03
ごきげんよう、みなさま。
あのラブハプニングから2ヶ月後、私は校外演習で広大な森にいます。
まずは原作屈指の名シーンをお伝えしなければいけません。
校外演習に参加した我がクラスは突然の天候悪化&魔獣暴走により散り散りになってしまい、安全に移動できるまで現地で過ごすことになるのです。
そこでなんとフィオナとレオンは二人きりになってしまい、一晩森の洞窟で過ごすことに……
フィオナを意識するレオンは動揺しつつも、騎士らしく一晩彼女を守り抜き、またフィオナもレオンの優しさに気づくという一幕があるのです。
この事件で2人の距離は縮まるとともに、王子とレオンの間のちょっとした嫉妬、揺れるフィオナの心、と三角関係も加速してゆくのです。はあ、素敵。
当然、このシーンを私が見ることはありません。2人で一晩過ごすというものなのですから。悔しいですが邪魔をするわけには行きませんし、一晩洞窟は正直ごめんです。
というわけで、私は早々に安全そうなルートで退散する予定でおりました。
予定で、おりました。なのに。
なぜ……私は洞窟にいるのでしょうか……。
私は日も落ちかけた薄暗い洞窟で、なるべく気配を消します。洞窟内にはフィオナとレオンが一晩過ごす算段を話していて、なんともいたたまれない気持ちになります。
めちゃめちゃ、お邪魔虫すぎる……。今すぐに洞窟を飛び出してしまいたい衝動にも駆られますが、魔獣の晩ごはんになるのも避けたいです。うう、壁になりたい。
魔法で火を炊いているものの、雨に濡れた髪が冷たく感じます。ここはさっさと眠ってしまうしかないでしょう。私は小さく縮まって、洞窟の壁に寄りかかりました。このまま壁に溶けないかしら。
くしゅん、とフィオナ様から可愛いくしゃみが聞こえました。火があるとはいえ、秋風吹く季節に差し掛かろうという頃です。雨に濡れたままでは寒いですよね。
そうそう、この件でフィオナは明日熱を出して、ルシアン王子の看病シーンもあるのでした。私は思い出してうっとりします。
「フィオナ嬢、こちらを」
レオンがフィオナにマントを差し出しました。
こ、これは……! 私ははっとして見つめてしまいます。 原作シーンだわ! 普段はツンツンのレオンが優しくマントを差し出すところ!
ちょっと照れながら渡すのがいいのです。残念ながら薄暗くて表情はよく見えませんが。
「ありがとう。貴方は大丈夫?」
「問題ありません」
気遣わしげにマントにくるまるフィオナ。かわいい。普段気高く冷静なフィオナが、自分のマントにすっぽり入って華奢な女の子だって改めて気づくというキュンポイントなのですよね!
「おい」
お邪魔虫すぎるけど、この目で見られて嬉しいわ、とうっかり口角を緩めていたら、いつの間にか近くにきていたレオンに声をかけられました。
いや、フィオナと態度が違いすぎるんじゃなくって?
「うん?」
レオンは黙ったまま私の隣に腰を下ろして、そして勝手に私のマントの中に入ってきます。
「レオン?」
なるほど? 寒いのね? 湯たんぽ扱いとはなんとも失礼なやつです。
レオンの体温が左半身から伝わってきて、私も温かさを感じます。子犬がくっついて寝るようなものかしら。小さい頃は一緒にお昼寝とかしたものね。
ことりとレオンの頭が私の肩に落ちてきました。金の髪がさらりとかかって、近さに少し驚きます。レオンは、『銀薔薇のアカデミア』のレオンなのですよね。フィオナといる時のレオンは推しとして純粋に見られるのですが、幼馴染としてそばにいる姿といまいち結びついていなくて、なんとなく恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになります。
私もレオンの肩をかりて、目を閉じました。ふぁ、とあくびが出てきます。まあ、イレギュラーなことがありましたが、名シーンを見られたので良しとしましょう。
――――
「……よく寝れんな……」
すうすうと隣で寝息を立てるリセを見て、レオンははあ、と溜息をついた。そっとリセのふわふわ髪を整えて、呑気な寝顔にもう一度溜息を吐く。
強引に隣に来ておいてなんだが、まさかそのまま寝るとは思っていなかった。もう少し危機感持っておいたほうがいいのでは。
「仲良しね」
小声でフィオナに声をかけられる。
「起きていたんですね」
「うふふ、お邪魔してごめんなさいね」
「いえ、いてくださって助かりました」
「あらやだ不純だわ」
楽しそうなフィオナに、レオンは拗らせてますから、と自嘲気味に言うのだった。




