1章 再会(2)
「これは一体どういう事ですか!」
王宮の応接室に入室した瞬間、大声を張り上がる賢者サイ。普段色白の肌は怒りで赤く染まっており、丸眼鏡越しの眼つきはより一層鋭い。
金色を髪を掻き毟り荒れるサイに筋肉隆々で全身茶褐色の肌であるジャックが宥めに入る。
「おいサイ、落ち着け。」
「出来る訳ないでしょう。アリシア嬢が<栄光の光>を脱退したのですよ!」
サイとジャック、そしてアルバスは先程マルタリオン国王と王の間で謁見。その場でアリシアが<栄光の光>を脱退、聖女の地位も返上したことを聞かされたのだ。
国王陛下の前では素直に従ったが、サイはこの決定には一切納得していなかった。
「しかも聖女の地位まで返上!そんなこと認める訳にはいきません。」
「サイ、オマエが認めない、と言っても国王陛下がお認めになったんだ。諦めな。」
「ジャック、何故貴方はそこまで冷たいのですか!そしてアルバスも!」
サイの怒りは応接室の端で聖剣の手入れを始めようとしていたアルバスへ飛び火。
襟足が長い群青色の髪に引き締まった体格。細目から覗く灰色の瞳がサイの方へ向いた。
「アリシア嬢はこの栄光の光に必要な人材。これまでこの4人で数多くの功績を残してきたのですよ。彼女の回復魔法でどれだけ助けられてきたことか。」
アリシアの必要性を訴えかけるサイ。だが、アルバスとジャックの心には届かない。
「関係ない。国王様が決めた事だ。俺はそれに従うだけだ。」
アルバスは元々はスラム街出身。貧しい生活を送っていたが、国王に拾われた恩から絶対の忠誠を誓っているのだ。
「まぁ、確かにこの<栄光の光>を結成して1年と少し。苦楽を共にした仲だな。」
「そうでしょう!ならば―――。」
「だがそれだけだ。」
ジャックの冷静な発言がサイの言葉を途中で遮る。
「アリシアは俺達が追い出したわけではない。彼女自身の意思で抜けたんだ。仲間だと思うのなら彼女の次の人生を応援するのが筋ではないのか。」
「何を言っているのですか!アリシア嬢は騙されているのです。」
三日前、アリシアが突然パーティを組むと宣言した時に隣にいた男の事を持ち出す。
「一刻も早くアリシア嬢をあの男から救い出してあげないと。」
「やめとけ。」
部屋から飛び出そうとするサイを言葉で止めるジャック。椅子に腰を降ろして机に置かれていた酒に手を伸ばす。
二人の態度に憤慨するサイ。
「いいですか二人とも。アリシア嬢は聖女であるべき人なのです。そして聖女は<栄光の光>には絶対に必要な存在なのです。」
だが、その言葉に対してアルバスは厳しく言及する。
「確かに俺達のパーティには聖女は必要だ。だが、それはアリシアでなくても構わないはずだ。」
「・・・・・・、どういう意味ですかアルバス。」
「俺達が聖女に求めているのは回復魔法のみだ。回復魔法を扱える者がいるのなら聖女でなくても構わない。」
「確かにそうだな。そしてアリシアはそういった意味ではあまり役に立ててはいなかったな。」
コップに入れた酒を一気に煽るジャック。
「何を根拠に!アリシア嬢はヒールを用いて我々や怪我人を癒していたでしょう!」
「ヒールは回復魔法の初歩。大怪我に対してはあまり効果がない。まぁ、アリシアの場合は自分の膨大な魔力量でヒールを重ねかけして大怪我を治していたが・・・。だがあれは時間が掛かり過ぎる。あれぐらいならば冒険者ギルドから回復術士を雇用した方がましだ。」
現実を突きつけるジャック。
「それにアリシアはB級まで上げたが、はっきり言ってあれで限界だ。俺達と同じA級にはなれない。」
「な、何を根拠に!」
「後方支援としての立ち回りが悪すぎる。接近戦での杖の扱いも下手。何とか防御魔法で凌いでいたが、あの立ち回りではA級はとても無理。足手まといになるだけだ。これで良かったんだ。アリシアにとっても。俺達にとってもな。」
「国王様は次の聖女を準備する用意があると仰った。それならそれでいい。」
そう結論付けた二人にサイは説得することを諦め、怒りを扉にぶつけ立ち去る。
「・・・・・・ジャック、追い駆けなくていいのか?」
「いや、必要ないだろう。頭を冷やせば戻ってくるさ。いやはや、若いね。」
パーティ最年長のジャックは空になったコップにおかわりを注ぎ、酒瓶を机に置く。
「じゃあなアリシア。次の人生が幸あらん事を。」
コップと酒瓶の乾杯が寂しげに響いた。
「ユーグはこの後何か用事でもある?」
頭を撫で続けて1時間、大変満足したアリシアはユグラシドにこれからの予定を尋ねる。
「特に急ぎの用事はないですよ。今日は暇つぶしに薬を作ろうと思っていただけです。なので姉さんの用事を優先します。」
「本当!じゃあ、これから買い物に付き合ってほしいの!」
アリシアのお願いに快く承諾。
冷めたポーションを小瓶に移し替え、棚に陳列して二人で出掛けることに。
「ふ~ん、因みにユーグはポーションの他に何を作れるの?」
「ある程度は作れますよ。」
今日はポーションの他に麻痺治しと毒消し、火傷治しを作る予定だったことを伝える。
「やっぱりユーグは凄いわね。殆ど独学でしょう。ちゃんと学校で学べば薬術師資格、取れたかも。」
「どうでしょうか?俺の作り方は学校で学ぶ方法と違うらしいので、異端児として追放されていたかもしれませんね。ところで姉さん、買い物と言いましたが何を買うつもりですか?」
「装備品よ。聖女を辞めたし、装備を一新しようと思っているの。」
などと世間話に花を咲かせていたら、突然「アリシア嬢。」の大声と共に行く手を遮る男性の姿が。
「サ、サイ!?」
「見つけましたよアリシア嬢。さぁ帰りましょう!」
詰め寄るサイに対してアリシアは反射的にユグラシドの陰に隠れる。
「帰るってどこに?」
「どこって、私達の元に決まっているではありませんか?アルバスもジャックも貴女が戻ってくることを望んでいるのですよ。」
「誰、この人?」
アリシアをサイの視線から隠しながら彼の事を尋ねる。
「サイ。賢者で<栄光の光>のメンバーの一人よ。」
「ふ~~ん。(生まれて一度も失敗や挫折を味わったことがないナルシストだな。)」
ユグラシドは前髪をかきあげるサイの第一印象をそう感じ取った。
「サイ、私は<栄光の光>を抜けたの。国王様もお認めになったわ。」
「アリシア嬢、それは気の迷いです。貴女は聖女であるべき御人。陛下の件ならば私、サイにお任せを。説得して復帰を促しますので。」
「やめておけよ。」
サイが近寄りアリシアの腕を掴もうとするのを間に入って止める。
「何だキサマは!」
サイはここでようやくユグラシドを視界に入れる。
「今私はアリシア嬢と会話をしているのだ。部外者は黙っていろ!」
「自分の意見ばかり押し通して相手の意見に耳を傾けていない。それのどこが会話なのだ。」
サイの睨みを明後日の方向に受け流し、的確な意見を口にするユグラシド。
しかしサイはユグラシドの言葉と存在を無視し、アリシアへと視線を向ける。
「ではアリシア嬢、折角なので立ち話ではなくお店で今後について話を致しましょう。ささ。」
「行きません。」
手を払いのけるアリシアの行動が予想外だったのだろう、一瞬驚き、そして威圧的な態度を示した。
「アリシア嬢、私の言う事を聞いてください。貴女は聖女であるべき御人。栄光の光に必要な人材なのですよ。私の言葉は貴女のあるべき姿をお教えしているのです。私は貴女の為を思って進言しているのですよ。」
ああ、まただ。とアリシアは感じた。
事ある毎にサイはこの決まり文句を投げつけ、アリシアを縛り続けてきたのだ。
楔を打ち付けられたかのように動けなくなるアリシアをサイは連れ去ろうと腕を伸ばした時、
「姉さん、行きましょう。」
再度サイの腕を跳ねのけ、代わりにアリシアの手を取るユグラシド。
その瞬間、楔は一瞬で砕け散り、足は自然とユグラシドの方へ向く。
「こんな人に構っていては時間の無駄です。」
「何だと!低ランクの冒険者ごときが!この私を誰だと思っている!王宮魔術師最高位にして賢者のサイだぞ。」
ユグラシドの発言が癪に障ったようだ。鋭い眼光を向けるが残念ながらユグラシドには一切効果はなかった。
「さぁ?自分の意見ばかり押し付けて他人の言葉に耳を傾けない人間の名前なんて知りたいとも思わないし、覚える気もないね。」
ユグラシドの強烈な一言に愕然とするサイ。
今まで自分の名を名乗れば身分が低い一市民達は皆恐れ、頭を垂れてきた。だが今回、格下の相手に初めて言い負かされた事で怒りよりも先に驚きが勝ってしまったのだ。
「さぁ買い物に行きましょう。」
立ち尽くすサイの横を通り過ぎ立ち去ろうとする二人。
しかし我に返ったサイはそれを許さなかった。
「ユーグ!」「っ!」
アリシアの呼びかけと同時に立ち止まるユグラシド。
そのすぐ真横を電撃が超スピードで通過。ユグラシドが踏み出そうとした一歩前の地面に直撃、地面を真っ黒に焦がす。
「サイ!貴方は何てことを!街中で魔法を使うなんて。」
サイの雷魔法の轟音に往来していた人々がアリシア達に注目。群衆の視線にサイは口元を吊り上げ高らかに叫ぶ。
「聖女アリシア様の為ですよ。貴女を強引に連れ去ろうとする不届き者を制止させるために仕方なく魔法を使ったのですよ。」
「えっもしかして誘拐?」
「あれって聖女様じゃねえのか?」
「あの男が聖女様を攫おうとしているぞ。」
サイの言葉に人々がひそひそ話が伝染。ユグラシドに後ろ指を指し、批難の眼差しを向ける。
「さぁ、どうするかね。最もキサマが何を言い繕うが無駄だろうがね。<栄光の光>のメンバーであり賢者である私と名乗なき低ランク冒険者のキサマ。人々はどちらの言葉を支持すると思う。」
自分が優位の立場であることに酔いしれるサイ。
「何事だ!この騒ぎは。」
巡回中であった騎士が2名、人垣を掻き分けて姿を見せる。彼らの視線はユグラシドを不審者として見定めていた。
「すいません姉さん。これは買い物どころではなくなってしまいましたね。」
「ユーグが謝ることはないわ。大丈夫、私が皆を説得するから。」
アリシアが民衆にこの騒ぎを事実を説明しようとユグラシドの前に出た時だった。
人垣の後ろから「ごめんなさい。前を通してください。」と凛とした女性の声が聞こえたのだ。
「あれ、この声って・・・。」
聞き覚えのある声にアリシアとユグラシドを眼を合わせる。
「よいっしょっと。どうしたのですかこの騒ぎは?」
人垣の中から出てきたのは腰に細剣を携えた軍服を着た若い女性。
小顔で前髪を横一線に揃えた黒色のショートヘア。女性にしてはやや高身長のモデル体格。
僅かな物事を見逃さない黒い瞳が周囲のこの状況を見つめる。
「おおこれは騎士メイリル。」
「賢者サイ様。これはどういう状況ですか?」
軍服を着た女性――メイリルの登場にサイは心の中でガッツポーズ。
自分が正当であることを彼女に訴えかける。
「見てください。貴女の親友であるアリシア嬢をあの不届き者が強引に連れ去ろうとしておられるのです。私はそんなアリシア嬢を助けるために魔法を使わざる負えなかったのです。」
サイの指差しに導かれるようにアリシアと彼女の腕を掴むユグラシドの方へ視線を向けるメイリル。
「メイリル、やっほ~~。」
親友の登場に先程までの嫌な気持ちは全て吹き飛び、満面の笑顔でユグラシドをメイリルに差し出す。
「・・・・・・。」
「はぁ~~~。」
無言のまま、会釈するユグラシドと後ろで笑顔で手を振るアリシアに盛大なため息。メイリルの凛々しい表情は一瞬で崩れる。
「アリシア。あなたが栄光の光を抜けてネガール教を去った、という話を聞いてもしかして、っと思ったけど・・・・・・。案の定ね。」
やれやれ、と頭を軽く振り、近くに控える年上の騎士達に人払いを頼む。
「皆さん、お騒がせしてすいません。何でもないので解散してください。」
騎士達の誘導に多くの人達が仕方なく従う形で立ち去っていく光景にサイは何故だ、と叫ぶ。
「騎士メイリル、何故その不審者を捕らえないのですか?」
「不審者って、彼の身元なら判明しているわ。」とメイリルは改めてユグラシドへ視線を向ける。
「本当に久しぶりね、ユグ。元気そうでなによりよ。」
「5年ぶりですね、メイリル義姉さん。」
再会の挨拶を交わす二人に呆気を取られるサイ。
「騎士メイリル、どういう事ですか?」
「どうもこうもないわ。彼――ユグラシドは私の義弟よ。」
「ちょっと待って!」
とここで猛抗議にしたのはアリシア。
「違うでしょうメイリル。『私の』じゃなくて『私達の』でしょ!」
「あのねアリシア、あなたはユグと血の繋がりはないでしょう。」
「でもユーグは私の弟だもん。」と頬を膨らませユグラシドを抱きつく。
「はいはい。そうね。」
「騎士メイリルの弟?メイリルの実家であるリゴベルト家は確か一人娘のはず・・・・・・いや待てよ。確か・・・・・。」
頭の片隅からある情報を思い出したサイ。
不敵で意地汚い笑みが込み上げる。
「そういえばいましたね、財産目当てに娼婦の女が産んだ腹違いの弟が。母親が死んで天涯孤独となった事を聞き、心優しいリゴベルト家の当主――グレイブ=リゴベルト様が養子として迎えいれたのですが、その子供がかなりの不出来。学力は乏しく、剣などの武の才も下。そして魔法の才は皆無の劣等生。さらには素行も悪く、善人と言われたグレイブ様も匙を投げる始末。確か成人を迎える前に家を追い出されたはずですよね。」
「よくご存じで。」と答えたユグラシドに対して姉二人がすかさず否定。
「ユーグは勘当なんかされてないわ。それに劣等生でもないもん。」
「ユグ、あなたの悪い癖よ。自分の事を過小評価するの、いい加減に辞めなさい。」
「アリシア嬢と騎士メイリルはお優しいお方達です。家族という理由で彼を擁護しているのでしょう。ですがそれはその男にとってもそして貴女方にとっても何も得しません。彼を見捨てることを考えた方がいいのでは?」
サイの心無い提案に姉二人は過剰反応を示した。
「大きなお世話です!!」と大声で叫ぶアリシアとは対称にメイリルは怒りを静かに見せる。
「賢者サイ。ユグはね私にとって「メイリル、私達のよ。!」―――私達にとってかけがえのない大切な弟。その言動は失礼に値するわ。彼に謝罪を要求いたします。」
憤慨する二人の態度にサイは不味いと判断。
「言葉を撤回いたします。申し訳ございませんでした。騎士メイリル、アリシア嬢。」
謝罪する相手が違う事を厳しく言及しようとしたメイリル。しかしユグラシドがそれを止める。
「俺は別にいいよ。あれの言葉に何とも思っていない。謝られても困る。」
姉二人だけに聞こえたユグラシドの呟きにメイリルはおもわず苦笑。
「(賢者サイ様に対して「あれ」呼ばわり。相変わらず赤の他人に対しては無関心で冷酷非情ね。)とにかくどんな理由であれ街中で攻撃魔法の使用はご法度です。賢者サイ様であっても許されることではありません。屯所までご同行を。」
人垣を完全に追いやった騎士達に視線で合図。言い訳するサイを両脇に抱えこの場から連れ出した。
「ありがとうメイリル。」
「これぐらい動作のないわよ。」
「あ、そうだ。ねえメイリル、今晩時間空いてる?三人の再会を祝して食事にでも行かない?」
「とても魅力的な提案だけど、今日はちょっと立て込んでて無理ね。」
「まだ忙しいの?」
「ええそうね。一週間前に起きたシルバー・ブラッドの件でね」
「それはどういう事ですか?メイリル姉さん。」
シルバー・ブラッドという単語に目ざとく反応したのはユグラシド。
「あ、ユーグは知らないのよね。メイリルは今、騎士団の小隊長で同期の中で一番の出世頭なの。で今はシルバー・ブラッドの事件をずっと追っているのよ。」
シルバー・ブラッドとは今巷で有名な暗殺者の事である。
白銀の仮面に闇夜に紛れる漆黒のマントで正体を隠している為、性別不明で年齢不詳。
この3年もの間に100人以上が暗殺しているのだ。
暗殺方法は厳重な警備を掻い潜り標的を殺すこともあれば正面突破して全てを薙ぎ払うなど、多種多様。
さらに腕を払うだけで数m先の標的を切り裂く見えない斬撃を繰り出すことが出来るのだ。
彼が狙うのは悪事を働いている悪徳領主や商人、貴族ばかりで殺害現場には殺害報告と標的の悪事に関する証拠を常に置かれている。
「一週間に殺されたレイジャー子爵が裏で行っていた談合に関わった人物の逮捕に取り調べと。猫の手を借りたいほど忙しいのよね。だから数日間はちょっと無理ね。」
「そうなんだ。」
「落ち着いたら私から連絡するわ。そうそうアリシア、少しの間だけユグを借りてもいいかしら?」
アリシアの了承を得て、ユグラシドを少し離れた場所まで連れ出すメイリル。
「あの何か俺に用ですか?」
「ええ、ユグにはいろいろと言いたい事があるのだけど時間がないから今日は一つだけ。アリシアの様子はどう?」
「俺と再会が嬉しいのか、いつも以上に甘えていますけど。」
ここまでの経緯を手短に話すと「やっぱりね。」と納得顔で頷くメイリル。
「昔からアリシア姉さんは俺によく甘えてきましたけど、こんなにべったりではなかったですよ。ちょっと異常です。」
「それはユグ、あなたのせいよ。」
どうしてかの理由が分からず首を傾げるユグラシドにメイリルは盛大なため息を落とす。
「5年前、あなたが突然私達の前から姿を消したからよ。」
ユグラシドとアリシアはメイリルの実家―――リゴベルト家で暮らしていたのだが5年前、突如ユグラシドはリゴベルト家を出ることを選択したのだ。
「あなたにはあなたの考えがあって家を出た事は分かっている。でもせめてアリシアにはひと声かけるべきだったわ。あなたが黙って出て行った後、アリシアは憔悴。自殺まで考えていたのよ。」
メイリルの言葉に衝撃を受けて少し離れた――アリシアの方を見る。
「それはそうでしょう。両親を失って心の拠り所が欲しいのに。その拠り所までいなくなったのだから。あなたアリシアの気持ち、考えた?」
メイリルの叱責に俯くユグラシド。
その当時、自分の事しか考えておらずアリシアの心情に一切配慮がなかったことは事実であり、何も言えない。
「見ての通り、今はあれだけ明るく振舞っているけどユグが姿を消した5年間はアリシアにとってかなり苦痛な日々だったはず。その反動であなたに甘えているのよ。」
アリシアは昔から嫌な事や辛い事、不安な事があればその都度ユグラシドに甘えては癒されていた。
「そういう事よ。5年前の過ちと思ってしばらくは諦めなさい。」
「わかりました。アリシア姉さんが堕落しない程度に甘やかします。」
「ええそうして頂戴。」
これでアリシアの子守から解放された、と大きく背伸びするメイリルに離れた場所から「ねぇまだ~~。」と呼びかけが。
「もういいわよ~。それじゃあ行くわ。」
格好良くウインクを残して立ち去るメイリル。
「メイリルと何の話をしていたの?」の問いに素直に「姉さんを甘やかし過ぎないようにと、注意を受けただけですよ。」と答えた。