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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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46.毛を逆立てて警戒するのはやめます

 思い返してみる。記憶にある限り、私はお茶に砂糖を入れない。ジャムも同じ。以前に酸っぱかったお茶に蜂蜜を垂らしたけれど、あれはサーラに言われたからだわ。自分から手を出さなかった。


 特に甘いものが好きとは思わない。お菓子もそれほど食べないし、出されても一口二口程度。兄は重大な発言をした自覚がないのか、お茶を飲み干した。すぐにサーラが追加する。


「以前の私は砂糖を使いませんでしたか?」


「ん? ほとんど使わなかったな。学院でも出された紅茶をそのまま飲んでいたし……」


 変だわ。私とお兄様は学年が違う。そもそも貴族の子女が通う学院で、男女が机を並べることはない。教室も教育内容もまったく違っていた。この辺りは日記で読んだ。この状況で、お昼を一緒に食べたような口振りだ。


「私はお兄様とよく昼食をご一緒したのかしら」


「いいや。リチェはいつも一人で食べていたから。目に止まったんだ」


 王太子や側近達と食事を摂る兄は、ほぼ同時刻に一人で食べる私を見ていた。だから知っていると言い切る。何かしら、私は重要なことを見落としている気がするの。


「お兄様、先日……おかしな話を聞いたのです。私の所有する青い表紙の本を、王太子……殿下が持っていたと」


「無理に殿下なんてつけなくていい。ここには僕達だけだ」


 話を逸らされた? そう思った私に、カリストお兄様は小声で返した。


「日記か? あれは違う。今は言えないが、お前の日記ではない」


 驚いて、目を見開く。お茶のカップが傾き、サーラが手を伸ばした。けれど、先に兄がカップを受け止める。そのまま私の手から奪って、ソーサーへ戻した。


「気になると思うが、あれは仕掛けの一つだ」


 にやりと笑う兄の表情に、悪い印象はなかった。イタズラ好きの子どものよう。警戒心や違和感が薄れていく。


 あらゆる方角に毛を逆立てる猛獣の子みたいな私を、大丈夫だと諭すような兄の振る舞い。お父様がお兄様を放っておけと仰ったのは、裏切ったからではないのかもしれない。味方だけれど、敵のように見せる必要があったとしたら?


 いいえ、まだ油断してはダメよ。簡単に心を許せば、また傷つけられるわ。でも……今までのように、毛を逆立てて唸る必要はなさそう。


「お兄様は明日、何をして過ごされますの?」


「学院の首席を守るために、予習をしておきたいかな。あとは……少しばかり読書だ。読みたい本を後回しにしすぎた」


 こんなに積み重なっているんだ。両手で人の頭ほどの高さを示し、笑う兄は肩を竦めた。ソーサーを押してカップを遠ざけ、上に手で蓋をするような仕草をした。お茶はもういらないと示したのだ。


「今日は移動で疲れただろう。僕はこれで部屋に戻ることにする。何かあれば、左隣の部屋だから声をかけてくれ」


「はい、食事はご一緒なさいますか?」


「夕食か……父上が戻られるなら同席するよ」


 私の警戒を察したみたい。お父様が一緒ならと条件をつけて、立ち上がった。部屋を出る兄を見送り、サーラが扉を閉めるのを待つ。


「お兄様は敵ではないのかも」


 サーラは何も言わない。肯定も否定もないことで、私は悟った。そうよね、いまの私が他人の言動に惑わされるなんて。過去の記憶がないのだから、先入観を持たずに動こう。決めつけは目を曇らせるだけ。


 冷たくなったお茶を飲み干し、私はカップを置いた。兄と同じ仕草でお茶の時間の終了を告げる。なぜか、懐かしい気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  うーむこの「あなたの味方ですよ」ムーブ。  はたして本当なのか。  今迄の行動、全て王子側の差し金で、内偵の為に主人公に頼れる兄の姿を演じて見せているともとれるなあ。  これは楽しい!
[良い点] いつもドキドキしながら拝読しています。 警戒心の強い主人公ですが、もっと警戒しないととハラハラする主人公よりも私は好きです。 それだけ危険な状況ということですが…
[気になる点] >「日記か? あれは違う。今は言えないが、お前の日記ではない」 あれ? 青い表紙の本が日記だとお兄様に言いましたっけ? お兄様、何か隠してますね!?
感想一覧
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