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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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20.愚王の振る舞いから始まった亀裂

 夕食の前に大急ぎで着替えを済ませた。手の込んだレースとフリルをふんだんに使用したワンピースを選ぶ。出掛けるわけではないので、コルセットは着けなかった。デザートまで美味しくいただき、食堂から移動する。


 広めのリビングで、勧められるままソファに腰掛けた。お父様は向かいではなく並んで座る。侍女達も外へ出してしまい、二人きりなのに妙な位置だった。話をするなら向かい合った方がいいのでは? 提案する前に父が口を開いた。


「……カロリーナ殿のことだが」


 顔を正面に向け、お父様は私を見ない。ここで理解した。顔を見て話せるようなお話ではないのかもしれない。王家の裏事情なのか、それ以上に複雑な問題の可能性もあった。私は右手の上に左手を重ね、その指先をじっと見つめる。サーラが丁寧に整えた爪は、淡いピンク色に染まっていた。


「彼女は隣国の公爵家出身だ。本来はアリッシアが王妃になるはずだった」


「……え?」


 驚きで声が漏れた。黙って聞こうと思った決意が崩れ、いろいろ尋ねたくなる。だが我慢して呑み込んだ。さきに問い詰めたら、きっと何も言えなくなってしまう。ぐっと指先に力が入る。


「アリッシアは隣国ロベルディの第三王女だ。姉君が婿を取って王位を継ぎ、二番目の姉君は国内で結婚なさった。フェリノス国へ嫁ぐのは、第三王女であるアリッシアの予定だったが……」


 父の声に耳を傾けながら、母の肖像画を思い浮かべた。波打つ金髪が見事な美しい方で、赤い瞳だった。あれは隣国の血筋なのだ。だから父とは色が違う。この国の国王と王太子は黒髪で、王妃様の金髪は目立っていた。おそらく金髪はロベルディの王侯貴族に多い色なのだわ。


 私の予測を裏付けるようにお父様の話は続いた。


「アリッシアの肖像を見たか?」


「はい。美しい方だと思いました」


「ああ、とても美しくて優しい女性だ。だが……オレガリオは面と向かって、アリッシアの赤い瞳を不吉だと言った。まだ王太子だったが、友好国との関係を壊しかねない暴言だ」


 その場に居合わせたのだろう。父は握った拳を震わせた。思い出した怒りに支配された後、ゆっくりと深呼吸して無理やり口角を持ち上げる。それは愚かな国王を嘲笑うようであり、止められなかった過去の自分を笑うようにも見えた。


「アリッシアは泣き崩れてしまい、婚約は消えた。だがこのままには出来ないと、私がその場でアリッシアに婚約を申し入れたんだ。側近である私が惚れたため、オレガリオが嫌われるよう仕向けて辞退した。表面上をそう取り繕った。義父上様は見抜いたうえで、その戯言を受け入れてくださったよ」


 父のいう義父はロベルディ国王陛下だろう。自国の王を名で呼び捨てるのに、隣国の先代国王陛下に対しては敬語を使う。そこにお父様の本音が透けていた。尊敬に値しない主君ならば見限る権利がある、と。


「同じ青い瞳を持つ公爵令嬢()()()()殿が、代わりにオレガリオに嫁いだ」


 名前の響きが違うことに首を傾げる私に気づき、父は険しい顔をする。ここにも何か愚行があったのかしら。


「ロベルディの呼び方が気に入らない。フェリノス風に直せ――嫁いだばかりのカロリナ殿に、愚かなオレガリオが初夜に言い放ったらしい。それ以降、カロリーナと名乗っている。なんともお気の毒な事だ」


 後から聞いたのだと悔やむ響きを滲ませる父は、そんな愚かな国王でも友人であり側近として支えてきた。崩れそうな隣国との外交を維持し、国内の反発する勢力を抑えながら。その努力を裏切ったのね。私を王太子妃にすることで、隣国との関係を修復する目論見もあったんじゃないかしら。


「なぜ、そんな男が王になれたのですか」


 口をついた言葉は取り返しがつかない。父は悲しそうな顔で目を伏せた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 徐々に明かされていく謎が面白い(特に手探りの序盤は面白かった) 父親と兄貴がそれぞれ味方と敵に分かれている可能性があるというのは斬新で良いと思います [気になる点] ・たとえ元の身分がなん…
[一言]  この国やべぇよ‥‥‥。  こんな王家を戴いていながら国家として存続しとる!  本来現国王が継承者時代に何らかの介入が有って然るべきですが。  結局酷王誕生(継子も追随)だし。
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