【9/25、2巻発売記念】誰よりも知っているわ ***ルーチェ
お祖父様と牛の世話をして、乗馬を楽しんだ。あの後、お祖父様は「お母様の過去に関する話」を一切しない。家族にとって暗い話題なのね。それでも私が知りたいと望んだから、教えてくれた。
「お祖父様はいつまでこの村にいるの?」
「なぜ戻ると思うのだ?」
「だって、開拓に向かうとき「行ってくる」と挨拶したわ。それなら帰って来るはずだもの」
行ってきます、いってらっしゃい。ただいま、おかえりなさい。挨拶はセットなの。だから帰ってきたら、お帰りなさいと迎えるつもりよ。そう話したら、きょとんとした顔をして笑い出した。
「はっはっは、これは賢い。やられたな!」
くくっと喉を震わせて笑い、お父様へ「立派に育てたものだ」と褒めた。お父様は首を横に振り、お祖父様の言葉を否定する。
「育てさせてもらったのです。妻の功績ですよ」
いつも謙遜するけれど、お父様は必要な愛情を与えてくれる。私が剣を握りたいと言い出した時も反対しなかった。続けるなら途中で投げ出すなと教え、見守っていた。いつもそうね。お母様が新しいことを始めるときも、頑張れと応援する。
お父様のような男性を選んだお母様は、とても見る目があるってこと。私も素敵な旦那様を見つけて、お兄様の補佐をするのが夢よ。
楽しい時間は早く流れ、あっという間に予定した日になった。帰宅しないわけにいかないし、お母様にも会いたいけれど……。お祖父様はこそっと耳打ちした。
「帰る前に手紙を書こう。寒くなったら、暖炉の前で抱っこさせてくれ」
にっこり笑って了承した。もうお膝に乗る子供じゃないけれど、お祖父様ならいいわ。ごとごとと馬車に揺られて、屋敷へ戻る。帰り道は、徐々に見慣れた風景が増えていく。窓の外を夢中になって眺めた。
「知りたいことを知れたかい?」
「ええ、付き合ってくれてありがとう。お父様」
到着してお母様の出迎えに抱き着いて、まだ子供ねと笑われた。お父様とお母様がキスを交わし、居間へ移動する。どうしてお祖父様のところへ行かせてくれたのか、お母様に尋ねた。お母様の過去や伯父様のこと……隠していても問題ないのに。
「知りたいと思ったら、とことん追求しなさい。少なくとも、私のように知らなかったことで苦しまないように。道を誤らないように、ね」
一度言葉を切って、お母様は窓の外へ目を向けた。鳥の鳴き声が聞こえて、私も顔を上げる。
「知りたいと願う気持ちは、誰よりも知っているわ」
ぽつりと聞こえた言葉が重くて、私ははっとした。今日、伯父様がいないのはお母様が手配したから? 聞かせて傷つけたくないと思ったのかも。私が自由に話せるよう、気を使ってくれたのなら……。
「ありがとう、お母様。私はお母様とお父様の娘でよかったわ」
微笑んだお母様の頬に一筋流れた涙を、見ないふりで微笑んだ。愛し、愛され……私はここにいる。それがすべてよ。
不思議なほどに、カリスト伯父様への感情が落ち着いた。何も知らないからこそ、恋に恋して溺れていたのだと知る。お祖父様が戻ってきたら話してあげよう。私はこんなに成長したのよ、って。
END.
お付き合いありがとうございました。クラウディオはいいお兄ちゃんとなり、ルーチェを甘やかしているでしょう。カリスト伯父、祖父、父、甘やかす男性が多数です。それでもアリーチェ譲りの聡さで、ルーチェは己の道を選びました。一応終わりですが、また気が向いたら書いちゃうかもしれません。次があれば、クラウディオかな? なんて。
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