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54 多分だいたい75%くらい

 ――なぜ私が、子供の姿から大人になっているのか。


 時間は少しばかり遡る。



 ***



 結子の部屋(仮)は、掃除こそ行き届いてはいないものの家具はや調度品はきちんとしていて、クローゼットの中もそこそこ揃ってはいた。さすがに部屋の中をごそごそと弄ることは抵抗があったけれど、勢いよく飛び込んだもののこちらは裸一貫である。さすがに何か、姿をごまかせるものがないかと必死に探した。私の幻術スキルは瞳の色を変えたり、イッチくらいのサイズの姿を消したりするぐらいで、それ以上は難しい。


「こ、これは!」


 私はクローゼットの中から見つけた黒い布を持ち出してぶるぶる震えた。お誂えにも、二枚ある。なんてことだ、嘘じゃん、運命的だと羽織った黒のローブ。これこそは魔道の塔の制服である。部屋のドアからちょこっと顔を覗かせてみると、想像よりも廊下には遮蔽物もなく、円形にぐるりと回っていた。姿を隠すことができる場所がどこにもないのだ。


 日が沈んでいるとはいえ、この魔道の塔、それなりに学生さんや教師がうじゃうじゃといるはずである。しかしこのローブを着ればあら不思議。学生さんのできあがりだ。

 いやあ、いたれりつくせり、最高最高、とロータスと一緒に着てみた。ロータスには随分寸足らずで長さが足りない。うむと彼は難しい顔をしていたけれど、着ることはできている。私といえば、長すぎて布の中で何かが蠢いているようである。足と手と胴体と全てが足りない。


「……帯に短しタスキに長しィ……!!!」

「オビ……?」


 なんでや、という気持ちを込めて日本語の文化を叫んだところ、ロータスはチベスナフェイスをしていた。異世界を越えさせてすまない。

 とにかく、長さが足りないのなら長くなればいいじゃない? とマリーアントワエル(たまになる)になったところ、中々素敵な状態になったため、エルにあ~~う! 超にあ~~う! ローブのために生まれてきた女~~!! とイッチ達がひゅうひゅうしてくれたので、とりあえず調子に乗ってみた。でも数秒後には冷静になってみた。大人エルになった場合、私は本来の色である赤目にバッチシ変わってしまうのだけれど、大丈夫だろうか? 魔族でございと宣伝しているようなものである。


 ローブにはフードがついている。深くかぶればこちらの表情は見えない。でも万一の際は真っ赤な瞳が丸見えだ。子供の姿だとローブはずるずるだし、まともに着ることができない。なんじゃありゃと周囲の視線はバシバシ独り占めだ。とても困る。


「ろ、ロータス、わ、私はどうしたら……!?」


 うわあと頭を抱えて大人の姿で悲鳴をあげた。ところで暴れると胸の重みをさらに感じて、普段のぺたぺたと比べてなにやら切ない気分になりそうである。そろそろ私、もうちょい成長したってよくない?


 ロータスは「んん」と唸って、考えた。とても真面目に考えてくれた。顎をひっかき、眉間の皺が深くなる。そしてこちらを見て、「どっちもどっちだな」「ンックーーーー!!!!」


 とりあえず短い時間で検討した結果、どうせちゃっちゃか逃げるのだから、魔族とバレたところで深いダメージはないし、動きやすく、ごまかしやすい方でいいのではと考えることにした。なので今現在、ロータスにとっては短いローブを着て、私はぴったり、でもちょっと長いサイズのローブでこそっと廊下を歩いて周囲を確認した。


 廊下には窓が点々と作られている。とっくに日は沈んでいるものの、換気のためだろうか。閉められることもなく開けられている窓もあった。熱がこもらないようにと循環の魔道具も使われているようだ。そのとき、いたずらな風がふいた。風はひゅるりと勢いよく私の下にすべりこみ、通り過ぎた。私のローブは巻き上がり、ばさばさと勢いよく服がはだける。まるでスカートが逆に持ち上がったような状況である。こんなことあるかよ。


 着込んでいるかと思われたローブの下には、むちむちすぎる太ももやら、激しすぎる谷間である。露出度はだいたい75%くらい、とリアルな数字が逆に辛い。


 ばさ……ばさ……ばさ……


 何事もなかったかのようにローブは静かに舞い落ちた。無言であった。ロータスは特に何も言うこともないが、ローブの下にはほぼほぼ水着が眠っていると思うと、より痴女度が上がってくるというものである。


 イッチ達は三匹ぼよんとおだんご状態になりながら、ほええとゆらゆら左右に揺れていた。


 ――エル、なんかちょっとやばくない?

「おだまり……!!」


 好きでこんな格好しとらんわ。

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