ソラーシュ・ストークス。失脚する
お久しぶりです。登場人物の名前は書き出し祭りのための仮の物だったため、あらすじも含め主人公とヒロインの名前を正式な物に変更いたいします。
主人公 ソル・ストークス→ソラーシュ・ストークス。イタリア語の太陽ソラージュから。
ヒロイン ルナ→ルシア。 スペイン語の光から。
に変更となります。
「ソラーシュ・ストークス、聖赤獅子騎士団副団長の任を解き無期謹慎を申し渡す!」
グレイランド国王、不倒のグスターブの裁定に、大広間にどよめきが走る。
「また我が娘、第二王女プリシラとの婚約は破棄とし、ガーデンヒル城主も解任とする」
ソラーシュ・ストークス。弱冠22歳にして王国で数人しかいない剣聖剣技使い。
三大騎士団の一つ、聖赤獅子騎士団の副団長を務め、バーンフィールド州の第三都市であるガーデンヒル伯の地位にある。
彼の伯父、王国最強の剣士にして、聖白一角獣騎士団長であるバーンフィールド候ヘンリー・ストークスとともに、国王からは絶大な信頼を得てきた。
よりにもよってその彼が、国王に与えられ、今まで築きあげた全てを奪われようとしていた。
「なぜでございます! 恐れながら、わたくしは王国と陛下のため、ひたすらに剣技を磨きあらゆる敵を打ち倒して参りました。ご下命あれば、今からでもあらゆる敵を斬り伏せましょう!」
国王は苦虫を噛みつぶしたような顔で、落胆したように首を左右に振る。
「そうではない。今までお前の傍若無人な振る舞いが許されてきたのはひとえにその剣技ゆえ。しかし、さすがに村一つ皆殺しにする権利までは与えたわけではない」
「お待ちください。あれは村人に紛れたドッペルゲンガー討伐のために必要な措置でした」
ドッペルゲンガーは人間に化けて、犠牲者を食い殺す化け物だ。殺されたものは新たなドッペルゲンガーとなり、次の犠牲者をコピーして入れ替わっていく、非常に厄介な魔物である。
「黙れ! 筆頭騎士アンドリュー卿が貴様を止めねば、余は大切な臣民を失うところであったわ!!」
アンドリュー・クレーンは、騎士団長、副騎士団長に次ぐ筆頭騎士、ソラーシュと同じ剣聖剣技使いだ。彼とソラーシュは共に伝説の勇者の血を引く最強の剣士の家系であり、その実力はソラーシュも認めていた。
「なっ? アンドリューが? どういうことなのです!」
「アンドリュー卿は、村人に紛れたドッペルゲンガーを探し出し討伐を果たした。貴様のような乱暴なやり方でなく。な」
ソラーシュは今まで、その剣技で彼を嘲る騎士どもは残らず斬り伏せ、損害などお構いなしに全ての敵を皆殺しにしてきた。
それは望まれてきたことではなかったのか? だから、王女の婚約者にも選ばれたし、高い地位も与えられてきた。そのはずだ。
「これは何かの間違いだ! 姫殿下、王太子殿下、我が身の潔白を証明してください」
彼の言葉に、婚約者であるプリシラも、聖赤獅子騎士団団長であるオーガスト王太子も俯いて何も答えない。
「アンドリュー、アンドリュー! どこにいる? いますぐ我が身の潔白を!」
取り乱し、信頼する部下でもあった後輩の名を呼ぶ。だが、彼はこの場にはいない。
「裁定は絶対である。本来なら斬首に処すべきところを、そちらの二人、そしてアンドリュー卿の嘆願により、特別に助命だけは受け入れることにした。今すぐ、この場より去るがいい」
ガックリと膝を折り、茫然自失で虚空を見つめる彼の両腕を衛兵が抱えてズルズルと引きずっていく。
(あのような男にはふさわしい末路だ)
(分不相応な地位を望んだ報いだ。獣めっ!)
(ほら、ご覧になって。あの呆けたような顔。いい気味だわ)
(人斬り伯爵もただの罪人か。当然の報いだろう)
その背に浴びせられるのは、多くの罵声と嘲笑。いくら武の名門、バーンフィールド候家当主の甥であり伯爵の地位にあるとはいえ、一族の当主でもないものが、王族との婚姻相手に選ばれる。
それは異例のことで、その暴力的な剣技による成り上がりと見なされた彼の失脚は、多くの貴族や騎士に歓迎された。
さらに屈辱的なことに騎乗による帰還も認められなかった。手枷でつながれ檻付きの馬車で彼の故郷、フルレイン村に送還されることになる。
移送途中で通りかかった、ガーデンヒルの街では、市民たちに石や卵を投げつけられた。遠征の戦費を賄うために重税を課してきた元領主に対する憎悪は爆発寸前だったのだ。体中傷だらけになりながら、ソラーシュは屈辱に満ちた帰郷を果たすことになる。
「前ガーデンヒル伯、貴公は王命による恩赦が命ぜられるまで、ここで無期限の謹慎となる」
10年前、12歳で剣聖剣技を発現させて騎士団に入団して以来、一度も帰ったことのない生家は所々朽ち果て、見るも無惨な姿を晒していた。
ガーデンヒルの様子からすると、彼の元で働こうなどという酔狂な人間は誰もいないだろう。
立ち尽くす彼の前で館の扉がギギギと開け放たれる。
そこに立っていたのは黒髪の少女。
「お帰りなさいませ。領主様。お待ちしておりました」
罪人を受け入れるにしては余りにも不似合いな明るい笑顔で少女はそういった。
「私はルシア。本日より領主様のお世話をさせていただきます」
「ああ……」
ルシアと名乗る少女は、ようやく手枷を外されたソラーシュの手を引かれ、屋敷に入った。
準備が整いましたので、これから少しずつ書き進めていきます。
なにぶん設定が多い作品ですので、本文とコラムを交互に進めていく形になると思いますが、設定部分は本編で語られる部分以外は自己満足ですので、読み飛ばしていただいて結構です。