと、ちくりと胸が痛みますが……、そんな覚悟をもった中で私なんかとの誤解があったら苛立つ気持ちも分かるような気がします。

 何も言わずに行くなんてちょっと冷たいんじゃない? とは思いますけども!



 一方私もそれなりに忙しくしておりました。婚約の誤解がとけると、ノワールさまの言う通りに縁談の申し込みがわんさか来ました。 


 子爵で兄がいるといえど、それなりに古い家なので格があるのでしょう。それらの釣書の確認や、お出かけのお誘いに乗ってみるなど、慣れないことをたくさんしました。


 でも、やっぱりまだ恋心というものにはピンときていません。何人か殿方とお話したりもしましたが、きゅん!という感覚には出会えていませんでした。



「恋心についてはそんな感じです」

「正直だね。デート中に」

 ノアールさまにも私の婚約事情をお伝えしたところ、くすくすと笑われてしまいました。


「ノアールさまは分かります? 恋の気持ち」

「そうだねえ、家と家との繋がりと思っているから、あまり考えたことがなかったかもしれないな」

 微笑みながら紅茶を口に運びます。

 本日はノアールさまとお出かけの約束をしたので、パティスリーでお話しております。

 

「そうですよね。まわりで恋愛結婚自体が少ないですもの」

「アルベール嬢は今まで『きゅん』ってしたことあるのかい?」

「どうかしら……、恋愛物語を読んだときはきゅんとしましたわ」

 それこそ、『銀薔薇のアカデミア』を読んでいるときとか。あとレオンがフィオナを抱きとめたときなど、原作シーンをこの目で見たときもきゅんとしました。それから、あの洞窟のときも。

 

 ふと洞窟で感じたレオンの体温を思い出し、ときりと胸が跳ねる。いやいやいやあれは違うわ。あれは原作シーンじゃない。


「の、ノワールさまは真っすぐな髪が好みでしょうか?」 

「女性の髪型にこだわりはないけど、きみの髪は好きかな。綿菓子みたいで」


 ノワールさまはそう言って、対面からふわりと私の髪に手を伸ばしました。髪の一房を優しく耳にかけてくれます。

「『きゅん』とした?」

にこりと笑みを向けられて、慣れない態度に私は頬が赤くなるのを感じました。


 でも、『きゅん』とは違うような気がしました。

そして同時に、以前わしゃわしゃに乱されたレオンの手のひらを思い出してしまい、より申し訳ないような、恥ずかしいような気持ちです。


 どうしてこんなに、レオンのことばかり思い出してしまうのかしら?




――――



 帰宅した私はベッドに寝そべりながら、少しだけ今後のことを考えます。

 原作を追いかけることに夢中だったけれど、私はこのまま誰かと婚約して、卒業して、結婚するのかしら。

 レオンはこのまま専属騎士になって、話さないまま卒業して、二度と会わないようになるのかしら?


 寂しい。


 私は想像します。

 照れながらも笑顔でフィオナと話すレオン。

 私とすれ違っても知らない振りのレオン。

 王子と話すフィオナを優しい眼差しで見守るレオン。


 いや。

 原作シーンを見てもこんなふうに思わなかったのに。


 レオンが離れてゆくと分かったら胸が塞がれたような気持ちです。きっと、レオンがずっと一緒にいるのが当たり前すぎて、甘えていたということなのでしょう。


 胸を塞ぐ何かが喉に上がってきて、うまく息が吸えません。そしてそれはそのまま、涙となって頬を伝いました。


 どうして、叶わなくなってから気づいてしまったのかしら。




――――



 次の日、目を腫らした私は学校をお休みしてしまいました。とてもこんな顔じゃ外にいけません。

 顔は酷いものでしたが、一晩泣いて私は少しすっきりしていました。


 フィオナへの叶わぬ恋と抱えるレオンも同じ位辛いのだと――今となっては野次馬していて申し訳ない気持ちですが――気づき、私もレオンを見守るということに決めたのです。


 卒業まで。卒業して、専属騎士になったレオンにお祝いを言って。

 それから私は家の決めた人と結婚することにしましょう。


 恋に敗れたレオンにアタックすることも考えないではなかったのですが、好みではない私に迫られたとて可能性はないでしょうし、何よりフィオナの傍に控える姿を見続ける覚悟は私にはありませんでした。フィオナと王子を見守ると決めた原作レオンの深い愛に改めて敬服します。


 だから、卒業までは、この気持ちをこっそり持っておきましょう。 

 

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