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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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87.対照的な二人の元令嬢

「女王陛下に申し上げます。私の実家トラーゴ伯爵家は、横領の罪を犯しました。それ以外の罪はございません」


 目の前で髪を振り乱したカサンドラとは違う。淡々と言い切った。顔を上げた彼女はやや青ざめているものの、気丈に顔を上げて視線を合わせてくる。


 ああ、そうだったわ。あなたはいつも私の目を正面から見つめた。フリアンに言い寄られて頬を染めている時も、私が嫌がらせをされている現場でも。揺るがない真っ直ぐな視線を向ける。まるで他人事のように……だから私も同じように無言で見つめ返した。


 憎悪も憐憫も滲ませず、口元に笑みを浮かべて。淑女教育の成果である微笑みで受け流した。あなたに対して何も感じていない。挨拶も受けたことがないから、ただの他人。そう見えるように振る舞う。


 蘇った記憶の一部が、しくしくと胸に痛みを齎した。愛していなくとも、婚約者に蔑ろにされれば傷つく。誰かに嫌われる経験に慣れる日なんて来ないだろう。ただただ、嫌で仕方なかった学院生活を、さらに黒く塗り潰したのは――トラーゴ伯爵令嬢の存在だった。


 カサンドラは私が入学した年に国を出た。砂漠のライネサン王国へ嫁ぎ、戻ってきたのも最近のこと。直接の接点はほとんどない。だから裏であれこれと画策して動いたことに、正直驚いていた。そんなにフリアンが好きだったのかしら? と。


 仮にも公爵令嬢だったなら、王太子妃候補に名が挙げられたはず。なのに私に決まった経緯は何だろう。お父様の権力か、側近であるお兄様の存在か。フリアン自身が浮気するほど好きだったなら、婚約者交代を奏上すればよかった。


 私は別にフリアンを愛していない。日記から判断する限り、愛したこともなかっただろう。穏便に婚約者交代を申し出ていたら、カサンドラはこの国に残った。彼女を正妃に据え、トラーゴ伯爵令嬢を側妃にすればいい。


「っ! なぜ、そんな目をするの」


 考えに耽っていた私を責めるように、伯爵令嬢は声を上げた。騎士が猿轡を用意するが、暴れる様子はない。そのままでいいと手で合図を出し、私はこてりと首を傾げた。


「何のお話かしら?」


「私を憎んでいるんでしょう!? フリアンを奪ったから! そう言えばいいじゃない。罵って喚いて、泣いたらいいわ」


 ああ、そちらの意味ね。てっきりあなたの真似をした件かと思った。


「家同士が決めた政略結婚の婚約者よ。愛はないの。穏便に解消してくれたら、こんな騒ぎにならなかった」


 理路整然と口にする言葉。それがトラーゴ伯爵令嬢の感情を逆撫でしたらしい。


「嘘つき! 本当は悔しいんでしょう!!」


「いいえ、好きでもない男が誰と浮気しようが……私には関係ないわ」


 驚いた顔で「うそ……」と呟いた伯爵令嬢は、がくりと床に座り込んだ。私に何を求めたの? 分からない。でも、彼女は元婚約者の浮気相手だった。それ以上の害を私に与えていない。私に当てられる予算の横領も、彼女の実家と元王太子が行ったこと。


 ヴェルディナ個人が私にしたことは、愛してもいない婚約者と恋仲になったことだけ。嫌がらせを受ける私に、追加で何かした事実もない。考えてみたら、カサンドラと真逆の人ね。堂々とクラリーチェ様に意見を述べた態度も見事だった。


 フリアンが間に挟まらなければ、私は彼女と友人になれたかもしれない。そんな妄想が過った。


「ブエノ子爵令嬢襲撃事件、いや殺害事件か。その教唆は罪ではない、と?」


 突きつけたのはお兄様の声だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ブエノ子爵令嬢襲撃事件、いや殺害事件か。その教唆は罪ではない、と?」 うわっ、これがホントならコイツが1番凶悪だよ。 どう考えても、コイツとは友人にはなれないぞアリーチェ。
[一言] 伯爵令嬢も王子自体はどうでもよくて、ただアリーチェより上に立ちたい、とかアリーチェのモノを全部自分のモノにしたい、とかそんなとこなのかな
[良い点] 小人推理。 高みの者を低い身分の自分が悦に浸る為に、アリーさんから立場や婚約者を奪って苦しめることに快感を感じた危ない人がこの取り巻きかも知れないです。 いわゆるサイコパス。 [一言] …
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