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初投稿です。
全6話/さっくり読めます
前世の記憶がある、と気づいてから早16年。
私、リセ・アルベールはようやくこの世界の成り立ちに気づきました。これ、『銀薔薇のアカデミア』だ……!と!
自分が前世の記憶があると気付いてから、あんまりにも何も起こらないな〜と思ってたのです。
別に悪役令嬢っぽくないし(髪はふわふわだし人畜無害な顔をしていた)、誰かと婚約するわけでもないし(末っ子だから放任されている)、貴族階級も高くも低くもないし(子爵令嬢だった)、幸いドアマットにもされてないし(ぬくぬく暮らしてる!)。
しかし、ようやく分かりました。これは神様がくれたボーナスステージだと。すなわち、推しを眺める特等席をくれたのです!
『銀薔薇のアカデミア』は前世で猛烈にハマっていた少女漫画でした。貴族学校を舞台にした頭脳明晰な伯爵令嬢フィオナと王子ルシアンの恋物語なのですが、国家の陰謀あり、冒険ありとファンタジーものとしてとっても面白いのです。
そして、私が一番推していたのはいわゆる当て馬役と言われる騎士家系のレオンです。王子ルシアンも飄々としており非常にかっこいいのですが、レオンはツンデレ好きな私にぶっ刺さりでした。
成績上位で優秀なレオンとフィオナは学業でライバル関係にあり、レオンははじめ意地悪な奴なのですが、
「リセ」
徐々にフィオナのことが好きになって、
「リセ?」
ふとしたフィオナの言動に赤面したり、照れ隠しに冷たくしてしまって、後から反省する姿がまた……
「おい馬鹿」
「いや今いいところ……ん!?」
いけないいけない、妄想の世界に旅立っていたらしい。はっとして失礼な声掛けをしてきた人物を見やる。
「僕の時間をとっておいていい度胸だな?」
「レオン……」
ひとつ、神さまに不満を言うなら、レオンと幼馴染というのは、やりすぎという点です。
――――
ええ、言いたいことはわかります。推しであるレオンと幼馴染であって『銀薔薇のアカデミア』世界だと気づかなかったんかい! ですよね。
でもレオンなんて割と見かける名前だし、二次元と三次元は違うし、そして何より私が知っているのは漫画の中のフィオナに恋する学生レオンの姿だけであって、普段の、それはもう幼少期から知り合っているレオンには結びつかなかったのです。
なので、貴族学校を卒業する年になって(つまり原作で言う12巻くらい)、フィオナとルシアンと同じクラスになって、ようやく気づいたというわけでございます。
気づいたと言っても私は原作のファンなので、推しをフィオナとくっつけようとか、何かしようとは思っておりません。解釈違いです。ただ、これから起こるラブなハプニングを出来ればこの目で見届けようと、壁に徹する思いでおります。
というわけで、私はいつも通りを装って、レオンにお勉強を教わっているところなのでした。
「今度の試験はずいぶん余裕なんだな?」
「いいえ? エラル公式に関する魔法式の証明と、アル=サラハイド王朝の歴史がさっぱり覚えられないの」
「堂々と言うな。魔法式はこれ解いてみろ」
しかめっ面で言うレオンは、やはり『銀薔薇のアカデミア』で出てくるレオンにそっくりです。今まで気づかなかったのか不思議なくらい。
先日原作通りに、学年度最初の試験でフィオナに1位を取られ「運が良かったようだが、次は僕が1位だ」と宣言したことが思い起こされます。原作ではそこで初登場になるのですよね。
「レオンって、どんな子が好みなの?」
「は!?」
おっと、唐突すぎました。レオンは明らかに慌てています。でもこれは幼馴染の特権なので許していただきましょう。
「……お前、全然集中してないだろ」
「してるわ? 一応解けたし」
ぺらりと証明式を書いた紙を渡して、レオンの様子を見守ります。
原作を振り返ると、恐らくフィオナを意識し始めた頃でしょうか。フィオナは賢く儚げ美人なヒロインなので、ひと目でずきゅん! ときてもおかしくないのです。
「ふん、好みか、最後にしょうもない計算間違いをしないやつかな」
「うぐ」
正解の式を書き込まれた紙を返され、唸ってしまいました。なかなか手ごわい。
でもやっぱり才女と名高いフィオナに惹かれるということなのだろう。うんうん。
得心顔で頷く私をレオンはじっと見つつ、
「何だ急に。お前はあるのか?」
と聞いてきました。
好み? なかなか難しいです。私は原作レオン推しではありますが、ストーリーとか反応が好きというのが大きい気がします。
「んー、よく分からないわ。婚約の申し込みも全然ないし……」
モテないのは仕方ありません。そして私にはそれよりも大切な任務があります。『銀薔薇のアカデミア』を見守るという任務が。
「ふーん。まあお前のもじゃもじゃ頭じゃ無理かもな」
なんだか満足そうに言います。ひどい。
「ふわふわって言ってくださる? 子犬みたいで気に入ってるのに」
レオンは子犬ね、と言いながら私の髪をわしゃわしゃと乱すので、私はむっとしたままレオンを見つめます。
そこでピンときました。フィオナは白銀のさらさらストレートなので比較しているのでしょう。
「レオンは真っすぐな髪が好きなのね」
私はぐいっと身を乗り出して至近距離でレオンを見つめました。レオンは驚いたのかどぎまぎしながら手を引っ込めました。
「そういうわけじゃ……」などとごにょごにょ言っていますが。ふふん。お見通しなのです。
その後は私に気圧されたのか大人しくなったレオンとまた少々勉強をして、解散しました。
さてさて、私は原作を思い出す作業を始めなければ。数々の名シーン、見逃すわけには参りません!