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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
番外編

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(兄)両名を捕縛せよ

 フロレンティーノ公爵家に生まれたからには、立派に国の役に立つ。そう決めて、唯一の王子の側近になった。妹のみで兄弟のいない彼が、王太子になるのは時間の問題だ。フリアンを支えることが、僕の役割だと思っていた。


 あの時までは……。


 王太子の婚約者に妹アリーチェが決まり、僕は彼女と距離を置いた。未来の王妃になるリチェは、専門の教育を受ける。淑女として、王妃として、立派に夫を支えられるよう。厳しい教育が待っていた。


 ちょうどこの頃だ。リチェの王妃教育が進まない。権力を翳して周囲を脅したらしい。そんな話を聞いた。あれはライモンドだったか。未来の王妃に確定した公爵令嬢、その立場が妹を歪めたのかと疑った。


 冷静に考えたらあり得ないのに。兄である僕は、妹を信じるべきだった。だが一度生じた疑いは、僕とアリーチェの間に距離を作る。目に入る位置に僕がいては邪魔になると考えた。


 これが間違いだった。リチェは兄がいようと甘える子ではなかったし、王太子は僕の態度に何を思ったのか。妹に冷たい態度を取った。何度注意しても直らず、それどころか浮気を始める。


 未来の妻が確定しているなら、リチェに歩み寄る必要はない。結婚前に、他の女性と親しく過ごそう。それが王太子の言い分だった。親しく……などという範疇を超えて、淫らな関係に落ちるまで時間は掛からなかった。


 王家の種を流出させる、その意味すら理解できない愚か者――僕が王太子を見限ったのは、この頃だった。父上に話をして、証拠を集めるために奔走する。しかし後手に回ることが多く、父上に「無能者め」と呆れられた。


 確かに僕は愚かだ。あの夜会の日、僕はリチェから目を離してしまった。悲鳴と怒号、婚約破棄を告げる王太子の声……慌てて駆け寄ろうとした僕を、数人の腕が拘束する。振り解くのに手間取り、結局殴りつけて抜け出した。


 国家反逆罪だと? 僕の言動の何に適用できるのか。ありえない。騎士が僕に近づいてきた。時間がない、何から手をつけるべきか。


 父上の声が聞こえたのはこの時だ。駆け寄ろうとした僕へ目配せし、王族の不正を暴けと口が動いた。リチェと父上の無実を国王に訴え、拘束が解けるや否や飛び出す。目星を付けていた書斎や執務室を荒らし、様々な書類を押収した。


 事前に手を組む約束をしていた貴族派が、僕のサポートに入る。手伝う貴族派の面々と、それらを運び出す算段をつけた。王太子の拘束、リチェの所在不明……父上の解放。様々な出来事が重なり、貴族派は混乱した。


 僕はリチェの捜索に貴族派の手を借りた。空き部屋や客間、控え室に用意された部屋も、片っ端から開けていく。使用中の部屋もあったが、関係なく確認した。


 ここで、リチェの毒殺未遂事件が起きた。聞いた途端、後悔と焦燥が胸を焼く。あの子が死んでしまう? 母上に任された唯一の妹を……失うのか。恐怖が目の前を真っ暗に染めた。


 自分の存在意義を否定されたような、暗くて重い感覚が五感を鈍らせる。たどり着いた部屋で見たのは、押さえつけられた王太子の側近と、落ちて割れた紅茶のカップ、絨毯に広がるシミ……。鮮やかな赤が、妹のドレスと絨毯を汚していた。


 近づいて触れた肌は冷たくて、硬くて。慌てて確認した呼吸は細く頼りない。けれど生きていた。駆けつけた薬師と医師が水を飲ませて吐かせ、薬を流し込んだ。苦しそうな妹の呼吸がやがて落ち着くまで。


 僕は手を握って涙を流す以外に何ができただろう。もっと才能があれば、父上のように上手に振る舞えたら、この子は傷つかなくて済んだ。そう己を責め続けた。


 二週間目覚めないアリーチェの肌はくすみ、爪は伸びた。痩せていく彼女に、毎日話しかける。ようやく目覚めた時、僕は疑ったことも含めて謝罪した。混乱させることも理解せず、身勝手な赦しを乞うた。


 僕はまた間違えたのだ。だから二度と疑わない。どんなアリーチェでも受け入れる。覚悟して顔を上げた。


「元国王オレガリオ、元王太子フリアン。両名を捕縛せよ!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ん?お兄様、アリーチェと結婚しようとしていなかったんですか? だったら何故、自分の見合いを潰していたのでしょうか?
[良い点] お兄様の思い込みがきっかけでアリーさんの心が離れたのですね。小人納得( ;`Д´) [一言] 小人は猫作者さんと、惨劇が起きた会場を歩き回ります。
[一言]  完璧な人間なんて居ないからねえ。  そこまで能力的に低い訳ではなくむしろ高くみえる人なんだけど、詰めが甘いというか決定的な所で後手に回る星の下の運命なのかも。  思考のスピードを上げるって…
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