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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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31.思いもしなかった過去の事実

※作中に虫が出てきます。苦手な方はご注意ください。


*********************




 私が文字に違和感を覚えたのは、最初に日記を書いた日だ。装飾過多で読みづらいと感じた。そのため、現在は装飾を減らして文字を記している。


 日記帳の文字は、驚くほどシンプルだった。美しい形の文字が、淡々と並ぶ。くるりと文字の一部を巻いたり、飾りを付けたりした場所は見当たらなかった。教科書の手本のような文章を読み進める。


 ――学院の皆が私を悪女扱いすることを嘆く文面、王太子が火をつけた噂は側近に煽られて広がった。まるで他人事のように書かれた頁の最後に、震える字が一行だけ。


 いっそ、死んでしまいたい。


 どきりとした。迷って、前の日を捲る。父に相談した日だったようで、その話が書かれていた。必死で、勇気を振り絞ったのに一喝される。その恐怖と、誰も助けてくれないと嘆く文章が続く。


 さらに一日遡った。頁の終わりまで読んだ私は、思わず日記を手で払いのけた。落ちた日記を父が拾い、そっと机に置く。肩で息をしながら日記を睨み、きゅっと唇を噛んだ。


「いいか?」


 読んでも構わないかと確認する父に頷く。父に話した前日を探し当て、目を通したお父様は「なんということだ」と呟いた。ここでようやく、サーラの用意したお茶に気づく。


「ありがとう、サーラ」


 ぎこちなく笑みを作り、口をつけた。ややぬるい。私達は日記に夢中になっていたらしい。一日の授業範囲や活動内容も記しているため、びっしりと小さな字が並んだ。几帳面な性格だったのね。過去の自分を、冷静にそう判断した。


 すぐに違うと思い直す。そうじゃないわ。学院で友人とは距離を置いているようだから、書くことが他にないだけ。アルベルダ伯爵令嬢も、ブエノ子爵令嬢も、教室では距離を置いて過ごす形だったみたい。きっと、彼女達を巻き込みたくなかったのだろう。


「これは証拠になる」


「ええ。読み進めましょう」


「具合が悪いなら、中断したほうが」


 顔色が悪いと指摘する父に、首を横に振った。ここで逃げてしまったら、二度と日記帳を開かない。過去の恐怖と向き合う覚悟は、今の私にこそ必要だった。


 お父様に話した前日、授業内容の表記のあと……信じられない事件が記されていた。書きながら溢した涙のシミが残る文字を手でなぞった。


 王太子にお茶に呼ばれ、個室に入った。側近達もいるため不安を感じながらも着席すると、お茶が用意される。そのお茶に入っていたのは、虫だ。名前など知らない。黒い虫としか判別できなかった。美しい紅茶の水色(すいしょく)に、沈む黒い影はまだ蠢いていた。


 入れたばかりなのだろう。それを飲めと命じる王太子に抗議したが、押さえつけられ無理やり流し込まれた。口の中で感じた違和感と吐き気、掴まれた腕が自由になるなり、その場で吐いた。淑女教育など関係ない。人前だろうが迷わない。


 その必死な姿を嘲笑う彼らを睨み、飛び出して……医務室の前で止まった。今日は誰もいない。すでに授業は終わっており、教師の姿はなかった。紅茶と吐瀉物で汚れた制服を隠すように、バッグを胸の前に抱えて逃げる。


 精一杯の抵抗だった。そう締め括られた文字は荒れて、解読がぎりぎりだ。感情が揺れて、どうにも抑えきれなかったのだろう。この翌日に、もう無理だと父に訴えたなら……それは本当に限界だったのだ。


「本当、に……すまなか……った」


 怒りからか悔しさか。それとも理解できなかった悲しみか。震える声で絞り出された謝罪に、私は無言で日記を捲った。その前の日へと。











*********************

新作のお知らせ_( _*´ ꒳ `*)_


【竜王殺しの勇者は英雄か】(仮)

タイトルに迷っているので、改題する可能性あります。

魔王を退治にしに来た勇者が、間違えて竜王を退治した人違いから始まる物語


https://ncode.syosetu.com/n4116ik/

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― 新着の感想 ―
[一言] 過去の出来事を遡っていく作品の特性上、主人公が酷い目に遭わされる展開が延々と続くんでしょうけど、それに対するざまぁ回が1〜2話程度で終わってしまわないか心配です。最近はジャンルにざまぁと記載…
[良い点] 毎回楽しく拝読しています。 回が進んでいくごとに徐々に霧が晴れるように状況が見えてくるところと、謎が深まっていくのが面白くて続きが気になります。 次回も楽しみです。 [気になる点] 虫の表…
[一言] 愚者王子もその側近(と称する愚物)もソイツらを庇う国王も要らないですね。 即刻叩き潰しましょう!
感想一覧
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