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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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58.小さな記憶の断片に自信がない

 お父様は昔からそう。ご自分のことは後回しだ。幼い頃に転びそうになった私を助けた時だって……ぴたりと動きを止める。


 昔から? ええ、確かにそう感じたわ。それに子どもの頃のエピソードが浮かんでくるなんて、これは記憶が戻り始めているの? 視線を彷徨わせて固まった私に、お父様は心配そうに声をかけた。


「アリーチェ? 具合が悪いのか」


「あ、ええ。少し」


 エリサリデ侯爵夫人が、椅子の用意された壁際を示した。


「あちらでお休みくださいな。公爵様もご一緒に」


「ああ、そうさせてもらおう」


 長椅子に並んで座り、私は話すべきか迷った。まだ確証はないのに喜ばせるのも気が引ける。何より、時々断片的に思い出すだけなのだ。さっきもホットワインの香りと味に記憶が刺激された。今も血の臭いに反応したのだろう。


 嗅覚が刺激されるたびに思い出すなら、全部を思い出すのはかなり先だと思われた。もう少し……少なくとも夜会の記憶が戻るまで。何も言わないでおこう。


「お父様、他にもおケガをなさったのではありませんか?」


「いいや、嘘はつかんぞ。返り血を浴びたが、俺の身はこの傷だけだ」


 お母様の名前に誓ってもいいと言い出し、私は信じた。ぐるぐると腕を回して力説する父がそう言うなら、疑う必要はない。たとえ嘘であってたとしても、私を傷つけないための嘘だと思うから。


「ロベルティの女王陛下だが……」


「伯母様がおいでになると聞きましたわ」


「明日には到着なさるだろう。俺は……お前の判断に任せる」


 記憶がないことを、言うも隠すも判断を委ねる。当主であるお父様に責任はすべて掛かるのに、そう言い切った。まっすぐ目を見て話すお父様に、覚悟を決めて頷いた。すべてを伯母様に話そう。私が現在持っている情報をすべて……。


「俺は明日の朝から動く。危険だから、カリストから離れるな」


「はい」


 返事をした私の頭を優しく撫で、お父様は立ち上がった。この襲撃事件で、諸侯が戻っている。相談をするには最適だった。


「公爵令嬢様、お部屋を移動しましょう。ここは殿方が会議にお使いになりますし……」


 語尾を濁したエリサリデ侯爵夫人の視線が、死体や血の跡へ向けられた。目撃した女性の中には体調不良を訴える方もいる。移動する方が良さそうね。上位の貴族が動けば、下の者も従いやすい。


 隠し通路がないと確認された客間が宛てがわれ、分散していく。作戦で一箇所に集まったけれど、今となっては集団を維持しても格好の的だった。


 トランクを手にしたサーラと一緒に、私も広間を出た。扉のところで振り返った先で、お父様がひらりと手を振る。お兄様は指揮をしており、まだ背を向けていた。軽く会釈をして退室した。


 夜中の襲撃後に利用を始めた客間で、サーラと寛ぐ。侯爵夫人も自らの部屋に引き上げた。上位の貴族は騎士や護衛を多く連れてきている。そのため自室へ戻る女性が多かった。


 サーラが扉を閉め、きっちり内鍵もかけるのを確認して……ベッドに腰掛けた。行儀は良くないけれど、疲れたわ。ごろりと寝転がり、サーラを手招きした。部屋の確認やお茶の準備に動いていた彼女を呼び、手を掴んで引っ張る。


「お嬢様?」


「お願い、一緒に休んで」


「まあ! まるで赤子のようです」


 大袈裟に驚いて私の手を解こうとしたが失敗し、サーラは結局隣に座った。頑なに寝転がろうとはしないけれど。


「伯母様が到着されるまでに、もう少し思い出したいの」


 トランクの日記を徹夜で読む決意を口にする。反対するかと思ったけれど、サーラは短くない時間の沈黙を経て……同意した。


「わかりました。ご一緒させていただきます」


「ありがとう」


 起き上がり、すぐにトランクを開く。すでに読み終えたのは一冊のみ。二冊目は頭から順番に読むことにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  お父様怪我が無くて良かった。  お、ここで2冊目か。  そうそう重大な新事実は出てこないとは思うけど案外小さな事が大事になったり?
[一言] >嗅覚が刺激されるたびに思い出すなら~…… アリーチェが記憶を失うきっかけとなった出来事を思い出すのは、どの匂いなんでしょうね。
[良い点] 「叔母様→唸るキック→主人公白状する」 「記憶喪失→叔母様の怒りゲージ→王国の存亡如何に!?」 カリカリカリカリ_〆(゜▽゜*) [一言] 小人は猫作者さんを箱の影から見つけたきゅ。…
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