【9/25、2巻発売記念】フロレンティーノ領のお転婆娘 ***ルーチェ
ロベルディ王国は、私が生まれる前にフェリノス王国を吸収した。この話はお父様から聞いたの。歴史の授業で「フロレンティーノ領」と表現するから、気になって尋ねた。フロレンティーノは家名だけれど、土地の名前とどちらが最初なの? と。
答えは意外だったわ。かつてフェリノス王国のフロテンィーノ公爵だったお祖父様や伯父様が、お母様のために国を滅ぼしたの。そこに優しい大伯母さまも関わっていると知って、すごく驚いたわ。この辺は追加情報で、イネスおば様が教えてくれたのだけれど。
授業のまとめをした手帳を閉じて、うーんと手足を伸ばす。疲れちゃった。馬に乗りたいけれど、一人で乗ったら叱られるし。伯父様を誘おうかしら? 私に甘いから、一緒に出掛けてくれるかも。
「ルーチェ、勉強が一段落したなら手伝って頂戴」
お母様の声に「はぁい!」と返事をして立ち上がった。後ろで椅子ががたんと音を立てて、またやっちゃったと肩を落とす。椅子を引いて立てばいいのだけれど、忘れて動いちゃうのよ。お母様は上品で優雅なのに、どうして私ってこうなのかしらね。
お父様も落ち着いて一歩引いた感じだし、誰に似たのかしら? がっちりしたお祖父様も違うっぽいし……考えながら階段を駆け下りる。
「転ぶわよ、ルーチェ」
階下で待っていたお母様は叱る口調なのに、あまり厳しく言わない。立派な淑女にならなくてもいいと笑うの。大伯母様もそうだった。だから、私は自由に振舞っている。お母様も危ないと注意するけれど、やってはいけないと禁止されたことは少ないわ。
乗馬も剣術の稽古も、ちゃんと大人が一緒なら叱られなかった。
「大丈夫よ、お母様。何を手伝えばいいの?」
「馬のブラッシングをしたいの。手伝えそう?」
「喜んで!」
乗馬がしたいと思っていたけれど、馬の手入れも好き。馬は優しい目の動物で、乗り物以上の価値があるわ。お母様の愛馬は年老いた牝馬なのだけれど、お父様との思い出の馬らしい。その辺は聞いても教えてくれないのよ。
ブラシを手に厩へ向かった。走り回る馬がお母様に気づいて走ってくる。撫でてからブラッシングを始めた。背中の鬣は高さがあるから、跨ってブラシをかける。上から順番に梳かして、最後に足元を拭いた。
気持ちよさそうに嘶く馬が戻っていくのを見送り、お母様と並んで木製の柵に寄り掛かった。
「ここにいる馬は、よその馬より大きいよね」
「ええ。軍馬で、私のお祖父様……ルーチェのひいお祖父様が作った産業よ」
フロレンティーノ領の軍馬は質が高い。ロベルディ本国だけでなく、他国からも注文が入ると聞いた。いずれ私もお母様の手伝いをして、この領地を盛り上げていく。そのために真剣に耳を傾けた。
「どうして馬だったの?」
「いい質問だわ。ひいお祖父様の話をしてあげる」
風に乱された髪をかき上げ、お母様は静かに語りだした。
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3/27に1巻が出ましたが、9/25に2巻が発売確定です。予約はお済みですか? (*´艸`*)なんて。
発売と同時に完結しますので、お祝いSSを掲載します。明日に続きますので、お楽しみに! アリーチェの娘ルーチェ視点です。