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書籍化【完結】私だけが知らない  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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104/145

104.朝になったら悪夢は消えるはず

 目が覚めて、ぼんやりと天蓋を眺めた。徹夜で日記を書いてしまうつもりだったのに、いつ眠ったのだろう。両手は誰かに握られており、首を傾ける。右手を握るお父様が、ほっとした表情を浮かべた。


 お兄様がいる側は薄絹が開かれていた。私の左手を両手で包み、お兄様は頬へ当てている。不安そうな表情がパッと明るくなった。いやね、まるで私が倒れたみたいな……。そこまで思考が進んだところで、直前の状況が蘇った。


 きょろきょろと何かを探すように視線が彷徨う。部屋にはお祖父様や伯母様も駆けつけていた。簡易的な部屋着なのは、私が夜中に叫んだから。起きて駆けつけた姿のままだ。


「あの……私」


「大丈夫だ、何も言わなくていい」


 お父様はそう告げた。その声は少しばかり硬く、天蓋の薄絹をお祖父様が手でのける。にっこり笑って、お父様から私の手を奪った。


「怖い思いをしたな。もう心配するな。このじぃじが守ってやろう」


「父上の言う通りだ。これだけの実力者が揃っている。安心いたせ」


 伯母様はわざと明るい口調で、大袈裟なくらい手を広げて肩をすくめる。この程度なんでもない。すぐに解決して安心させてやる、と。実際、それが可能な実力者ばかりだった。


「ありがとうございます」


 時間を気にして窓の方へ視線を向ける。まだ朝日は昇っていないようで、カーテンが閉められていた。隙間から光が漏れ出る感じもない。


「夜中にごめんなさい」


「いや。叫ばず我慢したら、アリーを叱らねばならんとこじゃった」


「そうだ、気にするな」


 お祖父様もお父様も、優しく私を気遣っていた。だからこれ以上謝罪は不要と考え、私はぎこちなく笑おうとする。悲鳴で駆けつけた皆は、床に倒れる私とカップの混入物に気づいただろう。誰も触れてこない。今はそれが有り難かった。


「これを」


 フェルナン卿から受け取ったコップを、クラリーチェ様が差し出す。ガラスのコップは混入物がないと一目で分かって安心できた。こういう気遣い、フェルナン卿らしいわ。喉を鳴らして一口、二口。やや温い水で喉を湿らせた。体が楽になった気がする。


「もう少し眠るといい。朝になったら話そう」


「はい」


 言われるままに横になった。ずきんと頭が痛い。左側……ぶつけたのかしら。手を当てると、やや膨らんでいた。


「コブか? 冷そう」


 伯母様の指示で、フェルナン卿が冷たい水に浸したタオルを用意する。大国ロベルディの王配殿下に、そのような……申し訳ないわ。本来は侍従や侍女の仕事なのに。ふと、部屋にサーラがいないと気づく。でも夜中だし、と思い直した。


 家族が集まった状況で、遠慮して廊下にいるのかも。私は促す兄の手で、丁寧に上掛けを巻きつけられた。


「朝までしっかり眠ってくれ。きっと頭の痛みも楽になっているから」


 こくんと頷き、目を閉じる。そうしないと、全員が私の顔を見つめた状態で動かない気がした。部屋に戻った時は訪れなかった眠気が、ふわふわと意識を侵食する。昼間にいろいろあったから、疲れていたのね。


 朝になったら、皆で朝食の時間を過ごしたい。伯母様やフェルナン卿は、数日でロベルディへ立つ。一緒にいられる時間が短いから、口にして強請っても構わないはず。それから伯母様と今後のことも話し合って……。考えの途中で、深い沼に引き込まれるように意識が途絶えた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  うーんまだ何も判らんな。  「飲料物以外のナニか」が明らかにならないと。  そしてそれがサーラの意思によるものなのか。  サーラ自身が主人公と同年代の子供を持っていておかしくない年齢に見え…
[気になる点] サーラなんですか… 前話では「まさかね」と思っていたのですが… うーん、ショックで立ち直れないかも…(゜ロ゜) 何でなの… [一言] 闇が深くて、まだまだ闇の部分がたくさんあるのか…
[気になる点] 何故サーラがこの場に居ないのでしょうか? 気になります。 [一言] お茶の混入物、実際に入っていたんですね。 てっきり過去を思い出して、幻でも見たんだと思ってました。
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