大衆
少女は、歌うことが好きだった。
新しい歌を創っては、周りの人に聞かせていた。
やがて少女の歌は評判となり、いつしか少女は国を代表する歌手となった。
だが、不幸は突然訪れた。
少女が歌うと、一つの命が消えた。
もう一度少女が歌うと、やはりもう一つの命が消えた。
それが幾度も重なり、少女は歌うことを辞めた。歌うことで誰かの命が亡くなるならば口を閉ざそうと、彼女は心に決めたのだ。
だが、周囲の人間は彼女の歌を欲した。
彼らは、彼女の歌に酔いしれてしまっていたのだ。
最初こそ少女は再び歌うことを拒んだのだが、彼らの必死の懇願に、彼女はついに折れて歌うことを決心した。
だが、その時彼女は彼らにこう言った。
「次に歌う時は、あなた方の誰かが犠牲になるかも知れませんよ」
それでも彼らは答えた。
「他人の命なんかどうでもいい。それより、キミの唄を聞かせてくれ」
その言葉を受け、少女は再び歌い出した。
それからというもの、少女を持て囃した人々の家族が、次々と命を絶った。
夫、妻、子ども、親戚、両親や愛玩動物も含め、悉く死に絶えた。
そこで、彼らは国王に訴えた。
「彼女が歌うと誰かが死ぬ。どうか、彼女の歌を禁じてくれ」
多くの嘆願が寄せられ、国王は少女に歌うことを禁じた。しかし少女は、国王にこう言った。
「それはおかしな話です。彼らは、私の歌で誰かが犠牲になることを望んだのです」
それに対し、国王は言った。
「そうだとしても、キミはもう歌ってはいけない。キミの歌は、ヒトを不幸にするのだから」
それでも少女は言い返す。
「ならば、彼らの言っていたことは嘘だったのですか。私は騙されたのですか」
震える少女に、国王は静かに言う。
「違うよ。あの時の彼らは本当のことを言っていたし、今の彼らも本当のことを言っている。誰も嘘は言っていない。ただ、彼らは強欲で、学ぼうとしないだけなんだ。可哀そうな彼らのことを、どうか恨まないでくれ」
そう言って、国王は泣きじゃくる少女の頭を撫でた。
少女はそれ以来、歌うことを止め、静かに暮らした。
誰もいない森の中、独りぼっちで。