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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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86.心を丁寧に砕くことから始めようか

 泣き叫ぶ権利なんてないのに。呆れながら、私は扇を広げる。伯母様愛用の扇はずっしりと重さを伝えてくる。これは腕が鍛えられそうだわ。普段使いというより、護身用の武器として夜会やお茶会に持ち込むのが正解だろう。


「嘘よ、お父様もお母様も! 私を愛してくれているわ、だからっ」


「だからなんだ? 家を守るか、娘を取るか。選ぶのは当主の権限だ。小娘の口出しなど片腹痛い」


 クラリーチェ様はカサンドラの心を挫くことにしたみたい。辛らつな言葉に様々な棘を添え、口元に笑みを浮かべた。親に捨てられた、そう突きつけられたカサンドラは、ぽかんと口を開けて天井を見上げる。涙が眦を濡らした。


 一見すると親に見放された哀れな令嬢だが、この場に集まる貴族に同情は見られない。すでに罪状は明らかだった。


 他国の王族へ嫁ぐ身でありながら、純潔ではなかった。そのことを隠しただけでも、砂漠の国から抗議される国際問題だ。婚約者のいる元王太子フリアンと一線を越えたこと、元コスタ侯爵家のカストが自白した毒の手配、学院内での言動……。あげればキリがなかった。


 大量の罪状を読み上げるべきか、迷うお父様へ女王陛下は首を横に振った。他国につけ入る隙を与えたことは、死罪に該当する。それ以外の罪も償う必要があるものの、到底彼女一人で負える量ではなかった。


「知っておるか、お前のような女にはこれがよく効く」


 伯母様はそう笑い、リベジェス公爵家への罰を口にした。


「リベジェス公爵家の家格をそのまま、財産と領地をすべて没収する。少なくとも罪人を匿った罪は、これで帳消しになるであろう」


 カサンドラを匿った罪と言い切った。自分のせいで実家が没落する。理解が追いつかないのか、ぎこちない動きでカサンドラは視線をこちらへ向けた。


「理解できないようですね。貴族家は格に見合った振る舞いを求められます。公爵家なら相応の衣服、料理、屋敷……用意できない貴族を何と呼ぶかご存知でしょう」


 フェルナン卿が丁寧に説明した。貴族とは見栄の生き物だ。水面を泳ぐ白鳥と同じ、足元でどれだけ足掻いても外には見せない。それが公表された状態なら?


 公爵家としての振る舞いを求められても、応じることが出来ない。領地がなければ税収はなく、手元の財産を没収されたら明日から困る。使用人は無料奉仕をしてくれる存在ではなかった。没落すると知れば逃げ出す。


 屋敷も同じだった。広大な公爵家の屋敷と庭を誰が管理するのか。荒れていく屋敷、明日の食べ物すらない生活、衣服を洗うことも自らの手で行う。隠し通せるなら面子は保てるだろう。けれど、公表された罰だ。


「安心いたせ、社交は認めてやる」


 付け足された条件は、過酷さを増すだけ。日々の生活すら平民以下になる家族に、他家から招待状が届いたら? ドレスがないから行けないと断れるのか。残酷なようだけれど、公爵家である以上、すべてを断ることは不可能だった。


 落ちていく。僅かな現金を求めて、どんな仕事でも、どんな扱いでも受けるしかないのだ。


「ああ、幼い妹君は関係ないな。養子に出すことを認めよう。それ以外の養子縁組は、王家として拒否する。カサンドラ、お前への罰はその後に与えるとしよう」


 事前に逃げ道を塞がれた。リベジェス公爵家の未来は確定したのだ。その上、自らの罰は別に背負うことになった。


「うぁああああ! お前のせいだ、お前の! この悪女がぁああ!」


 美しかった金髪を振り乱し、襲い掛かろうとするカサンドラは……騎士達に床へ押さえつけられた。


「ところで、お前は無言だが……言い分を聞いてやろう」


 クラリーチェ様が促したのは、カサンドラの形相を無言で見つめるトラーゴ伯爵令嬢ヴェルディナだった。

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― 新着の感想 ―
領地と財産と換金可能な金目の物はドレス含めて軒並み没収・使用人抜きで維持も管理もまともにできない無駄にでかい屋敷は長期間苦しめる為にあえて残してやんよ!的な。 爵位返上も屋敷売却も多分禁止で、身分投げ…
[一言] >貴族家は格に見合った振る舞いを求められます。公爵家なら相応の衣服、料理、屋敷……用意できない貴族を何と呼ぶかご存知でしょう 没落貴族というんですよね。 娘を切り捨てて生き残ろうとするから…
[良い点]  これは良い。  逃げ場、というより心の拠り所を砕き、信じていた肉親から処遇の元凶として憎悪される。  その事をしっかり魂に刷り込んでからじゃないと安易に生命で贖わせる訳にはいかないですよ…
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