2章 パーティーを組む(1)
「ユーグ、お願いがあるの。」
そう、これは夢だ。幼い頃の思い出。
実母が亡くなりメイリルの実家、リゴベルト家の養子として引き取られて数年の月日が経ったある日の事。
就寝時間が迫り自室へ戻る途中、寝間着姿のアリシアが笑顔を武器にお願い事をしてきたのだ。
「お断りします。」
「ええ!ちょっと待ってよユーグ。私まだ何も言っていないよ。」
「何をお願いしたいかわかりますから。」
問答無用で拒否するユグラシド。
この頃は親しい人に対しても愛想がなく常にぶっきらぼうな態度と口調。
その為に周囲からかなり誤解を生み、近寄りがたい存在であった。
しかしそんな中でアリシアだけは何事もなく笑顔でユグラシドの傍に寄り添い、周囲から疎外されないように気を配っていた。
その経緯がありユグラシドはアリシアからお願いされると断りにくさを感じていた。
「どうせ、一緒に寝ようとか言うのでしょう?」
「うんその通り。」
ユグラシドの回答にアリシアはいい笑顔で強請る。
この当時ユグラシドは11歳でアリシアは13歳。それぞれ異性を意識し始めるお年頃だ。
現にアリシアの身体は子供から大人へと成長の変化が表れてくる段階。愛くるしい笑顔はまだ子供だが、身体に関しては胸部や臀部は実り始めていた。
「勘弁してください。俺もアリシア姉さんもいい年頃です。一人で寝れるようにならないと。」
「だからいつも一人で寝てるわ。でも今日は一緒がいいの。ほら本も持って来たわ。読み聞かせしてあげるね。」
そう言いながら見せてきた本は『戦乙女冒険譚』。
腕に覚えがある女性冒険者達が国々を渡り歩き、その先々での事件や災いを解決する、という国内外で有名な本。アリシアはこの本が大好きでユグラシドによく読み聞かせをしていた。
「姉さんはその本が本当に好きですね。」
「勿論!だって格好いいのよ。主人公の戦乙女が。はぁ~~、私もこの人みたいになりたいな~~。」
「普通の女の子ならばお姫様とかに憧れるのに、姉さんは変わってますね。」
「おかしいかしら?」
不安そうに見つめるアリシアがユグラシドの返事を待つ。
「いいえ、姉さんらしくていいと思いますよ。」
その答えにアリシアの顔が花咲くように明るくなる。
「ありがとう~~。やっぱりユーグは私の事をわかってくれているわ。さぁ一緒に寝ましょう。」
「寝ません!」
断るが一向に引かないアリシア。その態度を見てユグラシドは何かあると嗅ぎつけた。
「・・・・・・、もしかして明日何かあるのですか?」
「実は明日ね、魔法の実技試験があるの。だからゲン担ぎに一緒に寝たいの。」
アリシア曰く、ユグラシドと添い寝すると次の日はいい事が起きる、というジンクスがあるらしく、試験の前夜(特に魔法などの実技)はかなりの頻度で添い寝をご所望してくるのだ。
「添い寝なくても大丈夫ですよ。アリシア姉さんは俺と違って優秀なのですから。」
「そんなことないわ。ユーグは賢いわ。それに私はとても不安なの。だから、お願い。ね。」
語尾と共にユグラシドの胸に飛び込むアリシア。了承しないと離れないという意思が脇腹を締め付ける両腕からギシギシと伝わる。
「アリシア姉さん離れてください。ちょっと。」
痛みに耐えながらアリシアを引き離そうと格闘している時、角からメイリルがひょっこり現れる。
「廊下で何している二人とも。」
「メイリル姉さん。助けてください。」
両手を広げ助けを求めるユグラシド。
「ちょっとアリシア、離れなさい。ユグが困っているでしょう。」。
「いやよ、今日は絶対にユーグと一緒に寝るの。」
「子供みたいに駄々をこねないで。」
一目見ただけで状況を把握。
無理やり引き剥がすと不平不満を訴えるアリシアに落胆のため息を漏らすユグラシドとメイリル。
「いいアリシア、私達はもうお年頃なの。異性が一緒に寝るなんて許されるわけないのよ。」
「私達は姉弟よ。一緒に寝るぐらいいいじゃない。」
「姉弟のように生活しているだけで実際に血の繋がりはないですから。特にアリシア姉さんとは。」
「今はそんな正論聞きたくない。」
ぷく~、と頬を膨らませそっぽを向くアリシア。
「ねえアリシア、何でそんなにユグと一緒に寝たいの?」
アリシアが普段ここまで我儘を言う事は滅多にない。
だからこそ純粋に不思議と感じて発した質問。
「あのね、ユーグと添い寝したら次の日凄く上手くいくの。」
アリシアは実体験を二人に語る。
添い寝した翌日は身体がとても軽く感じて魔法も自分の手足のよう。おかげで難問と言われた実技試験を一回で成功させた、と。
「だからね、お姉ちゃんを助けると思って一緒に寝て。」
「いや、そんなわけがないでしょう。」
そんなの偶然でしかない、とメイリルに賛同を求める。だが、彼女の反応はユグラシドが求めているのとは違った。
「それ、本当なの?」
「メイリル姉さん!?」
アリシアの証言に喰いついたメイリルに風向きが悪い方へ向きかけた事を察知。
足が無意識にこの場から一歩後退る。
「本当よ。嘘だと思うのならメイリルも一緒に寝てみる?」
「メイリル姉さん、ウソですよね・・・。」
アリシアに右腕、そしてメイリルに左腕を掴まれたことで逃げ出せない事を悟る。
「実は私も明日の実技、ちょっと不安で藁にもすがりたい気分だったのよ。」
両腕を掴まれ怖い笑みを浮かべて迫りくる姉二人の圧。
その圧に耐え切れず、ここで目を覚ました。
「懐かしい夢だったな。」
暗闇の天井を見つめながら独り言。
時間は日付が回ったばかりで外はまだ真っ暗。
(あの後結局、一緒に寝る羽目になったのだよな。)
姉の権力を行使され三人仲良くユグラシドの部屋で寝ることに。
両枠で幸せそうに眠る姉二人。
左手を握り大人しく眠るメイリルとは対照にユグラシドを抱き枕代わりにすやすや眠るアリシア。
(そのおかげで寝苦しかったんだよな。)
その寝苦しさは今でも鮮明に思い出させる。
「(そうそう、今みたいに―――――)え?」
とここで違和感。
左半身が思うように動かず、身体が重く感じるのだ。
「まさか!」
慌てて被っていた布団を剝がすと、嫌な予感は的中。アリシアが潜り込んでいたのだ。
幸せそうな寝息を立て、抱きついて眠る姿は猫のよう。
傍から見れば愛くるしいが当事者であるユグラシドにとっては困惑の感情が勝っていた。
「(いつの間に!)ちょっと姉さん起きて下さい。自分の寝床があるでしょう!」
深夜なので周囲の事を考え声は小さめ。
身体を揺らして起こそうとするが、
「・・・・・・いやっ、ユーグ。zzz・・・。」
全く起きる気配はなし。アリシアは一度寝付くと中々起きないのだ。
無理矢理引き離そうとすると抵抗でより強く絡みつく。
「っ!(ちょっと姉さん、無防備すぎます。)」
この5年間で立派に育った巨乳の感触が体中に伝わり、抗う手が止まる。
「・・・・・・、駄目だ。」
あらゆる手を使い起そうとするが、暖簾に腕押し。
最終的には諦める、の選択を選び、再び眠りへと努めることにした。