表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/145

96.取るに足らぬ阿呆ではない?

 記憶を封じたのが私自身だったから、取り戻したいと本気で願った部分が綻びていく。すべての記憶を取り戻す必要はないのかもしれない。心を守るために封じたなら、心を壊すような記憶もあるはず。


 私自身が必要と判断した部分だけ、ゆっくりと取り戻そう。友人や家族の思い出を優先して、嫌いな人や学院での記憶は後回しでいい。そう考えた。私は愛されている。自覚がある以上、愛してくれる人達を泣かせたくなかった。


 取り戻してから「要らない記憶だった」と思うものもあるだろう。それでも殺されかけた記憶なんて、これからの人生に必要ない。その事実だけ認識して、犯人を近づけずに生きていけるなら。


「お祖父様、私は幸せですね」


「そう思うか? なら、もっと幸せにしてやろう。だからロベルディに来なさい」


 命じるような口調なのに、声は嘆願の色を宿していた。器用な祖父の顔をじっくり眺める。本気? それとも冗談? 判断に困る言葉だった。


「父上は本気だ。アリーチェを国に連れ帰る気でいる。悪いが、しばらく付き合ってやってくれ。何しろ、老い先短い」


「一言余計な娘だ」


「その娘にすべて押し付けた老人が、今頃のこのこ駆けつけて偉そうに」


 クラリーチェ様とお祖父様って仲がいいのね。貴族社会ではここまで話す親子を見たことがない。実際、私だってお父様に遠慮があった。令嬢は家のために嫁ぐ役割が優先される。その嫁ぎ先を決めるのは、当主である父親だった。


 命運を握る相手と表現するのが近い。普段から仕事が多く、一緒に過ごす時間が少ないから余計に、両親はもっとも距離の近い他人だった。その認識は、二人に当て嵌まらない気がする。


「フロレンティーノ公爵令嬢が驚いておられますよ」


 フェルナン卿の言葉にハッとして、アリーチェと呼んでくれるよう伝えた。家族なら、名で呼んでも問題ない。笑顔で礼を言うフェルナン卿に、知らないとはいえ失礼をしたのはこちらだ。深く頭を下げて応じた。


 ノックして、サーラがお茶を持ち込む。すぐそこで話を聞いていたような、絶妙のタイミングだった。


「失礼致します」


 用意された珈琲を口に運ぶ。ロベルディでは、紅茶より珈琲の方が好まれるらしい。このフェリノスでは輸入品だが、ロベルディは自国で生産していると聞いて驚いた。


「それで、まだ裁いておらぬ阿呆共は何をした?」


 私が知っているのは、ドゥラン侯爵令嬢の送ったお茶会の誘いに、毒が使われたこと。王妃様やパストラ様と和解した後、一斉に届いた中に紛れ込ませてあった。白い封筒が変色するような、神経系の毒を封筒に使った事実だ。


 侯爵令嬢の兄は、アルベルダ伯爵令嬢イネスを脅した。婚約破棄が行われた夜会で、私の味方をしないように、と。もし余計な口を開けば、実家に冤罪をかけて潰すと言い切った。当時の王太子フリアンの側近に過ぎない彼が、なぜそのような発言をしたのか。


 ドゥラン侯爵家は表立って騒ぎを起こしていないが、裏でこそこそ動き回っている。お祖父様にそう告げた私の後、お父様が情報を付け足した。


「ドゥラン侯爵は、アンドルリーク国から妻を迎えた。もし彼がこの騒動に絡んでいたなら、計画的だったか?」


 他国から妻を貰う貴族は、珍しいが皆無ではない。計画的と表現するなら、その国に何か不穏な気配があるのかしら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここにきて第三国の登場とは、予想外でした [気になる点] フェラリノス国を乗っ取っても旨味はごく僅かに思えます ロベルディ王と元国王を他国に誘い出して、内政者がいないところを···だと恐…
[一言] >他国から妻を貰う貴族は、珍しいが皆無ではない。 アリーチェの父がそうですからね。 もっとも、アリーチェ父の場合は国王の尻拭いをしたような物ですが。
[良い点] 謎は解けた!!アンドリーク国が国を支配するために、大国のアリーさんを亡き者にしようとしたうきゃな!! しかし、計画は失敗。本来なら、アリーさんを排除してアンドリーク国が傀儡師としてこの国…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ