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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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13.毒入りの紅茶を飲まされていた

 私が押さえられて悲鳴を上げ、助けようとしたお父様が傷つけられた。そのとき、ご友人と一緒のお兄様は何をしていたの? 残酷な質問なのを承知で、私はそう声を上げた。


「駆け付けようとして、捕まった。リチェが引き倒されたところで足を踏み出し、壁際にいた数人の貴族令息に邪魔されたよ。それを振り払う間に、騎士が僕を拘束した。国家反逆罪と言われたな」


 その罪状は、私の時も出てきた。反逆罪というからには、何か証拠があったのかしら。眉を寄せた私に、兄は続けた。


「縛られた僕が抵抗している間に、ようやく国王夫妻がお見えになった。すぐに気づいて僕の縄を解いたが、父上とリチェは連れ去られた後だった」


 思いだせるか? そう問われたら、そんな気はしない。刺激されて記憶が戻る様子はなかった。ただ、他人事のように己に起きた不幸を聞くだけ。まるで物語を読み聞かされたような、不思議な気分だった。


「国王陛下は王太子殿下を自室へ軟禁した。罪状がはっきりするまでの措置として、だ」


 ここは理解できる。国王陛下のお立場なら、息子を庇うこともできた。それをしたら、国が崩壊すると知っているから、厳しい措置を取る必要がある。けれど、罪状や状況がわからないうちは、王太子の立場や地位もあり軟禁が精一杯だろう。


 頷いた私に、お兄様は大きく深い息を吐き出した。怒りを堪えきれないというように。


「僕が見ていた話をすべて陛下にお話しし、すぐに王太子の処罰が行われると思った。だが……あの方は唯一の跡取りである王太子を庇ったんだ」


 殿下という敬称を消した。それはお兄様の覚悟と怒りを示す。尊敬するに値しなければ、王族であっても「陛下」や「殿下」の尊称は不要。一般的には咎められる無礼を、お父様は当然だと頷いた。


 これは我が公爵家としての立場だろう。今後は王族に対し、敬意を払うことはしない。家族を傷つけた王太子と、愚者を擁護する王への決意表明だった。


「リチェ、この国は二つの派閥がある。国王派と貴族派だ」


 お父様の言葉は、突然話を逸らされたように感じた。けれど、説明のために付け加えたらしい。


「僕らはどちらにも属さなかった。公爵家とは王家を諌める立場にいて、けれど血縁があるので敵対もしない。その不文律が崩れた。僕は父上とリチェを探すために、貴族派と手を組むと宣言した」


 宣言したのなら、夜会の場で口にしたのだ。国王に与することはないと、公爵家が反旗を翻したも同然だった。


「陛下の命令で解放された俺は、まずリチェを探した。客間の一つを使って監禁されたのだから、すぐ近くにいると思った。協力する貴族派の騎士を連れて部屋を探し回り、ようやくお前を拘束した騎士の一人を見つけた」


 お父様はそこで唇を噛み、ゆっくりと私の目に視線を合わせた。澄んだ青い瞳が、黒く濁っていく。


「駆け込んだ部屋で、お前は数人の男に囲まれていた。王太子の側近だ。彼らは我が娘の口にカップを押し当て、嫌がるお前に無理やり……っ!」


 それ以上声が出ず、ぱくぱくと口を動かしたお父様に、私は冷えた声を絞り出した。


「毒を入れた紅茶を飲ませたのですね」


 掠れて聞きづらい。自分の声が遠くで響いていた。ああ、だから……紅茶が怖かったのだ。話が事実とひとつに繋がった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、やっぱり悪いとはわかってても王太子だからと非情になりきれなかったか・・・これは駄目ですね しかも男数人がかりで令嬢に無理矢理毒を飲ませるとか・・・もう何一切、この王家を信用出来ないで…
[気になる点] こりゃもう流石に貴族派まとめ上げて反乱不可避じゃないかな? [一言] 最近はジャンルにざまぁタグがついているのに全然ざまぁになってない、そもそもざまぁが軽すぎる作品が多過ぎるので、きっ…
[良い点] ヒロインがかなり胆力ある令嬢。記憶がないから尚更、状況把握と分析のために、恐怖を上回るモノが情報を得ようと彼女を動かす。 [一言] 事件の流れに ドキドキ 婚約破棄騒動から政争に発展、一大…
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